元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ウェディング・ベルを鳴らせ!」

2009-08-03 06:35:17 | 映画の感想(あ行)

 (原題:Promets Moi )なかなか面白い。奇矯なコンテンツと濃いキャラクター、爆発するバルカン・サウンドといったエミール・クストリッツァ監督の“いつもながらの仕事ぶり”なのだが、マンネリ度合など微塵も感じさせずにラストまで引っ張る力業には改めて感嘆する。

 セルビアの田舎でノンピリと暮らしていた少年ツァーネだが、実はこの村は学校も閉鎖になるほどの過疎地域。若者が彼一人しかいない状況を心配する祖父は、ツァーネを都会へ花嫁探しにやらせる。そこで彼は可憐な美女ヤスナに一目惚れし、猛アタックを開始するのだが、それよりも彼が遭遇するブッ飛んだ面々の造型が楽しい。

 売春宿を経営し(ヤスナの母親もそこで働いていたりする ^^;)、不動産関係にも手を広げようとする暴力団のボスはやることがエゲツなくそのパワーにも圧倒されるのだが、彼と敵対する靴屋の兄弟も強烈で、何度となく派手なバトルを展開するものの両者とも“不死身”に近く、その有様はまるでマンガだ。ほとんど即死と思われるシチュエーションに遭遇しても、次のシークエンスには涼しい顔して出て来るのだから笑ってしまう。サーカスの大砲から放たれた人間砲弾が全編ほとんど地上に降りずに、町と村とを行き来して“狂言回し”みたいな役どころになっているのもケッ作だ。

 もちろんこの監督のことだから“ただのコメディ”では終わらない。ツァーネの祖父は孫に街でイコンを買ってくるように頼み、自らは教会の鐘の鋳造に勤しんでいる。もちろんツァーネもそのことに何ら疑問を抱かない。対して街のボスは世界貿易センタービルもどきの建物を中心とした新都心の建設に意欲を燃やし、露骨な地上げも平気で実行する。土着の文化を浸食するグローバリズムという普遍的な図式が盛り込まれているのだが、正面切って描くとワザとらしくなるこの構図もクストリッツァのアクの強い作劇の中にあっては、違和感などまったく感じられない。

 ラスト近くの、ツァーネ達を村まで追いかけてきたボス一味と村の連中との“死闘”は、有り得ない大道具・小道具を大量に繰り出しての乱戦で大いに盛り上がる。近頃珍しいスラップスティック・コメディの王道を歩むような展開で、拍手さえ送りたいほどだ。ウロシュ・ミロバノビッチやマリヤ・ペトロニイェビッチ、アレクサンダル・ベルチェックといったキャストはもちろん馴染みはないが、それぞれ良い面構えで作品世界に上手く溶け込んでいる。本年度のヨーロッパ映画を代表する快作だ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「藏」 | トップ | 「天と地と」 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画の感想(あ行)」カテゴリの最新記事