M.シュナウザー・チェルト君のパパ、「てつんどの独り言」 

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「マリアージュ」のこと

2015-10-17 | エッセイ

 久しぶりにマリアージュの紅茶、「マルコポーロ」とアニヴェルセルの「オランジェ」が手に入った。この紅茶とオレンジピール・チョコとの相性は抜群。香りが高いマリアージュと、オレンジピールの香りをひそかに抑えたチョコ。まさにマリアージュ(相性)の名にふさわしい。



 <マリアージュとオランジェ>
 
 この紅茶を飲んでいると、懐かしく、ちょっぴり、はかない思い出に突き当たる。

 皆さんには一生に何人、本当に惚れ込んだ、もしくは心が激しく動いた異性がいるだろうか。僕の心象の歴史を思春期から紐解いてみても、危険なまでに惹かれた人は、たった三人しかいない。心の動き、ときめき、感動、絶望、断絶感を手掛かりに捜して見つかった三人だ。

 申し訳ないけれど、カミさんはこの中には入ってこない。妻、主婦、母、そして、パートナーとしての適性で選んでいるようだ。

 Sさんは数少ないうちの一人。

 今はないアニヴェルセル表参道のシャガール・ギャラリーで、学芸員をしていた人だ。今は鬼籍に入って、青山墓苑の梅窓院に眠っている美しい女友達。眠りについた美女は、僕の憧れ、女子美の卒業生。彼女のお別れ会には、体調が悪く表参道まで出かけられず、弔文を送ることしかできなかった。その後、梅窓院で手を合わせて別れた人だ。

 僕はシャガールの絵が大好きで、いつだったか竹橋の現代美術館でシャガール展が開かれた時、僕はある絵のポスターを手に入れた。気に入って、会社でも、自分の部屋に飾り、眺めていた絵、「The Yellow Face」だ。しかし、経年変化で色が飛び、まるで違った絵になっているのを発見して、新しいポスターを手に入れようと世界中のネットを探したが、見つからなかった。

 専門家に助けを求めるのがいいと思って僕が相談したのが、このSさんだった。2000年くらいに、シャガール展で初めてお会いした人だ。Sさんにこの件で依頼したのが、2003年。彼女は折ある度にほかの美術関係者に会い、手造りのパウチを作り、探してくれたが、依然として未解決だ。



 <パウチ>

 絵は見つからなかったが、同病相哀れむという縁が取り持って、僕たちは友達になった。僕が遺伝性の心臓病で死の危険を持ち、Sさんは咽頭がんのステージ5だと分ったからだ。

 懐かしいメールのやり取りが残っている。2007年のバレンタインにプレゼントされたオランジェへのお返しに、僕がホワイトデイにマリアージュを送った時だ。

[僕からSへ]

 マリアージュのマルコポーロを飲んでいて、Sさんの送ってくださったオランジェとの相性が抜群だったので、贈り物には自分で確認している紅茶、マリアージュがいいと決めました。マリアージュをお楽しみください。

[S から僕へ]

 ずっと「マリアージュ」はお菓子やサンドウィッチなどとの相性からの洒落たネーミングだとばかり思っていましたが、今回リーフレットを見て初めて”マリアージュ家”と知りました。日本じゃ考えられない苗字ですもの。

そして、最後のメッセージとなったのが、これ。

[S から僕へ]

 桜の開花宣言もアタフタな定まらないお天気が続いております。体調いかがでしょうか? 私は又、入院となりました。今日は引継ぎやら、あれこれで半日出社しましたが、これから両親のお墓(外苑前)にお彼岸の挨拶をしながら帰宅します。落ち着いたら、得意のアナログ(アナクロに近い?)でお手紙いたします。くれぐれもご自愛下さい。私も前向きにガンバリま~す。



 <美しい字>

 その一週間後、がんのオペ中に大量出血して、Sさんはあの世へ行ってしまった。気持ちは濃密だったけれど、物理的には一度、僕が彼女の腕を取ったことがあるだけだ。もちろん気持ちの告白もない、会話と手紙とメールのやり取りだけで終わった5年足らずの時間だった。

 このSさんが、僕が心でいとおしんでいる数少ない女性だ。もし、彼女の余命が長かったら、きっと僕たちはいいお付き合いができただろうという確信がある。しかし、それは今や夢。

 一杯の紅茶が、そんな思いを思い出させてくれる、味わい深いマリアージュだ。


P.S. :1.マリアージュとはフランス語で、「結婚」という意味もあります。
    2.僕はアニヴェルセル表参道の回し者ではありません。


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