晴れときどき化学、ところにより雑想

もしかしたら何かの役に立つかもしれない化学のお話(と、よしなしごと)

ナポレオンのロシア遠征と錫(すず)について

2013年12月03日 23時59分54秒 | 化学のお話
ナポレオンのロシア遠征が失敗に終わった原因のひとつとして、錫(すず)の性質が挙げられています。

ナポレオン軍の兵士達の外套や上着、ズボンなどのボタンは全て錫で作られていて、これがロシアの冬の寒さによってボロボロになってしまい役立たなくなったことから、兵士達が冬の寒さに耐えられなかったのではないか、というのがそれになります。

※これはいわゆる「錫ペスト」と呼ばれる現象で、13℃以下になると、金属錫が結晶状態の異なる灰色のもろいものに変化してしまうというものです。
(少し詳しく言うと、β錫(白色錫)からα錫(灰色錫)への変化になります)。


ただしこの話は、逸話としては大変興味深いですが、いくつかの点で信憑性は低いようです。

その理由としては、

・「錫ペスト」は北欧において何世紀も前から知られていた現象なので、そのような性質をもつ錫を兵士の制服にわざわざ使用したとは考えにくいこと。

・いくらロシアの冬が寒いとはいえ、「錫ペスト」の進行はかなりゆっくりなので、ここまでの劇的な変化は現れなかったはず(実際には-30℃くらいで長期間保管されなければ起こらない)。

ということが挙げられます。


ナポレオン軍が錫を制服のボタンに使っていたかどうかは別としても、化学の知識と歴史の知識をあわせて考えると、様々な面白いことが見出せると思います。

歴史を読む際に、化学的な側面についても考えて見ると楽しいかもしれません。