元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「残像」

2017-07-08 06:43:06 | 映画の感想(さ行)

 (原題:POWIDOKI)アンジェイ・ワイダ監督の遺作で、いかにもこの作家らしい題材が提示され、予想通りのストーリーが展開する。しかし、それは決してマンネリではない。それどころか、本作をはじめワイダが取り上げてきたテーマの今日性がますます強く印象付けられる。この世界の本質的な情勢は彼が映画製作を開始した時期と、ほとんど変わっていないのだ。

 第二次世界大戦後のポーランド。かつてカンディンスキーやシャガールらと交流を持ち、非具象絵画の第一人者と呼ばれたヴワディスワフ・ストゥシェミンスキは、創作活動と美術教育に励んでいた。しかし、ソ連の影響下にある国情は次第に芸術家の自由を奪っていく。政府は社会主義のプロパガンダの手段としての芸術しか認めず、その風潮に反対したストゥシェミンスキは迫害される。

 彼は大学を追われ、生計を立てるあらゆる手段も奪われてしまう。そんな彼を教え子達は慕うが、やがて彼らも作品を展示する場さえ失う。さらには病床にあった妻を亡くし、一人娘との関係もギクシャクする中、ストゥシェミンスキはそれでも芸術を追求する姿勢を崩さない。だが、長年の不摂生が祟って彼はいよいよ絵筆を握ることが困難になっていく。

 ストゥシェミンスキは実在の画家だが、私は恥ずかしながらその名を知らなかった。しかし、劇中でいくつか紹介される彼の作品は先鋭的であり、均一性・具象性を求める全体主義とは相容れないことはすぐに分かる。政権にとっては、格好の弾圧の対象だ。また、大半の一般ピープルにとっては芸術なんかに縁は無い。何の疑問も持たずに独裁を受け入れる国民には、主人公のような異分子は排斥されて然るべきと思い込む。

 この理不尽な同調圧力と、それに翻弄される個人の苦闘という図式は、今も変わらない。スチシェミンスキの功績は後に本国ポーランドでも再評価され、今や国立美術大学の名前にもなっているほどだが、かつてのストゥシェミンスキのように苦汁を嘗めている者は現在も世界中に存在している。作品のカラーは暗鬱だが、ワイダの演出力は強靱だ。終盤の処理は、彼の代表作「灰とダイヤモンド」(58年)を思わせて感慨深い。

 主役のボグスワフ・リンダのパフォーマンスはかなりのもので、第一次大戦で負傷し不自由な身体になったストゥシェミンスキを、懸命に演じて圧倒される。教え子の女学生ハンナに扮するゾフィア・ビフラチュや、娘役のブロニスワバ・ザマホフスカ(ベテラン俳優ズビグニェフ・ザマホフスキの娘である)、盟友のユリアンを演じるクシシュトフ・ビチェンスキーらの仕事ぶりも印象的だ。ストゥシェミンスキの絵をフィーチャーしたエンド・クレジットは気が利いている。
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