ケミストの日常

大学化学系教員の日々考えること。
HNはchem@uと省略してます。

広告

※このエリアは、60日間投稿が無い場合に表示されます。記事を投稿すると、表示されなくなります。

ゼオライト 土 粘土 セシウム に関する話題

2011-04-16 12:39:58 | 科学系
現在、地上ではヨウ素131の影響は徐々に小さくなってきていて、セシウムに注目が集まっています。

また、原発内部の溜まり水の中のセシウムにも注目が集まっています。

ゼオライト、汚染水対策に=放射性物質吸着、冷却再利用も―福島第1原発・東電
時事通信 4月16日(土)6時2分配信
 福島第1原発事故で、東京電力は16日までに、海中の放射性物質が拡散するのを防ぐため、「ゼオライト」という鉱物を取水口付近に投入した。放射性物質の吸着効果が確認されており、今後、建屋内の水の汚染軽減に活用することも検討している。
 ゼオライトは、1979年の米スリーマイル島原発事故でも汚染水の除染に使われた。微細な穴を多数持ち、1キロ当たり、放射性セシウム6グラムを吸着することが、東電が海中で実施した試験で確認されている。
 東電は汚染水拡大を物理的に防ぐ水中カーテン「シルトフェンス」に加え、ゼオライト100キロを詰めた縦、横、高さ各80センチの大型土のう3袋を取水口付近に投入。このほか計7袋を用意しており、17日以降も投入を継続する。
 東電は今後、投入したゼオライトの吸着効果を詳しく分析。原子炉冷却のため注入した水や、タービン建屋などにたまった水の汚染をゼオライトで軽減し、冷却に再利用できるか検討する。 


既に別記事のついでに軽く触れていますが、今日は共通教育での一回分の話題提供になりそうな講義メモ的なものを残してみます。

原子は、陽子と中性子からなる原子核とその周りをまわっている電子からなります。

陽子の数が原子番号に対応して個々の原子の性質を決める要因になり、包括的に原子の議論をする時は元素と呼びます。

陽子の数と電子の数は全ての元素で同じ、化学反応とは、原子核を回る電子の原子間でのやり取りに起因します。

陽子の数が同じでも中性子の数が違う原子が存在し、これらは同位体と呼ばれ、安定なものを安定同位体、不安定なものを放射性同位体と呼びます。

元素の化学的性質は陽子の数によって決まりますので、安定同位体・放射性同位体含め全ての同位体が同じ化学的性質を示します(重さが違うので、重さの違いによる分離などは可能ですが)。

セシウムは原子番号55の元素で、中性子78個を持つセシウム133が、安定同位体で、天然存在比は100%です。

ウランの核分裂によって、生成されるセシウムの放射性同位体が半減期二年のセシウム134と半減期30年のセシウム137です。



原子番号の増加とともに周期的に同じような性質を持つ元素が現れ、これをわかりやすく示したのが周期表です。

セシウムは、ナトリウムやカリウムなどと同じ、周期表の一番左端に位置しアルカリ金属に分類されます。

アルカリ金属は、化学反応において電子を一個放出したイオンの形態で化合物をつくったり溶液中に溶けていたりするのが、安定な状態となります。

電子を失っているので陽イオンとか、一価の陽イオンとか、単にイオンとかカチオンとか、色々な表現がされますが、基本的にイオンと明示されていなくても、原発関連でセシウムが話題になっている時には、この一価の陽イオンの状態にあります。

元素記号とか化学式とか使うと

Cs → Cs+ + e-

で、e-は電子、Cs+がセシウムイオンです。

セシウムイオンは他のアルカリ金属と性質が似ていて、生体内ではカリウムイオンに似た動態を取るとされています。

アルカリ金属のほとんどの化合物が水に溶けやすく、また原発内部の放射性物質のうち、希ガスやヨウ素を除くと比較的揮発性が高いので、事故の際には環境に出てきやすい、と言えます。



で、出てきたものを捕まえるにはどうすればいいかというと、相手はイオンですから、イオンを選択的に捕獲する物質を使って取り除くことが原理的には可能です。

上で引用した新聞記事も、「ゼオライト」という物質をつかって選択的にセシウムを取り除くということに言及していますが、それではゼオライトとはどんな物質でしょうか。

地球に存在する元素の半分は酸素、1/4はケイ素です。

ケイ素(Si)の酸化物(SiO2)は単独でまたは他のアルミニウムやアルカリ・アルカリ土類金属などと一緒に多様な化合物をつくります。

例えば、先日話題にした粘土も、ケイ素とアルミニウムが層状に並んだ化合物です。

正四面体が平面に並んだ層に注目してください。

6個の正四面体が6つつながった六角形が層内にできていることが見て取れると思います。

これを六員環と呼びます。

ケイ素の酸化物の多様性はこの正四面体のつながり方のバリエーションに起因します。

正四面体だけで三次元的につなぎ合わせていけば、ダイアモンドの結晶構造に類似したつながりの構造ができてきて、これが結晶としてのSiO2で、並べ方によっては水晶なんかにもなります。

平面に並べて他の酸化物と組み合わせると粘土に、直線状にのばせばアスベスト(石綿)の構造が出来上がります。

ゼオライトはこの正四面体が8~12こで一つの環を作っていて、この環の形やつながり方によって多様な構造のものが存在します。

一例がこちらのデータベースに。

三つのアルファベットの記号が、対応する構造の略称で例えばAFIをクリックすると以下のような画像が確認できます。



棒の交点がSiの場所、棒がSi-O-Siの結合に対応します。

12員環が1次元方向に並んだ構造をしているのがわかると思います。

12員環くらいの大きさの孔があると、結晶構造の中に、他のイオンを取り込むことができます。

ゼオライトの骨格のSiの一部をAlに置き換えると、置き換えた数の分だけ、余分に陽イオンを孔に取り込むことができるようになります。

この陽イオンは、比較的容易に出入りできるので、周りの条件に対応して「イオン交換」が起こります。

アルカリ金属の陽イオンは比較的似た性質を示しますが、イオンの大きさは違います。

Cs+>K+>Na+

今回話題になっているゼオライトがどんな結晶構造のものかはわかりませんが、孔の大きさとイオンの大きさのバランスによって、特定のイオンを選択的に取り込むことができるようになります。

今回のゼオライトは、Na+がたくさんある海水中でCs+を捕集できるようですから、Cs+の選択性が比較的高いのだろうと想像できます。



海水中のゼオライトはセシウムを集積して放射性物質の環境への広がりを抑えることが期待できますが、一方で陸上ではどういったことがあるかと言うと。

陸地の土の主成分が粘土。

粘土も層構造と層構造の間に空隙があって、層内の元素の置き換えによって、この空間内にイオンを取り込むことができるようになったものが多種あります。

一例。


水色(四面体層)-ピンク(八面体層)-水色(四面体層)-空隙

のならびの空隙のところに陽イオンが集まり易くなっています。

Eとあるのがイオン交換可能という意味で、ここにセシウムイオンが捕集されると、いつまでも層内に留まって、でてこない、ということになります


原理は同じイオン交換でも、海中では捕集を目的に、陸上では捕集が放射性物質の汚染の恒常化につながって困る、ということになります。

地表でのセシウムの動向は今後の雨の降り方によっても変わってくると予想されます。

強い雨で多量の水が一時に供給されたら、粘土の表面への吸着のみのものが大半溶けて流され、ということもありえますし、地中深いところまで、汚染が広がって対応が難しくなるかもしれませんし、層間に入って強くくっついてでてこないかもしれません。

降水量と地域の線量の時間変化を追えば、ある程度どんなことが起きているかを推測できるので、興味を持って観察しています。

ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 福島県の放射線量を考える | トップ | 空間線量の時間変化を示す図... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

関連するみんなの記事

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。