元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「海は燃えている イタリア最南端の小さな島」

2017-03-11 06:36:08 | 映画の感想(あ行)
 (原題:FUOCOAMMARE )おそろしく重い題材を扱っており、それ自体のインパクトはあるのだが、映画としては面白くない。いくらドキュメンタリー作品とはいえ、観る側に何らかのエンタテインメント性を提示しなければ公開する意味は無いだろう。とにかく、鑑賞中は眠気を抑えるのに苦労した。

 イタリア最南端にある小さな島、ランペドゥーサ島は、北アフリカにもっとも近い。そこに住むサムエレ少年は、友人と遊んだり、祖母やおじさんと過ごしたりして平和な日々を送っている。彼が夢中になっているのは、手製のパチンコで鳥を仕留めることだ。ところが片目の弱視が発覚し、当分の間は治療に専念することにする。一方、この島にはアフリカから大量の違法移民や難民たちが押し寄せていた。国境警備を担当する当局側は、その対処に追われている。



 この島に流れ着く者達は、北アフリカの住民に限らない。中央アフリカや西アフリカ、中東からの難民も多い。その有様は悲惨の一言で、密航のブローカーに法外な“手数料”を支払った上、粗末な船にぎゅうぎゅうに押し込まれ、船底にいる者の多くは息絶えている。

 それでも警備隊に救助されるケースはマシな方で、船が沈没して大半が犠牲になることも少なくないのだ。カメラはそのシビアな状況を冷徹に追う。また、住民が命を賭けて海を渡らなければならない彼の国々の切迫した状況を思うと、思わず頭を抱えてしまう。



 だが、サムエレ少年およびその周囲の人々の日常を綴るパートは、何とも要領を得ない。確かに彼らの静かで平穏な生活とは別に、同じ島では難民たちの辛酸と警備隊の苦労があるという、このコントラストは凄い。しかし、妙に思わせぶりなのだ。件の少年をはじめ、島の住人達は難民たちとの接点は持っていない。しかも彼らの暮らしの描写は中途半端。少年の片目の弱視や、地域の放送局の仕事ぶり等を何らかのメタファーとして機能させようとしているのかもしれないが、すべて空振りに終わっている。工夫が無く平板な撮り方は、観ていて実に退屈だ。

 監督のジャンフランコ・ロージは「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」(2013年)でが第70回ヴェネツィア国際映画祭の大賞を獲得し(私は未見)、本作でも第66回ベルリン国際映画祭で金熊賞に輝いている。彼自身がアフリカからイタリアに逃れてきたという経歴があり、そのテーマの選び方が評価されたと想像するが、個人的にはそれだけでは作品を好きになれない。
コメント
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