ケミストの日常

大学化学系教員の日々考えること。
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子どもの甲状腺被曝調査 理解の仕方

2011-04-10 13:24:35 | 科学系
現在の、何があっても「安全・大丈夫」の押し付けの情報氾濫は、かえって不安を煽るような気がします。

かといって、確証のない不安材料の発信は混乱の元にしかなりませんので、現在の危険度を自分で計算してみて、「納得して怖がる」一つの材料を提供できれば、といくつか数字の根拠を追ってきました。

今気になっているのがこちらで、先日も引用しました(現在リンク切れですが)。

子どもの甲状腺被曝調査、いずれも基準値下回る
読売新聞 4月3日(日)19時51分配信
 枝野官房長官は3日の記者会見で、福島第一原発から30キロ・メートル離れたエリアの周辺で、甲状腺の被曝(ひばく)調査を行った15歳以下の子ども946人について、問題となる値は見つからなかったことを明らかにした。

 政府の原子力災害現地対策本部(福島市)によると、調査は3月28~30日に、福島県川俣町、飯舘村で行った。保育園などを通じて検査を呼びかけ、のどの放射線量を測定した。最高は毎時0・07マイクロ・シーベルトで、国の原子力安全委員会が示した基準値(同0・2マイクロ・シーベルト)を全員下回った。対象者には20キロ圏内から避難してきた子ども7人も含まれる。

 3月26、27日にはいわき市で同様の調査を137人を対象に実施しており、こちらも基準値を上回った子どもはいなかった。

 原子力安全委でこの結果を評価し、調査を継続するかどうか決める。飛散した放射性ヨウ素は甲状腺にたまりやすく、甲状腺がんの危険が高くなる。特に子どもで影響が大きいという。


「国の原子力安全委員会が示した基準値(同0・2マイクロ・シーベルト)」って何だ?、普通に感じることですよね?

実効線量と等価線量の混同によるリスクを過小評価した安全情報が流れました。

食物の暫定基準値をめぐる意味付けについての誤解による同じくリスクを過小評価した安全情報が流れました。

こっちは、どうなんだ?、というのが正直なところです。

これを理解するうえでは、もう一度、等価線量換算係数に戻って考える必要があるのですが、twitterの公開密談(?)とタイムリーなブログ過去記事へのコメントによって、一定の理解を得ました。

ご協力いただいた方々にまずお礼を申し上げます。



今日はいきなり表から。


一番左が年齢別の対象を、数値のE-4などの表記は×10-4のことで、1.4E-04ならば、0.00014のこと。

「実効」「等価」はそれぞれ、ヨウ素131経口摂取における、実効線量、等価線量の換算係数(mSv/Bq)です。

これらは、緊急時における食品の放射能測定マニュアルの36ページ別表4「経口摂取による実効線量及び甲状腺等価線量への換算係数」掲載の数値を拾ってきました。

(出典:平成12年度厚生科学特別研究「原子力施設の事故等緊急時における食品中の放射能の測定と安全性評価に関する研究」)とあり、孫引きと言う余りよろしくない作法ですが目をつぶります。

「Bq/mSv」「Bq/50mSv」は、逆数を取って、50mSv等価線量相当になるベクレル数を見積もる、に対応します。

詳細は、ヨウ素131の内部被曝による甲状腺への問題・再整理という記事で、食品中のヨウ素131の摂取による被ばくの程度の管理はMax.の摂取目安があったほうがいい、と言った話を参考。

その時はteam_nakagawaさんのブログ記事の換算係数を使いましたが、少年等にも言及する場合、同じ表から値を取った方が好ましいと考え、今回は、その時とは違う係数を使っています。

こっから先、過去記事で、曖昧な理解の部分の再修正が入ります。

「蓄積Bq」は摂取したヨウ素131がどれだけ甲状腺に蓄積されたかの目安で、摂取量(Bq/50mSv)の20%。

根拠ですが、六号通り診療所所長のブログの等価線量と実効線量の違いについてという記事
更には甲状腺への移行は、体液中に入った放射線の2割であると仮定した数値だ、という但し書きが付いています。

つまり、昨日ヨードシンチの話をしましたが、この実効線量の換算係数は、甲状腺に集まるヨードが、全ヨードの2割であると仮定しての数値なのです。

昨日の記事で触れましたように、甲状腺にどれだけのヨードが集まるのかは、その人の甲状腺の状態と、その時身体にヨードが足りているかどうかによって、実際には大きく変化します。
(改行位置変更)

過去記事では甲状腺の大きさと摂取量の違いで換算係数の違いが出るのだろうと漠然と理解していましたが、ヨウ素131の取り込みやすさに、年齢差は余りないようで、一律20%を適用でよいようです。

じゃあ、換算係数の違いは何かと言うと甲状腺の重さ。

「甲状腺/g」で、各年齢層の予想甲状腺重量を見積もりました。

見積もり方ですが、

蓄積Bq÷甲状腺重さ=kgあたりの蓄積量

において、kgあたりの蓄積量=160万Bq/kgになるように調整しました。

1回の崩壊で吸収する放射線量204keV
UNCERTAINTY OF THE IODINE-131 INGESTION DOSE CONVERSION FACTOR Table 1, Hamby, D.M.; Benke, R.R.; Radiation Protection Dosimetry. 82(4):245-256; 1999
oregonstate.eduにて公開より
内部被曝線量をきっちり計算してみるにてdephandsさんより頂いたコメントより。

有効半減期7.6日より1Bqが体内で崩壊する回数を95万回、
IODINE-131
Research Compliance and Regulatory Affairs, University of Cincinnatiより

160万(Bq/kg)×95万(回/Bq)×204,000(eV/回)×1.6E-19(J/eV)=0.050(J/kg=Sv)=50mSv 

蓄積量をkgあたりにして160万Bq/kgとすると等価線量が50mSvになります。
(あくまで概算です)

なお、ここで出した甲状腺の重さは、感染症の病理学的考え方ブログにおける、
放射線被曝に伴う甲状腺乳頭癌:東北地方太平洋沖地震:4日目
外科病理学より一部抜粋。
日本人の甲状腺の重さは出生時約1. 5 gである。年齢とともに増加し、20歳以上では、男性17-19 g、女性15-17 g。


とほぼ矛盾しません。



表の意味を説明したところで、現時点で甲状腺に表の「蓄積Bq」に相当するだけのヨウ素131が存在すると、将来50mSv被ばくするであろう、というのが考える上で基礎となる基準の一つ。

子どもの甲状腺被曝調査において出てきた、基準値(同0・2マイクロ・シーベルト)と対比しうる蓄積量の目安はおそらくこの値であろうと予想します。

それではこの0.2μSv/hの根拠はと言うと、twitterでいただいたアドバイスから、緊急被ばく医療研修のホームページより

3.頸部甲状腺に沈着した放射性ヨウ素の測定が参考になります。

頸部甲状腺部位の測定は、放射性ヨウ素の体内量のさらに精密な測定、医学的な診察等を行う二次被ばく医療のためのスクリーニング測定の一部として行われます。

スクリーニングレベルは、測定時3KBq


3kBq=3000Bqだと乳児の蓄積量と同じくらいではないか?、と思うところですが、おそらく、ここで0.2μSv/hの基準値が出てくると推測(あくまで推測)。


図4-2:年齢層別甲状腺(ファントムによる)中の131I残留量とサーベイメータ指示値との関係
(Tanaka,G.,Kawamura,H.,J.Radiat.Res.,19,78-84(1978),および科学技術庁、“緊急時における放射性ヨウ素測定法”、放射能測定シリーズ15、P24(1977);ただし、単位をSIに変えたもの。)


図を1枚もらってきましたが、「両型式のサーベイメータについて、オリンスファントム中に模擬ヨウ素線源(日本アイソトープ協会で購入できる)を挿入して換算係数を実測し、比較したものを表4-1に示します。」ということで、何らかの模擬試験用の人体モデルでしょうか。

年齢によって甲状腺I-131蓄積量に対する指示値が違うことが分かります。

甲状腺が年齢によって大きさが違うので、検出器の発生するγ線の検出効率が低下するのでしょう。

スクリーニングレベル3keVをこの図から読み取ると、

20以上 0.12 μSv/h
14歳 0.21 μSv/h
3歳 0.24 μSv/h
0歳 0.38 μSv/h

14歳0.2μSv/hを基準として、0.2μSv/hの甲状腺蓄積量を読み取り、50mSv被曝相当の蓄積量と比較します。

20以上(大人)で0.2μSv/hの測定の時、5kBqのI-131蓄積、50mSv被ばく相当の31kBq蓄積の16%に相当。
14歳(少年)で3kBqのI-131蓄積、50mSv被ばく相当の13kBq蓄積の23%に相当。
3歳(幼児)で2.5kBqのI-131蓄積、50mSv被ばく相当の6.7kBq蓄積の38%に相当。
0歳(乳児)で1.6kBqのI-131蓄積、50mSv被ばく相当の3.6kBq蓄積の44%に相当。

くらいの対応になります。

測定誤差を考慮すれば、0.2μSv/hは「現時点で甲状腺に蓄積した将来50mSv被ばくするであろうヨウ素131の量を基準」でいいのかなと思います。

記事によれば、少年の0.07μSv/hが最高ということで、仮に15日に全量被曝して減衰した後の測定であったとしても、過去の甲状腺の蓄積を加味しても積算50mSvは超えないであろう、と予測がつきそうです。

乳児幼児は少し微妙かもしれませんが、現時点で判断する限りほとんどの若年層においてI-131の甲状腺等価線量は50mSvを下回っていそう、と判断できそうで、今後の経口摂取を気にすれば、トータルの被ばく量は原子力安全委員会や食品安全委員会の出した年間50mSvに対応したリスク管理が可能な気がします。

※本当に50mSvでいいかという議論は別にあることに注意。ただしこれは私の守備範囲外。

※追記 やっぱり書いときます。
---
調査は3月26、27日にはいわき市、3月28~30日に、福島県川俣町、飯舘村

測定方法を見ると
(2)頸部甲状腺部位の測定の方法

1. 近くに線源や汚染のないとき、測定場所のγ線のバックグランド線量率を測 定します。
2. NaIシンチレーションサーベイメータの検出部の先端を、男性では甲状軟骨 (“のどぼとけ”のある位置)の下に付け、女性では頸部中央に付けてできるだけ 密着させて測定します。測定は、20秒間以上その状態を保持した後、指針のふれの平均(μSv/h)を読み取って、記録します。そして、指示値とスクリーニン グレベルに対応する値 (μSv/h)と比較します。 (スクリーニングレベルは、測定時3KBqです。)
3. 読み取った指示値(μSv/h)からバックグランド線量率を引き、その答えに換 算係数を乗じ、甲状腺における131I残留量を算出します。


人間に密着して甲状腺からのγ線をしっかり計測する、そういった方法で測定するわけですが、環境バックグラウンドがいわき市で1~1.2μSv/hくらい、川俣・飯館では10μSv/hかそれ以上。

甲状腺から放出される放射線として検出した値の0.07μSv/hは、レシピ通りで測ったとすると、検出器先端に「人」で蓋をして環境バックグラウンドを測っているようなもので、その状態での+0.07μSv/hだとすると、怖いなあ、という気がしないでもない。

現場で実際に採用した測定方法の公開があるともっと安心できる。
---



なお、先日SPEEDI結果を改めてで話題にした吸気による被ばく予測ですが。


ヨウ素131の摂取経路は
1.原発から直接大気に放出されたヨウ素131を吸い込むもの(SPEEDIによる予測)
2.降下したヨウ素131の再浮遊物を吸い込むもの(予測不能)
3.飲料・食品中に含まれるヨウ素131の経口摂取
4.接触による汚染が様々な経路を経由して口に入ってくるもの

に分類できそうです。

楽観的に解釈すると
1.SPEEDIは連続して屋外にいたと仮定した場合の予測で、季節的なこと(寒さ)もあり地震・津波の後の生活において乳幼児がそれほど外に出ている時間数が短く屋内にいて被ばくがおさえられた。被ばく予想量の多い地区のほとんどは避難済み。SPEEDIの予測エラーの可能性は否定しないが、この予測としても現状を理解可能。
2.それほどマジョリティーを占めなかった
3.水道やガスが地震と津波で止まり、給水非常食に頼っていたので経口摂取が低い
4.それほどマジョリティーを占めなかった

くらいでしょうか。

※ 本来は政府がこうした丁寧な説明をしたり、メディアで報道発表の裏付けをとるなりすべきなのだけどね。
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2 コメント

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まったく仰る通りです (ebi)
2011-04-20 03:59:17
> 本来は政府がこうした丁寧な説明をしたり、メディアで報道発表の裏付けをとるなりすべきなのだけどね。

政府の方で組み込んだ意図があるのでは?と余計な杞憂もしてしまいますし(と言いつつ、それが故に政府の結論的見解のみを占めるのでしょうが)、いろんな人が個々に推測してたりして、二度手間ですし。


Unknown (chem@u)
2011-04-20 21:53:10
丁寧な説明をしないから、疑心暗鬼による不信が広がり、意図的な情報操作が疑われる、悪循環ですよね。

本来の専門家からの情報発信も余り見当たらず、あっても安全を強調するだけで根拠となる説明が不足。

本来は政府の情報発信の不備を補う役割を期待されるところも機能していない。

化学物質のリスクコミュニケーションではありえない状況が続いていますね。

なんとももどかしいです。

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