元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「何者」

2016-11-07 06:22:56 | 映画の感想(な行)

 楽しんで観ることが出来た。当世の若者群像を上手く活写しているだけではなく、優れた心理ドラマに仕上がっている。映像面での仕掛けにも事欠かず、就職活動の当事者である学生はもちろん、幅広い層にアピールできる内容だ。また上映時間が無駄に長くないのもよろしい。

 大学の演劇部で脚本を書いていた拓人は、サークル活動を辞めて企業訪問に専念するが、なかなか結果が出ない。ルームメイトの光太郎は、何も考えていないように見えて、着実に内定に近づいていく。光太郎が以前付き合っていた瑞月は、家庭の事情により就職先を限定せざるを得なくなる。瑞月の友人である理香は、就職戦線で先行しているように見えて、実は自意識が強すぎ、受け入れてくれる企業が見つからない。理香の同棲相手である隆良は、当初は就活に没頭する周囲を冷ややかに見ていたが、やがて焦りの色が出てくる。

 理香が拓人たちと同じアパートに住んでいることが分かり、5人は理香の部屋を“活動拠点”にして集まるようになるが、彼らの中から内定者が出るに及び、最初は和気藹々だった雰囲気は次第に気まずいものに変わってゆく。直木賞を受賞した朝井リョウの同名小説(私は未読)の映画化だ。

 損得抜きで付き合える学生時代は終わり、打算や妬み嫉みが先行することが多くなる社会人生活へと移行する。就職活動はその“入口”だ。誰しも通る道。しかし誰もがそのパラダイムの転換を前にして思い悩む。同時に、自分が“何者”であるのかを赤裸々に突きつけられる場でもある。そういう普遍的なモチーフをしっかりと押さえた上で、本作ではSNSが効果的にフィーチャーされている。

 もちろんネット上では各人の心の声が(匿名で)綴られるのだが、それが“本音”ではあっても決して“本質”ではないことが描かれているのはポイントが高い。ネット上で得々と披露される腹の探り合いや手前勝手な決めつけは、真の内面ではない。有り体に言ってしまえば、そんなのは生理的な反射現象に等しいのだ。この“本音”と“本質”との混同に振り回され、親しくしている者達に対して疑心暗鬼になったり、夜郎自大な態度に転じたりと、千々に乱れる登場人物たちの内面を活写する三浦大輔の演出は実に達者だ。

 しかも、演劇人でもある三浦は、終盤に映画と舞台との垣根を取っ払ったような映像処理を大々的に導入。それが単なるケレンに終わらず高い求心力を発揮しているのは、言うまでもなく主題に対して真摯な態度で臨んでいるからだ。

 佐藤健に有村架純、二階堂ふみ、菅田将暉、岡田将生、そして拓人の先輩を演じる山田孝之と、若手の有望株をズラリと並べてそれぞれに見せ場を用意している作劇の巧さが光る(また、極端な大根役者が一人も出ていないのも良い ^^;)。中田ヤスタカの音楽も好調。

 関係ないが、私が就職活動をしていた頃(80年代)は、確か最初の内定は劇中で拓人が最初やろうとしていたように“本質”を出さずに“演技”だけで勝ち取ったように思う。それが可能な時代だったのだ(まあ、以後もそんなのが通用するほど甘くはなかったが ^^;)。活動時期も今と違って短くて済んでいた。対して今の学生は大変だ。苦労して就職先を見つけても、ブラックな職場環境で難儀することも多々ある。若者をはじめとする社会的弱者にしわ寄せが来る世の中は、いい加減是正してほしいものだ。
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