LA CAFFETTERIA DI RETROSCENA 舞台裏カフェ

テノール芹澤佳通の日常系ブログ

長い一日

2016年10月17日 | クラシック音楽
さて、昨日は19日に本番を向かえる「ロッシーニ:小荘厳ミサ」のマエストロ稽古&通し稽古がありました(・∀・)



ピアノはマエストロ、ヴィート・クレメンテです(・∀・)

この時点ではソリストのみの稽古で、この後合唱団も加わり通し稽古になりました(^o^)


本番はマエストロがセンターでピアノを弾きながら、合唱とソリストをまとめます!


そんな彼との稽古は毎回がとても独創的です(笑)



初回の稽古時「Io non faccio una cosa del genele」(僕はありきたりな事はしないよ)

と仰っていた通り、テンポの感じ方、音楽の進み方、解釈がとてもユニークであり、僕が前回ソリストを歌った時の録音とは全く違ったものに出来上がっています(`・ω・´)ゞ

↓前回(2013年7月)

指揮者(今回は指揮者はいないけど)によってここまで変わるんだな~ってのが、歌っている本人でさえビックリするほどです(笑)



で、そんな稽古を終え直ぐに移動しパレスホテル東京へ(((((((((((っ・ω・)っ ブーン



その日はパレスホテル東京にて、僕の生徒だった方の「ありがとうの会」という会が開催されました。


僕には現在10名弱の生徒が居ます。

レッスンに来る頻度は皆さんバラバラで、毎週来る方も居れば、月に2回、月に1回、不定期とバリエーションは様々です。

この「ありがとうの会」の主役、仮にAさんとしましょう。

Aさんとお会いしたのは昨年の10月か、その少し前でしょうか。

Aさんは女性で、初め女声の先生に声楽を習っていたそうです。どうしてその先生を離れたかは覚えていませんが、ある日僕のもとに連絡があり、生徒として迎えることになりました。
とても熱心な生徒で、どうしたら上達するか?家ではどのように練習すれば良いのか?と質問をして来ました。

「初めの内は独りで練習すると何が良くて何が悪いか判断が出来ないから、レッスン時に声を出すくらいで良いですよ。」

そう伝えると

「では1回のレッスンを2時間でお願いできますか?」

と返してきました。


個人レッスンでは、お互いの信頼関係が築けるまであまり突っ込んだ会話は出来ません。

なので、彼女の真意を聞く代わりに「まだ声を出すことを慣れていない状況での2時間のレッスンは、喉への負担が大きいのでおすすめは出来ません。」と返すと、「では週に2回通ってもいいですか?」と・・・


音大受験生でもなければ、アマチュア声楽家でもなく、きっちりとした職業についている方でしたので、一体どうしてこんなに熱心なのだろう?何の熱意なんだろう?と不思議でした。

しかし僕はそれを断り、「週1回、1時間にしましょう。」と提案しました。


僕のレッスン料は別に高くはありません。

大手の音楽教室に月に4回のレッスンを受講する為の月謝より全然安いです。僕は出来る限り生徒に金銭的な負担を掛けたくはないので、1回のレッスンを大体1時間15分~30分と、若干多めに時間を取ります。


彼女はものすごいバイタリティに満ち、新しい曲を渡すと熱心に譜読みをしてくる模範的な生徒で、とにかく貪欲でした。


しかしそれから暫くしてレッスンを休むようになりました。


と言っても、熱意が無くなったというわけではなく、お仕事(徐々にレッスン時にプライベートな会話が増え、ある会話から職業を教えてくれました。)が忙しく時間が取れないという連絡を頂いていました。彼女は研究職についていて、その実験やレポートの取りまとめで忙殺されている、とのことでした。


そんな中でも、僕が演奏会を開いたり、出演したりする時にご案内を出すと都合のつく限り聴きに来てくださり、とても喜び、楽しんで下さいました。


彼女が気に入ってくれた曲は「Intorno all'idol mio」(私の偶像である人のまわりに)というイタリア古典歌曲です。


非常に綺麗な歌曲で、僕はよく演奏会でその曲をモチーフとして使用している「Sopra un'aria antica」(ある古い歌に寄せて)を歌います。





Aさんは今年3月に開催した「TEATRO GOLOSO主催 第6回ランチライムコンサート」に聴きに来てくれました。

演奏会をご案内した時「是非行きたいので、相方に相談してみます。」と仰ったので、僕は勝手に「旦那さんかな?」と考えました。

Aさんに年齢を聞いたことはありませんが、仕事では上のポストに就かれていらっしゃったので、結婚されていてもおかしくはない歳でした。


その時、久しぶりに見た彼女は「相方」であろう男性に付き添われながら、少しその存在が薄らいでました。

なんというか、儚くなっていました。


「髪の色を明るくされたのかな?」とも思いましたが、その存在がすこし遠くに感じられました。



その演奏会(ランチライムコンサート)では、既に6月に開催が決定していた「今井俊輔×芹澤佳通ジョイント・リサイタル」の先行予約の申し込み用紙が配られており、Aさんはその場で申込みをしてくれました。


それだけでなく、翌月の4月7日に僕が出演したオペラサロントナカイでの公演にも聴きに来てくださり、ディナーを召し上がっていました。
その時はお一人でしたので『食事をされているし、この前は体調が良くなかっただけだったのかな?』と思い、少しホッとしたのを覚えています。


そして6月、「今井俊輔×芹澤佳通ジョイント・リサイタル」終演後、ランチライムコンサートの時にお見かけした「相方」の男性に付き添われていた彼女は杖をついており、その変化はひと目でわかるほどでした。

たった2ヶ月お見かけしなかっただけでのこの変化・・・僕は声を掛けられず、エスカレーター近くを付き添われながら歩く彼女と、付き添う「相方」に遠くから会釈をするのが精一杯でした。



そして、8月6日夕方、彼女は息を引き取りました。


その連絡をくれたのは、彼女が相方と呼称していた彼女の元上司であり、仕事のパートナーであった医師でした。


彼女は癌だったのです。


しかも僕と出会った時は再発という形で戦っていました。


その事実を知っていたのは極少数の人間だけであり、彼女の部下や上司でさえ彼女が苦しんでいる姿を見たことがなかったのです。


僕に事実を伝えてくれた医師はF先生という方で、Aさんの前職である助産師をしていた時に務めていた病院の先生にあたります。



F先生からの連絡を受け、僕はF先生と直にお会いし彼女の事を聞きました。



彼女は世界的な業績を築いた、新薬の臨床検査に関する研究者でした。



そんな彼女の隠れた趣味が「声楽」だったのです。

ただF先生も、どうして彼女が声楽に目覚めたかまではわからないそうです。





そんなAさんは生前弁護士を通して遺書を残され、その中で

「自分の葬式はするな」

「お別れの会もするな」


と残しておりました。


F先生曰く「彼女らしい(笑)」とのことで、まわりに一切の迷惑を掛けたくない性分だったようです。


実際、どんなに調子が悪くても、体が痛くてもそれを人前では見せなかったとのことでした。
(だからまわりの誰も彼女が癌と戦っていることにすら気が付かなかった)


でも残された彼女を慕う人たちは、どうにか彼女に感謝をしたい!ということで「Aさん ありがとうの会」というのが開催されたのです。


暗い会ではなく、明るく笑ってAさんに感謝をする会。



東大名誉教授がマイクを握り熱唱したりと、とても大盛り上がりでした(・∀・)



出席した100名弱の内、僕だけが彼女のプライベートな繋がりであり、殆どの関係者が知らない彼女の一面を知る人物。彼女の歌の先生として彼女が生前カラオケでよく歌っていた「Time to say goodbye」をオリジナルのイタリア語バージョン「Con te partirò」(君と共に旅立とう)で歌わせて頂きました。
(その後に東大名誉教授が熱唱し、全て持っていかれましたがw)

閉会後、あるご夫婦が声を掛けてくださいました。
ご夫婦は生前Aさんが癌で苦しんでいることを知っていた数少ない関係者で、僕にこう話してくれました。

「一度先生にお会いしたかったんです。女性の先生だと思っていましたので、『先生』が男性とは知りませんでした。私は以前彼女に『(癌で)そんなに辛くて大丈夫なの?誰か支えになってくれる人はいるの?』と聞いたことがあるんです。そうしたら彼女、『私には歌の先生がいるから大丈夫よ』と言ったんです。」

思い返せばF先生も言ってました。

「6月の演奏会、その前後彼女は入院していたんです。でもどうしても23日は外出がしたいとナースに訴えたそうです。ナースがどうしてそんなに外出がしたいのか尋ねると『演奏会を聴きに行く』と答えたそうです・・・」




僕が彼女のことをもっと知っていれば、歌うことが生きる活力になっているとわかっていればあの時


「週1回、1時間にしましょう。」


とは答えませんでした。


事実を知らなかったとは言え、後悔の念が無いわけではありません。僕に出来ることがあって、もしかしたら救えたのかもしれない・・・・・・もしそう悩んだらAさんに怒られそうです(笑)


そんな風に僕が思い悩むことをAさんは決して望まないでしょう。





P.S

会の進行は、当初仲間内で司会を立てるつもりだったそうですが、募る思いが強すぎ、進行できなくなるとの判断で元日本テレビアナウンサーで、現フリーアナウンサーとして活躍されている町亞聖さんが進行役を務めて下さいました。
閉会後に一枚。

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音楽の力 (ちくわぶ)
2016-10-18 11:54:03
お弟子さんのA様の事、拝見して涙が出ました。私事ですが、先日出席した同窓会で、仲の良かった友人の急逝を知り、その事を引きずっていたからです。もっと会っていたなら・・と悔やむ気持ちで一杯です。
芹澤さんもA様の事では悔やむ気持ちがお有りでしょう。でも、その方は芹澤さんとのレッスンや、演奏会に行かれる事で輝く日々を
最期まで送られたのではないでしょうか?
音楽の力は素晴らしいです。私達が芹澤さんの演奏会に足を運ぶのも、その時、一期一会の大きな輝きを体験する為だと思うのです。
どうぞこれからも、体調に気をつけて私達に音楽の持つ強さ、力、感動を味わわせて下さい。
切ないお話ですね。 (tomoko♪)
2016-10-18 22:27:13
朝から電車の中で泣きました、途中まで読んでウルウル...でも、読まずにはいられませんでした。

立派に生きられたA様、そのA様を「支えてくれた歌の先生」と言わしめた芹澤先生。
ちくわぶ様の仰る通り、音楽の力とは、ほんとうに素晴らしいものですね。
そして、芹澤先生の真摯な姿勢がA様の心に響いたことと思っています。

心残りもあるでしょうが、これからの芹澤さんの活躍が、A様のご供養になると信じて、精進して下さいませ。
(コメント書きながらも、ウルウルしてます、最近、なぜか涙腺ゆるゆるです、理由は自覚してますw)


明日の小荘厳ミサ曲、楽しみにしています♪
私は、この教会で歌われた、Domine deusがとても好きです♪
良く聴いています、Filius patrsが何回出てくるか数えたりして(笑)
でも、明日は「歌ってる本人がビックリするほど」違うものになっているのですね?
なんでやねん!ミサ曲とちゃうやん⁉︎くらい違ってるのかしら?(笑)

いつもの通り、素晴らしい演奏をなさって下さいね♪

関西弁、間違ってたらゴメンなさい
by 関東人
Re:音楽の力 (せりざわ)
2016-10-19 11:29:46
ちくわぶさん

音楽の持つ力、「音」と言う目に見えない波は本当に不思議な力を持っています。
以前は協賛団体としていつもチラシに名前のある「一般社団法人姫りんご」のもと、チャリティーコンサートで特別養護老人ホームや難病と戦う子どもたちの暮らすドナルド・マクドナルド・ハウス、様々な施設で歌っていました。

決して作為的でなく、自然な声、音楽というものは人の深部に染み込んでいくのでしょうね。

僕は器用に多くのことが出来るタイプではありませんので、唯一無二の楽器で皆さんに活力を与えられるよう頑張ります!
Re:切ないお話ですね。 (せりざわ)
2016-10-19 11:40:50
tomoko♪さん

切ないですね。
僕がAさんと過ごした時間は極僅かですが、問題は長さではなくその深さなのでしょうね。

僕の何が彼女に役立ったのかは、自分自身ではよくわかりませんが、きっとそういうものなのだと思いますし、それで良いのだと思います。

作為的でない自然なもの、人はそこに惹かれるのですから(・∀・)

今日は小荘厳ミサですね(笑)
Filius patrisの回数(笑)
そういうカウントはやめましょう(笑)
ウェスト・サイド・ストーリーの「Maria」を歌う時、今井くんがMCで「Mariaって何回言うか数えてください」って振るんですが、それ言うと演奏中にみなさんが指を折りながら数えている様子が見えます(笑)

ちなみに僕は東海人なので関西弁の正誤はわからないです(笑)でもお笑いが大好きなので似非関西弁をよく使いますが本物の関西人がいると言えなくなります(笑)
良い天気に なりましたね (木の猫)
2016-10-20 08:50:56
小荘厳ミサ♪ お疲れ様でした。
芹澤さんの声、って、綺麗ね\(^o^)/と 
再確認 ◎ 主人は(^.^)、ご帰国後の芹澤さんの歌を 初めて聴けて、感激しておりました。
A さんは(..)、コンサート♪会場で お目にかかったことが あるはず ですが、全く わかりません。。
でも、芹澤さんが “ありがとうの会”に お運びになって、きっと A さんも 相方の皆さんも(*_*)、とても お喜びだったことと 思います。
どなたかの “生きる支え” には、誰でもなれるわけではない、望んでも出来ないものですのに、素晴らしいですね。
来週はトナカイ♪ですね。どうぞ お元気で(^^)/
Re:良い天気に なりましたね (せりざわ)
2016-10-20 17:15:12
木の猫さん

お父さん、そんなに久しぶりだったんですね!?
演奏会を聴きに行ったときにお会いしたりしていたので、まさかそんな久しぶりだとは思いませんでした(笑)

ボローニャでは宗教曲をよく歌ったので、客観的な判断として声が合うのかもしれませんね(・∀・)

演奏会には多くの方がいらっしゃってくれますが、お客様同士はなかなか交流がありませんからね・・・どこぞのファンクラブでもない限り(笑)

Aさんと木の猫さんご夫婦は同じ演奏会場にいらっしゃいました(・∀・)

そうですね、望んでなるものではなく、選ばれてなるものですからね。誇りに思います。

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