ケミストの日常

大学化学系教員の日々考えること。
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team nakagawa 『「暫定規制値」とは』の説明について

2011-03-30 20:40:22 | 科学系
「暫定規制値」とはという記事を上げているteam_nakagawaさんですが、どうも数字が変な点がありますので、書いておきます。

TBが行かないようなので、長めの引用をしますが

まず、日本での放射性ヨウ素の暫定規制値が、甲状腺等価線量50mSvからどのように求められたかを説明します。

【飲食物摂取制限指標の考え方】
ヨウ素は様々な食品からとりこまれますが、その2/3を「飲料水」(水)、「牛乳・乳製品」(牛乳等)、「野菜(根菜や芋類を除く)」(菜類)から取り込むと考えます。

すなわち、甲状腺等価線量の上限である1年間あたり50mSvを被ばくした場合、そのうち33.3mSvを「水、牛乳等、菜類」から摂取したと考えます。

その寄与が均等であると仮定して、「水、牛乳等、菜類」の摂取それぞれから1年間あたり11.1mSvを被ばくの上限と考えます。

成人、幼児、乳児に対する放射性ヨウ素の摂取制限量は次のように求めます。まず、年齢階級により「甲状腺等価線量換算係数」と摂取する飲食物の「種類と量」に違いがあります。

なお、「甲状腺等価線量換算係数」とは、次のものです。まず、「1秒間に1つの原子核が崩壊して放射線を放つ放射能の量」が「1Bq(ベクレル)」。この係数は、「1Bq(ベクレル)」あたり、どれだけの「放射能と放射線の生物に対する影響の度合い」(mSv〔ミリシーベルト〕)をもつか、を示すものです。

それぞれの甲状腺等価線量換算係数(mSv/Bq)と、1日あたりに摂取する飲食物の量(キログラム)は以下を用いています。

甲状腺等価線量換算係数(mSv/Bq)(放射性ヨウ素131〔I-131〕の場合)
成人0.00043幼児0.0021乳児0.0037

水の摂取量(kg/day)〔1日あたりのkg数〕
成人1.65幼児1.0乳児0.71

牛乳等の摂取量(kg/day)
成人0.2 幼児0.5乳児0.6

菜類の摂取量(kg/day)
成人0.4幼児0.17乳児0.07

1年間の甲状腺被ばく上限値11.1mSv(ミリシーベルト)に対して、「成人、幼児、乳児」の、「水、牛乳等、菜類」で許容される1キログラムあたりの放射能(ベクレル〔Bq/kg〕)は、時間とともに放射能が次第に減少することを考慮した式を用い、「水、牛乳等、菜類」の摂取それぞれから、1年間あたり11.1mSv(ミリシーベルト)を被ばくの上限として、「許容放射能量」を決めています。

また、本来は市場における希釈や加工による除染などの効果もありますが、より厳しい制限をかける為に、これらは考慮していません。放射性ヨウ素については以下の数値となります(I-131, I-132, I-133, I-134, I-135をすべて含む)。許容放射能量ですので、単位は「Bq/kg」です。

水  成人1,270 幼児424  乳児322
牛乳成人10,000  幼児849  乳児382
菜類成人5,220  幼児2,500  乳児3,280

 暫定規制値は“一番小さい値を超えないように”決められます。言い換えれば、水や牛乳の暫定規制値は、乳児がそれらを摂取して1年間で11.1mSvを超えないように決められ、同様に、菜類は幼児がそれを摂取して1年間で11.1mSvを超えないように決められます。結果として「飲食物摂取制限に関する指標について」では、暫定規制値として1キログラムあたり、以下のように決めています。許容放射能量ですので、ここでも、単位は「Bq/kg」です。

 暫定規制値
水  300
牛乳等300
菜類2,000


「日本での放射性ヨウ素の暫定規制値が、甲状腺等価線量50mSvからどのように求められたか」

「甲状腺等価線量の上限である1年間あたり50mSvを被ばくした場合、そのうち33.3mSvを「水、牛乳等、菜類」から摂取」

「寄与が均等であると仮定して、「水、牛乳等、菜類」の摂取それぞれから1年間あたり11.1mSvを被ばくの上限」


ここまでは、以前調べた原子力安全委員会資料と同じ。

「「1秒間に1つの原子核が崩壊して放射線を放つ放射能の量」が「1Bq(ベクレル)」。「甲状腺等価線量換算係数」は、「1Bq(ベクレル)」あたり、どれだけの「放射能と放射線の生物に対する影響の度合い」(mSv〔ミリシーベルト〕)をもつか、を示すもの」

ここまでは問題ないですね。

「甲状腺等価線量換算係数(mSv/Bq)(放射性ヨウ素131〔I-131〕の場合)
成人0.00043」


0.00043mSv/Bq=0.43μSv/Bq、この数値は内部被曝線量をきっちり計算してみるで出てきた数値(=0.46μSv/Bq)と基本的に同じです。

team_nakagawa資料では成人の甲状腺等価線量換算係数が、3.2×10-4 mSv/Bq。

ここら辺の値のばらつきは、摂取量のうちどれだけ甲状腺に取り込まれたかの違いに基づきますので、この位の誤差のある計算何だな、個人差があるんだな、位で認識します。

ヨウ素131は甲状腺への寄与がほとんどですので、全身への実効線量を問題にする場合は、2.2×10-5mSv/Bq=0.022μSv/Bqこの換算係数が使われます。

今回は、甲状腺被ばく上限値11.1mSvですから、使う換算係数は実効線量への係数ではなく、甲状腺等価線量への換算係数です。

11.1mSv/0.00043=25814Bqが摂取上限値になります。

一日当たりでは70Bqとなります。

年の最後の一か月に摂取した分については、被曝が翌年持ち越しになるので、ずれが生じますのでこの分の補正をして330日分としても、78Bqが上限です。

水の摂取量(kg/day)〔1日あたりのkg数〕
成人1.65


ということで78Bq/1.65kg=50Bq/kgが上限となるはずですが。

1年間あたり11.1mSv(ミリシーベルト)を被ばくの上限として、「許容放射能量」を決めています。
許容放射能量ですので、単位は「Bq/kg」です。

水  成人1,270 


やく、20倍になっています。

何でこんなに違った数字になるのでしょうか?

Makirinさんがコメントを入れてくださっているのでそれに沿って考えていきます。

11.1mSv/0.00043=25814Bqが摂取上限値になります。

一日当たりでは70Bqとなります。


どうやらここにずれの原因があったようです。

化学物質の管理においては「その量を生涯摂取し続けても・・・」という考え方が前提にあります。

なので、摂取上限を一年365日で割って一日当たりの上限を考えていました。

放射性物質は、時間とともに、その量が減少していきます。

今日100Bq/kgの水は8日後には50Bq/kgになっていると計算されます。

こうやって濃度が減少していくので、最初は摂取量が多くても日ごと減少していく、つまり、最初の一度に放射性物質がばらまかれたら、それ以降の新たな汚染を考えない、そういった前提を取り入れた、ということです。

> 時間とともに放射能が次第に減少することを考慮した式を用い、「水、牛乳等、菜類」の摂取それぞれから、1年間あたり11.1mSv(ミリシーベルト)を被ばくの上限として、「許容放射能量」を決めています。

> 「時間とともに放射能が次第に減少することを考慮した式」これは、換算係数を算出する際に、崩壊の進行に伴う線量減少も、摂取した分の排泄/蓄積の比も、既に考慮に入っています。

ではなくて、これに加え、摂取する水の方の濃度も減少すると考えるわけで、ここの前提が曖昧な書き方をされたので、「間違ってはいないけど何を言いたいかわからない」ことに。

そうすると、減衰しながらの摂取で全量は12日間(半減期の1.5倍)最初の量を摂取し続けた量と同じということになります。


茶色がメディアで流れる暫定基準値の説明、青が実際の暫定基準値の算出根拠です。

このように理解して、teama_nakagawaの解説を理解しよう、ということですね。

年にならした数値ではなく12回分の1回に相当、ということで、これって、相当に安全マージンがひくくなってますね。



このずれがどこから来るのか不明ですが、ここで実効線量への換算係数を使ってしまった?、と考えると誤差範囲で合ってきます。

当初、ここら辺の情報が非常に錯綜していて、混乱していましたが、あらためて整理されてくると、何か変だな、というのが残ります。

時間とともに放射能が次第に減少することを考慮した式を用い、「水、牛乳等、菜類」の摂取それぞれから、1年間あたり11.1mSv(ミリシーベルト)を被ばくの上限として、「許容放射能量」を決めています。

「時間とともに放射能が次第に減少することを考慮した式」これは、換算係数を算出する際に、崩壊の進行に伴う線量減少も、摂取した分の排泄/蓄積の比も、既に考慮に入っています。

いずれにしても、300Bq/kg(暫定基準)の水を一年間1.6kg摂取し続けると18万Bqになります。

換算係数0.00043mSv/Bqを使うと、78mSvで基準値の水の摂取だけで甲状腺等価線量50mSvの暫定目標を超えます。

さて、整合性が合わない理由がどこに潜んでいるのでしょうか。

※一時的に基準値前後のヨウ素131を含む水を飲んでも問題にはならないし、1ヶ月飲み続けるくらいであれば8mSv位の被曝に収まります。
※現在のヨウ素131の環境への放出状況からすると、今後継続的にヨウ素131入りの水を飲むことになる可能性は低そうだ、ということで、一時的な数値の高まりについて騒ぐ必要性は無さそうですが、正しく理解して、正しく怖がろうという趣旨の当ブログでは、ちょっとこだわってみます。


---
追加
関係資料を貼りつけ
緊急時において、防護対策の決定に資するため、農畜水産食品の放射性物質濃度に関する測定結果に基づき、住民(公衆)が摂取する場合の体内被ばく線量(預託実効線量)を推定、評価する。

クリックして別窓で拡大

係数が色々ついているけれど簡潔に書くと被曝線量Hは
H=0.00043mSv/Bq×(摂取量)
(摂取量)=(放射能濃度Bq/kg)×(摂取量)×[1-exp{-(定数)×(摂取期間}]/(定数)

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r98520000015cfn.pdfより

ちなみに、都合のいい記事をネットで拾い集めてストーリーをつくりあげているわけではありません。

放射能汚染された食品の取り扱いについて

という厚生労働省3月17日の暫定基準値を発表したさいに添付されている(ページからリンクがある)ものです。



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Unknown (MAKIRIN)
2011-03-31 09:57:03
暫定基準値は1年間毎日同じ濃度の食品を摂取して決められていると報道されていますが、実際は『時間とともに放射能が次第に減少することを考慮した式を用い』とあるように、ヨウ素131の場合、1年間の吸収量は365日分ではなく約12日分(半減期8.04日/ln2)としているようです。
どうやら放射性物質の放出が1回だけ起こったという仮定のもとで決められた数値で、年間線量は
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r98520000015cfn.pdf
この下のほうに添付されてる(参考)2-3被ばく線量算定の基礎式で、市場希釈係数を1、調理加工による除染係数を1として求めたもののようです。
Unknown (chem@u)
2011-03-31 10:02:17
了解です。
twitterでもコメント入れましたけど、この考え方で出された基準だと世に伝えられたら、パニックどころじゃないですね。

team_nakagawa「「暫定規制値」とは」は間違ってないけど、誤解を解くような解説をしていなかった。
Unknown (MAKIRN)
2011-03-31 10:26:01
team_nakagawaのブログはおそらく食品安全委員会で配布された資料を転記しただけで、その内容を理解しているかは疑問です。仮に理解していてこの中途半端な解説をしているのなら、一般国民には真実を伝えるべきではないと思っているのではないでしょうか。
Unknown (chem@u)
2011-03-31 10:34:51
図付きで解説を書き足しました。

理解が深まり助かります。
Unknown (MAKIRIN)
2011-03-31 11:45:39
「team_nakagawaがブログで暫定基準値について丁寧に説明している」とツイッターでかなり拡散されていますが、おそらくその内容をきちんと理解している人はほとんどいないんじゃないでしょうか。
これまでteam_nakagawaは間違った情報を何回も発信しているにもかかわらず、未だ信用している人がかなり多いことに、とても危機感を持ってます。
体内での減少を考慮しましょう (mimon)
2011-03-31 19:18:42
摂取量は、一定値で合っていますよ。
ただ、人の体内には、放射能の発生源がありませんので、摂取された放射能は、体内でなら減少します。
一日あたりの放射能減少率をcとしますと、ヨウ素131の半減期は、8.02日ですから、
c=0.5^(1/8.02)=0.9172[1/day]
になります。
前日までの体内に残留した放射能をQ0とし、当日に摂取する放射能をΔQとした場合、その日に残る放射能Q1は、
Q1=c*Q0+ΔQ
です。
ここで、毎日同じ量を摂取し続けますと、ΔQ一定のもと、Q1=Q0に飽和しますから、
ΔQ=(1-c)*Q0
になります。
このQ0が摂取上限値の25814Bqの場合には、上記cを代入して、
ΔQ=(1-0.9172)*25814=2137[Bq/day]
です。
一日に摂取する水の量を1.65kg/dayとしますと、上限の濃度は、
2137/1.65=1295[Bq/kg]
と、ほぼ一致します。
むしろ、「一年間」という言葉に惑わされたようですね。
60日でも100年でも半減期に比べて、かなり長い期間であれば、摂取量と体内での減少量とが釣り合いますから、同じ基準値になります。
Unknown (chem@u)
2011-03-31 19:33:19
ひとつ前の記事で検証していますが、体内での減衰は「甲状腺等価線量換算係数」を決める中で考慮しています。

体外での減衰を考慮するかしないか、がポイントです。
Unknown (chem@u)
2011-03-31 19:51:36
mimonさんのモデルだと体内に常に25814Bqのヨウ素131を抱えていることになります。
新規に摂取していい量が年間25814Bqと考えるのか、体内に年間を通じて蓄えていい量が25814Bqとなるのか。

ということです。

Unknown (MAKIRIN)
2011-03-31 20:51:54
team_nakagawaメンバーは線量換算係数がどのよな原理に基づいて算出されたものなのか知らないようです。

「体内に入った放射線物質が半減期に応じて減少するから、実際の被曝量は計算したものより小さくなる」というようなおかしな説明をしていたところがありました。

また、そのせいで「暫定基準値は1年間食べ続けても大丈夫な量だ」とも説明していたのですが、この暫定基準の基となった指標を作成した原子力安全委員会ワーキンググループの元委員、須賀新一さんは、「あくまで放射性物質が一度だけ放出されて、次第に減少していくことを前提とした一時的な指標である」と明らかにしたそうです。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110328/k10014951701000.html
Unknown (chem@u)
2011-03-31 21:29:52
理論物理学がご専門なのですね。
てっきり放射線の人体影響に関するある種生物学的なバックグラウンドを予想していました。

本件は、念のため各種書籍にもあたってしっかり理解していきたいと思います。

それと、mimonさんは古い知り合いです。
わかりにくい部分なので各種誤解をぶつけあいながら集合知を高めていければと思います。

NHKの報道、実は非常に重いですね。

「しかし、この暫定基準の基となった指標を作成した原子力安全委員会ワーキンググループの元委員、須賀新一さんは、あくまで放射性物質が一度だけ放出されて、次第に減少していくことを前提とした一時的な指標であることを明らかにしました。特に人体への影響が大きいとされる放射性ヨウ素については、基準の上限の値で長期間取り続けると想定している被ばく量を超えるおそれがあると指摘しています。」

まさにMAKIRINに頂いたアドバイス通りのことがメディアに乗り始めてますね。

今は原子炉の溜まり水やPuに皆さんの意識が向かっていますが、そのうち発信力の高い方がヨウ素131の重大さに気付いてネットで話題にするか、もしくはNHKの報道でさらに検証されて、理解が広がればいいなと思います。


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