元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「悪童日記」

2014-11-10 06:56:57 | 映画の感想(あ行)

 (原題:A nagy fuzet)ピカレスク・ロマンとして退屈させない出来だとは思うが、重要な箇所が描かれていないこともあり、諸手を挙げての評価は出来ない。アゴタ・クリストフの同名ベストセラー(私は未読)を、クリストフの母国ハンガリーで映画化したものだ。

 第二次大戦後半、双子の兄弟が祖母が暮らす農家へ疎開してくる。二人は村人達から“魔女”と呼ばれ忌み嫌われていた意地悪な祖母に重労働を強いられるが、逆境に負けないためにあらゆる方法で肉体的・精神的な鍛錬を積み重ねる。やがて戦況は逼迫し、ナチスの進駐やユダヤ人の摘発、ドイツ軍に代わって村に進行してくるソ連軍の所業など、理不尽な出来事が多発。その中で双子は自分達だけの“正義感”を創出し、それに逆らうものを容赦なく“断罪”してゆく。

 戦争によって価値観が変わってしまう子供を描いた作品にはスピルバーグの「太陽の帝国」等があり、また異常な環境に置かれた子供が自分なりの“世界”を構築するという話としてはテリー・ギリアムの「ローズ・イン・タイドランド」等があるが、本作はそれらに比べて特段優れているとは思わない。

 確かに二人が付ける日記の内容とその映像処理は、通常の世界からは掛け離れた因果律を形成していると思うが、圧倒的に凄味が足りない。そんな小賢しい“遊び”よりも祖母の不気味な存在感の方が完全に勝っている。しかも、やがて双子は何の伏線も無いままにこの祖母と心を通わせてしまうのだから呆れてしまう。

 この祖母は娘である双子の母親とは不仲で、その娘婿ともそれまで会ったことがない。そのため彼女は双子を“牝犬の子供”と呼ぶのだが、そんな関係性を無視するかのように双子がいつの間にか祖母の側に付いてしまい、実の両親を異分子として見るようになるという筋書きは、安易に過ぎるのではないか。

 さらにはラストの処理などは唐突で、(原作ではどうなのかは知らないが)奇を衒ったものとしか思えない。残虐行為を平気で行う双子の描写はケレン味たっぷりで見応えはあるのだが、ホラー映画としての興趣しか感じないのだ。この監督(ヤーノシュ・サース)には馬力が足りないと思われても仕方がないだろう。

 主人公の双子を鮮烈に演じるアンドラーシュ&ラースロー・ジェーマントはもともと素人で、彼ら自身の生い立ちも複雑であることも相まって独特の存在感を醸し出しており、ピロシュカ・モルナールやウルリッヒ・トムセンらの脇を固めるベテラン陣も悪くないのだが、どうも映画自体が非力なのでインパクトに欠ける。

 子供を主人公にしたピカレスク劇としては、フォルカー・シュレンドルフの「ブリキの太鼓」ぐらいの衝撃性を持ち合わせていないと、観る側も満足できない。

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« SOULNOTEとNmod... | トップ | 「愛・旅立ち」 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画の感想(あ行)」カテゴリの最新記事