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”線”を引くのは大事なこと? ー「境界」 高山明+小泉明郎展 @銀座メゾンエルメス フォーラム

2015年09月05日 | アート●オススメ展覧会●

銀座メゾンエルメス フォーラムで開催中の「「境界」 高山明+小泉明郎展」に行ってきました。

アーツ前橋 館長の住友文彦さんのキュレーションです。
今年のベネツィアビエンナーレの指名コンペティションで、住友文彦さんは「小泉明郎・高山明《閾と境界》」という企画をされていたこともあって、とても気になっている展覧会でした。

銀座駅からすぐの銀座のエルメスビルの8階が会場です。


小泉明郎さんの作品 「忘却の地にて」は、2つの映像から成る作品。
壁には、戦争を思わせるような小さな絵がいくつか展示されています。

(「「忘却の地にて」/ 小泉明郎 / 展覧会HPより) 

 

1つめの映像では、海や炎の映像を背景に、過去に自分の犯した罪を告白するような男性の声が流れてきます。同じ内容を何度も繰り返したり、時折、「うわぁ!」「違う…違う…」と苦しみながらの語りです。
詳しい背景は分かりませんが、展示されていた絵のイメージもあり、戦時中のトラウマのような”思い出したくない記憶を、無理矢理に思い出して苦しんでいる”様子に聴こえてきます。

続いて、2つめの映像を見てみると、先ほどの作品と全く同じ音声で実際に男性が話している様子が映し出されています。
そして、それは事故で記憶障害を持った男性にテキストを覚えてもらって”思い出したいのに、思い出せなくて苦しんでいる”様子であることが分かります。

作品を見てまず感じたのは、「思い出したくない事を思い出す」「思い出したい事を全く思い出せない」という正反対の状況なのに、思わせぶりな映像やテロップ、まわりの絵といった演出で、実際に起こっている事とは正反対の捉え方をさせる事ができてしまうことの怖さです。
語り手は決して演技をしているわけではないのに、「思い出せないことへの苦しみ」を、観る人が脳内で別の苦しみに置き換えて、本人とは全く関係のないテキストに妙な現実味を持たせてしまうことも不思議に感じました。

一方で、記憶障害の男性が非常に苦しみながら自分に何の関係もないテキストを覚え、日が暮れるまで苦しみ続けている様子を見ていると、こんなことを記憶することにどれだけ意味があるんだろう?とも思いました。
日常生活では、自分の人生が豊かになるのか分からなくても「覚えなければいけないこと」ってたくさんあって、それを覚えていられないと”ダメな人”と考えてられてしまうような気もします。でも、その記憶って自分の人生のためにどれだけ大事な記憶なんだろう?ということも考えてしまいました。

 


高山明さんの作品は「ハッピー・アイランド――義人たちのメシア的な宴」という、いくつかの映像を組み合わせたインスタレーションです。

(「ハッピー・アイランド――義人たちのメシア的な宴」/ 高山明 / 展覧会HPより)

 

”義人たちのメシア的な宴”は、ヘブライ語聖書に描かれた最後の審判の日における義人(=聖人)たちの宴の絵。この絵の中で、義人たちは牛などの家畜の姿に描かれています。

高山さんの作品では、牧場で牛たちが干し草を食べ続ける映像が5つのディスプレイに映し出されています。一見、とても牧歌的な風景に見えましたが、歩きながらひとつひとつのディスプレイを歩きながら見て行くと、”緑があり、たくさんの仲間と一緒に食事をする”ユートピア的な風景から、”食べ物もなく、一頭だけで雨と泥の中に立っている”という、ディストピアをイメージさせるような風景に移り変わっていっていくことに気づきました。

さらにこの作品の舞台が福島の警戒区域にある「希望の牧場」という牧場であり、原発の事故によって大量の家畜が遺棄された、という情報が与えられると、はじめと最後の映像の正反対なイメージの壁がより高くなるように感じます。

でも、はじめと最後のディスプレイの映像は正反対の世界観に見えても、グラデーションに変化していく様子を見ていると、そこに明確な境界は存在しないように感じました。

 

 

(左から 小泉明郎さん、住友文彦さん、高山明さん / 展覧会HPより)

 

2つの作品と、展覧会タイトルの「境界」から感じたことは、「ユートピア」と「ディストピア」、「現実」と「虚構」のように正反対に見える事柄も、実は表裏一体であって、どちらも間違いではないし、その境界なんてすごく曖昧なもなのかもしれないということでした。

日常の生活や仕事の中で「賛成/反対」をはっきり表明しなければいけなかったりする場面は多く存在して、中間は許されない事に息苦しさを感じたり、特にインターネット上では、「賛同しない = 反対派 」といった書き方を目にする機会も多く、違和感を感じることも多くあります。

でも、本当にそんな風にはっきり”どちらか”で答えないといけないものか?
はっきりと境界を引くことって、本当にいつでも大事なことなんだろうか?

そんなことを考える展示となりました。


なかなか読み解くのが難しく、展覧会タイトルやパンフレットの絵や文を一生懸命読みながら主題を探っていく展示で、文章を読んでいると、自分が感じ取ったことは、キュレーターさんや作家さんの思惑とは少しずれているかもしれないとも思いましたが、自分で考えていろんな捉え方ができる余地を残してくれているような展示でした。

エルメス公式HPの紹介映像では、作家さん・キュレーターさんの声を伺ったり、会場の雰囲気を知る事ができます。

 

 

10月12日(月・祝日)までです。

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■ DATA■

「境界」 高山明+小泉明郎展

(銀座メゾンエルメス フォーラム)

開館日: 2015 年 7 月 31 日(金)~10 月 12 日(月・祝)
開館時間:月~土 11:00~20:00(最終入場は19:30まで)
日 11:00~19:00(最終入場は18:30まで
会場:銀座メゾンエルメス フォーラム
休館日:エルメス銀座店の営業日に準ずる。 ※9月18日(金)休館
入場料:無料

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