ケミストの日常

大学化学系教員の日々考えること。
HNはchem@uと省略してます。

放射性物質放出量の推計に関する、「ん?」

2011-04-12 17:39:11 | 科学系
福島第1原発 最悪レベル7 チェルノブイリに並ぶ
毎日新聞 4月12日(火)11時45分配信
政府は12日、東京電力福島第1原発1~3号機の事故について、原子力施設事故の深刻度を示す国際評価尺度(INES)で、最も深刻なレベル7(暫定)に相当すると発表した。

チェルノブイリ事故で放出された放射性物質の量は520万テラベクレル(ベクレルは放射線を出す能力の強さ、テラは1兆倍)。これに対し、今回の事故で放出された量を、保安院は37万テラベクレル、内閣府原子力安全委員会は63万テラベクレルと推定している。


3月23日に発表されたSPEEDIの一歳児被ばく甲状腺等価線量の試算の際に、3万~11万TBq以上の放出、とされ、その後も大気中への放出は抑制傾向にあっても、事態の収拾など当面は無理と言った状況でした。

常識的には、既にレベル7との判断があって、後はいつそれを公表するか、そういったタイミングを見計らっているのだろう、と見ていましたが、ようやく、日本では起こらないとされた、レベル7の事故だと、公式に認められたことになります。

あわせて原子力安全委員会から

福島第一原子力発電所から大気中への放射性核種(ヨウ素131、セシウム137)の放出総量の推定的試算値について(2011.04.12)

という資料が公開されました。

要点を抜粋すると
what 原子力発電所から大気中に放出された特定の放射性核種の放出総量の推定的試算

who 原子力安全委員会 日本原子力研究開発機構の協力
when 平成23 年4 月12 日
where 福島第一原発から
why 推定的試算を行った大気中に放出されたヨウ素131、セシウム137 は、事故発生から終息までの周辺の被ばく線量を評価する上で重要
how 現在まで得られている環境モニタリング等のデータと大気拡散計算から特定の核種について大気中への放出量を逆推定する手法


5W1Hにそって並べてみました。

必要最低限の情報が資料の中に入っていますね。

その結果ですが、
ヨウ素131 とセシウム137 について、3 月11 日から4 月5 日までの大気中への一部の核種の放出放射能総量として、ヨウ素131 が1.5×1017Bq、セシウム137 が1.2×1016Bq という推定的試算値

1.5×1017Bqは1.5×105TBq=15万TBqに相当しますから、SPEEDI試算時よりも、大目になっていますね。

記事の「原子力安全委員会は63万テラベクレルと推定」との差は、おそらく希ガス(Xe-133など)の分でしょうか。

今回、この記事に言及したのは、タイトルにある通り、「ん?」があったから。

クリックして別窓拡大

これは、放出された放射性元素の量の日ごとの変化(積算値)ですが、この図を見て、どう思うでしょうか。

食品中の放射性物質の暫定基準値の解説のからみで、暫定基準値が通年同濃度摂取ではなく一回の汚染でその後減衰するものを摂取するという前提で設定されている、ということが、ようやく公に騙られる語られる(ヒドイゴヘンカン)ようになりました。

その際に「今回の事故は大きな排出イベントは3月15~16日あたりの1回だと思われるので、暫定規制値の計算根拠と整合的だが」( 岸本充生 基準値の根拠を追う:放射性ヨウ素の暫定規制値のケース)といった説明がされるようになっています。

この図をみると、確かにそうだね、と納得されやすいですね。

ここに、図を作成するさいの「意図」があったりはしないか?、と考えてしまいます。

ちょっと空白をあけて、意味深なタメを試みてみます。











グラフから数値を読み取って、これをプロットしなおしたのが次の図。



数値の読み取り誤差が大きいので、正確性の担保は微妙ですが、大まかな傾向をつかむ目的には十分だと思います。

3月15日、1日で6万TBqの放出
以降、3月24日までの9日間、1日1万TBq平均放出、
合計して15万TBq(本文記載)になる、

これが、本来、時間変化として伝えるべき情報のはずです。

原子力安全委員会の作成した資料の図では、Y軸を対数にして表示することで、3月15日に大量放出があって、以降の放出は「ほぼ収まっている」との誤解を見たものに与えないでしょうか。

1日当たり1万TBqの放出が実は3月24日までは続いていた、放出が抑制傾向となったのは、3月24日以降、そう認識すると、食品の管理に暫定基準値を適用することの妥当性について、議論が必要になることはないでしょうか。

少なくとも1日1万TBqの放出が続いている状況では「今回の事故は大きな排出イベントは3月15~16日あたりの1回だと思われる」ではなく「大きな放出は10日程度続いた」と判断を改めるべきでしょう。

この結果がなくとも、暫定基準値を切ったそばから規制を解除して市場に流れていけば、疑似的には「通年同濃度摂取」的状況が生まれかねないことにちょっとした懸念を感じていました。

子どもたちのためにも、情報は正しく認識したいと思います。
ジャンル:
ウェブログ
コメント (15)   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 避難処置に関するメモ | トップ | 管理の基本は密封と希釈 »
最近の画像もっと見る

15 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
まだある (スペード5)
2011-04-13 01:19:18
この切り口はよく理解できました。
これが10、100、1000のY軸なら理解できたのでしょうが・・・

で、この切り口以外にも、マスコミで解説している専門家に怒っています。
放出量からチェルノブイリの1割とそのまま計算して説明しているようですが、専門家は十分承知の「大気中に放出された」を言わないために、かなり高濃度の放射性物質の海洋への流出は一般の国民には知らされていません。
専門家の都合の悪いところはコメントしないで誤魔化そう的なやりようは非常に危ういものです。
追記 (スペード5)
2011-04-13 01:23:54
説明が足りませんね。
海洋に放出された放射性物質の積算量が加算されていない(魚には影響がないという専門家の意見を覆した汚染状況のレベルであるのに)ということを国民に説明せず、チェルノブイリとの違いを述べていますが、海洋への大規模な汚染は確かにチェルノブイリとは違いますね!!
Unknown (chem@u)
2011-04-13 08:41:11
コメントありがとうございます。
海洋への汚染はまだ放出量に算定されていないから、こちらがどの程度かによっては、チェルノブイリにどんどん近づきそうですね。

現在は「死人は出ていない」「放出が少ない」をチェルノブイリ未満の根拠としてますが、いずれは、「死人は出ていない」のみをチェルノブイリとの違いとして主張することになるかもしれません。

原発はあいかわらずの状態で消耗戦的お守りが必要なまま。
長期対策の基準 (コンタン)
2011-04-13 14:22:35
「緊急事態対応判断基準等に関する調査」について(H19 原子力安全委員会)
http://kokai-gen.org/html/data/20/2010317002/2010317002-27.pdf

が、放射性セシウムの長期対策について報告しています。
これを見ると、チェルノブイリ後、旧ソ連諸国で、食品中のセシウムの基準が引き下げられているのが興味深いです。

日本の暫定基準、Codex、EU、FDAなどの基準は緊急対策基準なので、日本も長期対策としてこのくらいに基準を厳しくするべきでは、と思います。
Unknown (chem@u)
2011-04-13 17:58:08
コメントありがとうございます。

このブログ的には基準の妥当性についての言及は避けています。

ヨウ素131も食品安全委員会では50mSvの甲状腺等価線量を基準にしてますが、team_nakagawaさんのブログでは「世界保健機関(WHO)では甲状腺等価線量で25mSv(ミリシーベルト)を緊急時の安全基準」といったことも紹介されていたりします。

政府が基準を決めて一律に適用すると、個人の事情によるリスクとベネフィットのバランス下限の違いに適応できなくなります。

政府の基準は強制力を持たせて介入するための根拠という背景を持った基準と認識し、各自でどの基準を元にして内部被ばく量をコントロールするかを決めるしかない、と思います。



Unknown (koneko)
2011-04-13 23:32:22
ご紹介のグラフで、大気中への放射線物質の放出状況が理解できました。そうとは知らず15日に外にいたのが残念です。

ご紹介の記事で、
>ヨウ素131 が1.5×10**17Bq、セシウム137 が1.2×10**16Bq という推定的試算値

ですが、重さで換算すると、
ヨウ素131が、1gあたり4.6x10**15Bq
セシウム137が、1gあたり3.2x10**12Bq
ですから、
ヨウ素131が33g, セシウム137が3800gとなり、セシウムの量が意外に多いように見えます。高濃度汚染水にも大量に含まれている可能性もありそれも心配です。
Unknown (chem@u)
2011-04-14 18:24:51
g表示にすると、崩壊速度の遅い核種は多くなりますね。

それでも例えば大量に空中に放出されて現在陸上の高濃度汚染が問題になっている、20000Bq/kgといった地域のセシウム137の汚染をgにすると6.3E-9g程度。

1kg中の6.3E-9gは一兆分の6.3ということで、6.3pptという表示になります。

これって、放射線の検出という手法ではディテクとできても、通常の化学分析だと結構分析が難しい濃度範囲です(ICP-MSならできるかも)。

g表示は小さくなりすぎて放射性物質の量の表記にはあまり適当でないので、Bqで考えたほうがいいと思います(比例関係ですし)。
Unknown (MAKIRIN)
2011-04-14 23:24:17
63万テラベクレルという量はヨウ素換算値という量らしく、ヨウ素131の放射能+セシウム137の放射能×40で求めているようです。
http://www.meti.go.jp/press/2011/04/20110412001/20110412001-1.pdf
(セシウム137の影響について40倍する根拠が不明ですが、半減期が約1360倍、ヨウ素131に関しては甲状腺等価線量で考えるとして1360÷20=68と関係がありそうですが)

比較として挙げられているチェルノブイリ原発事故の値520万テラベクレルですが、これは4月26日(事故直後)換算値というものを用いて求めたもののようです。
ヨウ素131は半減期が8日と短いので、いつ計測した量なのかで総量が大きく変わってしまします。5月6日換算値(事故10日後)では
4月26日換算値の約40%ぐらいという感じに。
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/JHT/JH9604A.html

したがって、チェルノブイリ事故の放出量と比較するのに適当なヨウ素131のデータは、日々の放出量をベータ崩壊で残った核の割合で割った量(放出量×(1.09)の(経過日数/日)乗)を足し上げたものかもしれません。
この計算をしてもヨウ素131の放出総量は20~30パーセントの上乗せぐらいかもしれませんが。
「通年同濃度摂取」的状況 (takeshi6925)
2011-04-15 01:15:17
はじめまして。いつも貴重な情報ありがとうございます。他の記事も含めてご見解に賛同します。

>「通年同濃度摂取」的状況が生まれかねない

そうですね。基準値自体の妥当性以外にも、現在の体制では、流通個体の濃度がどの程度制御されてるかも怪しく、運悪く基準値大幅超個体にあたってしまうリスクが気になります。
ほぼノーリスクの牛は全頭検査してたのに。。
Unknown (MAKIRIN)
2011-04-15 06:10:57
線量換算係数の比をさらにかけると、
1360/20×(0.013μSv/0.022μSv)≒40
となるので、これでヨウ素換算値はセシウムの放射能を40倍して足しているんでしょうかね。

また、15万テラベクレルには、ベータ崩壊で核の数がどんどん減っていく効果がすでに入っているかもしれないですね。実際のところは、どう放出量を見積もったのか調べないとわからないですが。

Unknown (chem@u)
2011-04-15 12:12:26
MAKIRINさん

ありがとうございます。

そうすると希ガスの放出は無視ということですか。

15、16日に千葉で結構の濃度で検出されてるし、初期の頃の放出では無視できないと思いますけど。

http://www.jcac.or.jp/lib/senryo_lib/nodo.pdf

Unknown (chem@u)
2011-04-15 12:16:21
takeshi6925さん

コメントありがとうございます。

検査漏れ・検査ミスでの市場の流通、暫定基準値の意味合いを考えると、少なくともヨウ素131の影響の残る間は思い切った政策が必要ではないかと個人的には考えています。

> ほぼノーリスクの牛は全頭検査

あのころが懐かしいです。
セシウム40倍の根拠 (dkpp)
2011-04-15 20:57:16
はじめまして。

対数グラフは変だと思って検索してたどりつきました。線形グラフありがとうございます。

ところで、セシウムや希ガスの換算係数ですが、リンク先のINESのユーザーズマニュアルの16ページの表に係数が記載されています。
Cs-137は、40倍
希ガスは、Negligible (effectively 0)
Unknown (chem@u)
2011-04-15 21:36:13
ありがとうございます。

線形のグラフは対数グラフのデータ点から値を直接読み取ってるので誤差大です。

このグラフでは23日の放出が多いように見えますが、読み取り誤差なのか実質なのかは不明です。

希ガス無視ってのは、ちょっと納得いかないですけど、そういう扱いなら仕方がないですね。

確かに一過性で地上に堆積しないし、内部被曝も事実上無視できるし。
Unknown (MAKIRIN)
2011-04-15 22:20:33
dkppさん
INESのユーザーズマニュアルの情報ありがとうございます。

そのAppendix Iにヨウ素換算値の換算係数の算出方法があるということで読んでいたのですが、
吸引による実効線量換算係数に1秒あたりの呼吸量をかけたものと、土地に蓄積された放射性物質の再浮遊も考慮した単位面積たりの50年間分の実効線量換算係数に蓄積速度?というものをかけたもの和が、ヨウ素131の場合の何倍になっているのかを表したものなんですね。

希ガスの場合は体内に蓄積されづらいということで、実効線量換算係数小さく、ヨウ素換算値の係数が0とみなせるということでしょうか。

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。