元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「フィッシュストーリー」

2009-04-08 06:29:48 | 映画の感想(は行)

 なかなか面白く観た。別々の時制によるエピソードが平行して展開する作劇になっているが、メインは70年代に活動した売れないパンクバンドの話である。伊坂幸太郎の原作は未読ながら、この作家の別の小説に接してみると音楽に対する造型が実に深いことが見て取れる。それも、マニアックに延々とウンチクを垂れ流すスノッブさとは無縁の、一般の音楽ファンとしてのスタンスをキープしているところが好感度が高い。

 音楽の持つ素晴らしさを“なんて良いのだろう!”と率直に何の衒いもなく認める心の底からの肯定性。これが本作においても、一見荒唐無稽な物語に確固とした中心軸を構築するバックグラウンドとなる。ハッキリ言って、この“フィッシュストーリー”なる楽曲が時空を超えて幾多の人々と関連し合い、最終的には世界を破滅から救うという筋書き自体こそが“フィッシュストーリー”(与太話)そのものだ。しかし、映画の核心は楽曲が地球壊滅を阻止するという展開そのものではない。それは音楽の持つ力は世界を救うほど大きいものである・・・・と信じている作者の真摯な思い入れなのだ。

 事実、パンクバンド“逆鱗”のパフォーマンスは目覚ましいものがある。そして斉藤和義の手による“フィッシュストーリー”というナンバーも最高だ。「少年メリケンサック」だの「デトロイト・メタル・シティ」だのといった、ロックミュージックを扱っていながら実はロックに対して何のリスペクトも抱いていない駄作群とは完全に一線を画する、真にロックらしい、優れた音楽ならではの高揚を味あわせてくれる。こんな曲が世界を救えないなんて、そっちの方が間違っているのではないか・・・・といった乱暴な結論にまで容易に行き着いてしまうような、そういう大らかさが実に楽しい一編だ。

 中村義洋の演出は同じく伊坂作品の映画化である「アヒルと鴨のコインロッカー」の頃よりもスムーズな語り口を見せる。時制をバラバラにすることによる違和感はほとんどなく、しかもラストにはノーマルな時系列に添った各エピソードのハイライトが流される。これは観ようによっては説明過多だと思われるだろうが、出し方がさり気ないので決してマイナスにはなっていない。

 キャスト面ではバンドメンバーの伊藤敦史と高良健吾が実に良かった。目つきや仕草がロックの“空気”を上手く醸し出していたと思う。それにしても“逆鱗”がセックス・ピストルズが世に出る前にデビューしていたという設定は感慨深い。もしもこういうバンドが実在していたら、日本のロック・シーンは一味違ったものになっただろう。
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