元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「夜明けの祈り」

2017-08-21 06:22:22 | 映画の感想(や行)

 (原題:LES INNOCENTES)こういう宗教ネタを前面に出した映画は、個人的には評価を差し控えたいのだが、主演女優の存在感と映像の美しさで何とか最後までスクリーンと対峙することが出来た。また歴史の一断面を知ることが出来るという意味では、観る価値はあると言える。

 1945年12月、ポーランドの寒村。フランスから派遣された若い女医マチルドは、赤十字で医療活動を行っていた。ある日、村の修道院のシスターが切羽詰まった表情で助けを求めてやってくる。マチルドは担当外であることを理由に一度は断るが、寒風の吹く野外で何時間も祈りを捧げている彼女の姿に心を動かされ、現場に出向いてみる。修道院では、7人の修道女がソ連兵の蛮行によって身ごもってしまい、何人かは出産間近だという。マチルドは医者としての使命感により、彼女達を助けようとする。だが、宗教的戒律が彼らの行く手を阻む。第42回仏セザール賞にて主要4部門にノミネートされている。

 確かにソ連兵の暴挙は許せない。しかし、彼女達の行動は理解しがたいものがある。苦しんでいるのに、なぜか外部に助けを求めることを躊躇する。一人の修道女の知らせによってマチルドはこの事件を知るのだが、修道院内には最後までマチルドに対して心を開かない者もいる。しかも、彼女達はこの試練を“神の意志”だとして受け入れようという向きもある。あと、ポーランドの医者に診せてはいけないと主張する修道女もいるのだが、そのあたりの事情がうまく説明されていない。

 ここで描かれる宗教は、人々を救うものではなく逆に障害になるようなものだ。もちろん、それを批判的に扱うことも出来るのだが、本作にはそういう素振りは見られない。何の事前説明も無く、確固とした既成事実として設定されている。これでは納得も共感も出来ない。少なくとも、キリスト教にはあまり縁の無い多くの日本の観客にとっては、ピンと来ないのではないか。

 監督は「ボヴァリー夫人とパン屋」(2014年)のアンヌ・フォンテーヌだが、あの作品に見られた軽妙さが微塵も無く、深刻さばかりが強調されている。作劇面でもメリハリが見られず、盛り上がりが見られないまま終盤を迎えるのみだ。

 ただし、マチルドに扮するルー・ドゥ・ラージュは見所はあると思った。初めて見る女優だが、可愛いだけではなく演技もしっかりしている。特に、何があっても動じないような胆力を感じさせるのが印象的。またカロリーヌ・シャンプティエのカメラによる、冬のポーランドの風景。清澄な修道院内の佇まいの描写は見応えがある。

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