陸奥月旦抄

茶絽主が気の付いた事、世情変化への感想、自省などを述べます。
登場人物の敬称を省略させて頂きます。

O.ヘンリー短編集より<賢者の贈り物>

2008-12-24 08:19:47 | 読書・映画・音楽
 O.ヘンリー短編集は、20世紀初頭に米国庶民たちが慎ましくも思いやりに溢れた日常生活を送っていた姿を描く内容である。私は、その中で特に<最後の一葉>(1905)と<賢者の贈り物>(1905)が好きである。ここでは、クリスマスに因んだ後者の話を取り上げよう。

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 デラとジム(22歳)の貧しい若夫婦は、街の片隅にあるぼろアパートに住んでいる。不景気で、ジムの週給は30ドルから20ドルに下げられ、デラは切り詰めた生活を余儀なくされている。ジムは、寒空なのに外套さえも買えない有様。

 クリスマス・イブになって、デラは愛するジムのために、何かをプレゼントしようと部屋で考えているが、苦労して溜め込んだへそくりは僅かに1ドルと87セント。これでは、何も買えやしない。

 彼女は、惨めな気持ちになってベッドに身を投げ出し、啜り泣く。そして思い立って、我が身を姿見に映してみる。そこには、ひざまで長く伸びた美しい黒髪がデラのほっそりとした体を包むようにして写っていた。

 この若夫婦には、人も羨む宝物が二つあった。一つは、このデラの美しい黒髪であり、もう一つはジムの家代々に伝わる金側の懐中時計である。それは、革紐につながれ、ジムが肌身離さず持ち歩いている。

 デラは、町へ出かけて行き、鬘(かつら)屋で黒髪を切ってそれを20ドルで買ってもらう。ようやく得たお金で、デラは時計用銀鎖を捜し求め、気に入った品物を買う事が出来た。一番ジムが悦ぶであろうと考えた貴重な贈り物だ。

 やがて家へ戻ったデラは、焼き鏝(こて)でショートカットの髪型を整え、浮き浮きとクリスマス用のロースト・ビーフの支度をし、ジムの帰りを待つ。やがて階段を上がって来るジムの靴音。ドアが開いて、外套も着ていないジムが姿を見せた。

 ジムは、デラの髪を見て驚き、やがてがっかりしたような表情になる。必死になって言い訳するデラ。「髪を売って、あなたのために贈り物を買ったの。髪は直ぐ元のように長く伸びるわ。そんな顔をしないで下さいな」

 投げ出すように、ジムはテーブルの上へ紙包みを置く。ジムからデラへの贈り物だ。ジムは静かにデラへ言う。「開けてごらんよ」

 それは、高価な鼈甲で出来た櫛の2本セットであった。以前デラが街のショーウィンドウで興味深そうに眺めていたものだ。それを見て驚き、泣き崩れてしまうデラ。髪が短くなればもう無用の品物だ。ジムは、優しく彼女を慰める。

 やがて落ち着きを取り戻したデラは、眼を輝かして自分からのプレゼントを手に握り、ジムの目の前に示す。「あたしから、大切なあなたへ。早く金時計に付けて、見せて頂戴」

 それには返事をしないで、ジムは寝椅子に座り、こう言った。「デラ、僕らのお互いのプレゼントは暫く仕舞っておこう。僕は、あの時計を売って、そのお金で櫛を買ったのさ。さあ、ロースト・ビーフを準備してくれないか」

 何と言うすれ違いの贈り物。でも、二人は最愛の人のために、とても大事にしているものを互いに犠牲にした。それは、金銭で量り得ない暖かさに溢れた心のやり取りであり、また深い思いやりの証であった。そして、ベツレヘムを訪れ、キリストの生誕を祝った3人の賢者たちの贈り物に劣らぬものなのだ。

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 岡崎ちか子さんの “朗読の森”をお散歩。。 で、この短編の朗読を聞くことが出来る。
http://chikakos.cocolog-nifty.com/mp3/2007/12/post_ead9.html

 もう何年も前の話だが、私は12月の声を聞くと、講義の一部分を割いて学生達にこの話を語った。そして、恋人にプレゼントするなら、互いに心の籠ったものをねと付け加えた。その時だけは、学生達は雑談もせず、静まり返ってじっと私の話を聴いていた。

(参考)

 大久保博訳、「O.ヘンリー短編集」 (旺文社文庫、1974)
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