元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「エル・マリアッチ」

2016-10-29 06:30:13 | 映画の感想(あ行)
 (原題:EL MARIACH)92年作品。当時24歳だったメキシコ系アメリカ人、ロバート・ロドリゲス監督のデビュー作にして(現時点における)最高作。世界各地の映画祭で好評を博しており、同年に製作されたクエンティン・タランティーノ監督の「レザボアドッグス」に負けるとも劣らぬ快作だ。

 冒頭、沙漠の中の刑務所で、裏切り者の服役者を始末するため送られたマフィアの手下どもがアッという間に返り討ちになるシーンから、ハンパではない緊張感が画面にみなぎる。服役していた殺し屋は、ボスを殺すべく脱獄。黒ずくめの服装に、脇にかかえたギターケースの中身は自動小銃だ。ここにもう一人、流れ者のマリアッチ(日本でいうところの“流し”みたいもの)が稼ぎ口をさがして街へやってくる。彼もまた黒い服装にギターケース。宿屋ではマフィアに買収された主人の密告により、殺し屋に間違われ、マフィアから逃げ回るハメになる。



 この映画の製作費はなんと100万円足らずである。素人同然のキャストはほとんどボランティア。16ミリの手持ちカメラを駆使しているが、技量は高い。まずはこのカメラワークの切れ具合。極端な俯瞰とローアングル、スローモーションと速回しをミックスした、あざといまでのケレンが荒涼とした背景に実にマッチしている。

 そしてアクションのスピード感、圧倒的なカッティングの鋭さ、段取りの見事さは、予算不足を吹き飛ばす迫力だ。この作者独自の演出・編集のリズム感が大きくモノを言う。サスペンス一辺倒ではなく、効果的にギャグを挿入してドラマ作りに余裕を与えている。

 特に感心したのが、マリアッチが酒場の女に殺し屋ではないかと疑われ、ナイフをつきつけられる場面だ。女は“本物のマリアッチなら何か歌ってみろ”と迫るが、緊張してとっさに声が出ない。あわやというとき、主人公が即興で自分の境遇を歌にして観客を爆笑させたあと、女は“これってペーパーナイフなのよね”と種明かしをする。コメディ的な場面だが、次の瞬間カメラは女の飼っている犬の表情を何の脈絡もなく大撮しにする。ハリウッド映画みたいに大仰な前振りをしてギャグをかまさず、物事を即物的に捉えて意外性で笑いをとる作者の特質が出ている。この感覚は全篇にわたっており、観客を飽きさせない。そして主人公の夢の場面のシュールな味付けが絶妙の効果だ。

 個々のキャラクターも“立って”いて、間違われるギターケースの争奪戦も予想通りであるが楽しませてくれる。ラストは少し無理に盛り上げた感があるが、これはこれで余韻たっぷりだ。

 低予算をものともしない良質の娯楽映画。コロンビアが買い取り、メジャーな配給網に乗ったらしいが、その際、サウンドトラックを入れ直し(音楽もなかなかカッコいい)その費用が映画製作費の10倍はかかったとか。ロドリゲス監督は現在に至るまでコンスタントに仕事はあるが、いずれも本作のヴォルテージの高さを達成できていない。ここらで初心に返ってクリーンヒットを飛ばして欲しいものだ。
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