元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ダークナイト ライジング」

2012-08-14 07:24:48 | 映画の感想(た行)

 (原題:The Dark Knight Rises )前作は評判の割に大した映画だとは思わなかったが、この新作はさらにつまらない。ヒース・レジャー扮するジョーカーが大暴れした「ダークナイト」は、超能力を持たないマスクマンを主人公にした映画の矛盾点が表面化し、その意味でまったく評価できなかったのだが、本作は単純に作劇がヘタである。しかも上映時間が2時間45分と無駄に長く、鑑賞後の疲労感は実に大きかった。

 前作から8年、地方検事ハービー・デントを英雄とすることでゴッサム・シティの治安は保たれていた。一方ブルース・ウェインはデントの悪事を一身にかぶることによって世の表舞台から消え、半ば隠遁生活を送っている。ところがゴッサム・シティの支配をもくろむ凶悪なテロリストのベインが出現。さらには女泥棒セリーナの暗躍がブルースの身辺を危うくする。街の平和を取り戻すために、ようやくバットマンとして立ち上がるブルースだが、敵は強力で逆に窮地に追いやられてしまう。

 今回の悪役ベインは昔のティム・バートン監督版から始まったシリーズの諸作も含めて、一番魅力が無い。ただのプロレスラー崩れのマッチョ野郎にしか見えないのだ。最初のバットマンとの格闘シーンでは圧勝するものの、終盤近くでの再戦ではつまらない弱点(らしきもの)を突かれて負けてしまうという、実に芸の無い展開を見せられる。

 そもそも、ベインがどうしてゴッサム・シティを狙うのか、その動機付けが弱い。大都市とはいえアメリカのごく一部を支配したところで、実体的な経済基盤も持たない都市部だけでは早々に行き詰まる。これではテロリズムというより、ただの愉快犯だろう。

 ベインはブルースと同じくラズ・アル・グール出身なのだが、そのことがどうしてバットマンに対する確執に繋がるのかイマイチ分からない。一回目の格闘で負けたブルースはなぜかラズ・アル・グールに幽閉されてしまうが、どうやって数千キロは離れた場所に連れてこられたのか不明。さらに、そこを脱出したブルースがアメリカ軍が封鎖しているはずのゴッサム・シティにいかにして易々と舞い戻ったのか、それも不明。

 第一、簡単に軍が都市を封鎖できるものなのだろうか。ちょっと考えただけでも、いろいろな政治的プロセスを経ないと無理だと思われるのだが、そのあたりをスッ飛ばしているのは“しょせんアメコミの映画化なんだから、大目に見てよ”といったエクスキューズが感じられて不愉快だ。ブルースの会社の経営に関するゴタゴタも行き当たりばったりでハッキリせず、後半になると、このあたりはどうでも良くなってくる。

 主演のクリスチャン・ベイルをはじめマイケル・ケインやモーガン・フリーマン、ゲイリー・オールドマンといったいつもの顔ぶれは、可も無く不可も無し。ジョセフ・ゴードン=レヴィットやアン・ハサウェイら若手の仕事も特筆すべきものは見当たらない。ハンス・ジマーの音楽は上質でアクション・シーンも盛り上がるのだが、それだけでは映画全体を支えきれない。結局、クリストファー・ノーラン監督による新「バットマン」三部作の中でまあまあ面白かったのは、第一作の「バットマン ビギンズ」だけである。

コメント (3)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« AIR TIGHTのアンプ... | トップ | AIRBOWのシステムを試... »
最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (こうじ@季節の小箱)
2012-08-24 20:32:20
いろいろな矛盾点や不足点が、ネットでたくさん書かれています。言われてみればその通りのことばかりですが、それでも、僕は、よい映画だと思いました。わくわくして、入り込んでしまうことができたからです。
3作を、もう一度、つないで見てみようと思います。
コメント、ありがとうございました。 (元・副会長)
2012-08-27 19:46:45
「バットマン」の最初の映画化は1943年で、戦時中だったこともあり、悪玉は日本人だったそうです。

個人的には「バットマン」といえば、子供の頃に見たテレビシリーズをまず思い出します(リアルタイムではなく、再放送でしたが ^^;)。現在の映画版のようなダークさはどこにもなく、脳天気でコミカルな持ち味が身上でした。「バットマン」というのは、こういうタッチのドラマなのだなぁと思っていたわけです。

だから、ティム・バートン監督版に初めて接した時の違和感は相当なものでしたね。以後、その違和感は今になっても払拭されていません。

テレビ版ではあのテーマ曲が印象に残っていて、ティム・バートン監督版のサントラにも一部使用されていましたな。そういえばバートン版の第一作の音楽はプリンスが関与していて、高レベルな展開を見せていたものです(そのサントラ盤は今でもたまに聴きます)。

それでは、今後ともどうかよろしく(^^)。
Unknown (こうじ@季節の小箱)
2012-08-28 18:50:33
お忙しそうなのに、お返事ありがとうございます。
僕も、小さい頃、テレビのバットマンを毎週楽しみにしていました。
あのバットマンに、こういう苦悩があったのか、と、
僕は、この3部作を歓迎しました。

ブログ再開、楽しみに待っています。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画の感想(た行)」カテゴリの最新記事