元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「弁護人」

2017-01-13 06:29:03 | 映画の感想(は行)

 (英題:THE ATTORNEY)実に見応えのある映画で、鑑賞後の満足感は高い。しかし、本作が実在の有名人の言動を基にしているという事実は、何とも複雑な気分にさせられる。しかもその人物がそれからどういう人生を送ったのか、それが明らかになっている現状では、モヤモヤ感は増すばかり。評価の難しいシャシンだと思う。

 80年代初頭。釜山で法律事務所を開業しているソン・ウソクは、大学は出ていないものの独学で法律を勉強し、やっとの思いで司法試験をパスした苦労人だ。目端が利くだけではなく地道な努力を惜しまない姿勢により、今や地元では売れっ子弁護士の仲間入り。大手企業からも声がかかり、名前は全国区になろうとしていた。

 そんな折、彼が若い頃に世話になった食堂の女将の息子ジヌが事件に巻き込まれたことを知る。自宅で趣味の読書サークルの会合を開いていたところ、勝手に左派分子と決めつけた警察によって(仲間ともども)逮捕されてしまったのだ。ウソクはジヌに面会するため拘置所に出向くが、ジヌは拷問じみた取り調べによって半死半生の状態になっていた。ウソクは誰も弁護を引き受けようとしないこの事件を、損得勘定抜きで受け持つことにする。

 前半は主人公が弁護士として成り上がるまでが、若い時分の回想シーンを伴ってじっくりと描かれるが、これを“本筋とは関係のないパートじゃないか(だから不要)”などと片付けてはならない。ウソクがどうしてこの難しい案件に取り組むようになったのか、その背景を説明する上での適切な処置である。しかも、この部分は適度な“泣かせ”の要素も挿入され、十分に面白い。

 主人公がジヌの弁護に乗り出す中盤以降の展開は、まさにジェットコースター的だ。警察側の容赦ない妨害、証拠を捏造する検察、無罪ではなく減刑をもくろむ主任弁護士など、数々の抵抗勢力を前に徒手空拳で立ち向かう主人公の姿には胸が熱くなる。特に、ウソクが検察側の証人を前に“国家とは政府のものではない。国民のものだ”と主張するシーンは素晴らしい盛り上がりを見せる。また、クーデターによって政権を握ったチョン・ドゥファン政権の、反共を名目に国民を弾圧した横暴ぶりが示されているのも興味深い。

 さて、冒頭に述べた通り、ウソクは実在の人物をモデルにしている。それは後に大統領になるノ・ムヒョンだ。彼が弁護士時代に実際に受け持った釜林事件を題材にしたのが本作である。ただし、ノ・ムヒョンが大統領退任後に不正献金の疑惑を掛けられ、結局は政治家になったことを後悔する文章を残して人生を終えたことを考え合わせると、この映画における“活躍”に対しても、空しさを覚えてしまうのだ。熱血漢だった彼がなぜ政治家になり、どういう過程で逆境に追い込まれたのか、そのことが気がになって諸手を挙げての高評価は差し控えたいとも思ってしまう。

 主演のソン・ガンホは彼のキャリアを代表するような好演を見せる。ジヌに扮するイム・シワンはZE:AとかいうK-POPのグループのメンバーらしいが、驚くほど達者なパフォーマンスだ。キム・ヨンエやクァク・ドウォンといった他の面子の仕事も良好である。いろいろと懸念材料はあるものの、観て損の無い力作であることは確かだろう。
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