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目の前にあるのに 遠すぎる”向こう側”。 ーChim↑Pom展「The other side」 @無人島プロダクション

2017年03月19日 | アート●オススメ展覧会●

清澄白河で開催中の
Chim↑Pom展『The other side』 @無人島プロダクション
に行ってきました。

(無人島プロダクションの入り口にあったこちらの絵が、今回のプロジェクトの概要を表しているようです。)

メキシコのリベルタを舞台に昨年からChim↑Pomメンバーが現地で製作してきた新作の展示です。新作のテーマは「ボーダー」。Chim↑Pomらしくタイムリーなテーマですが、最近”国境問題”を耳にすることは増えたけれど、日本に住んでいるといまいちピンとこない…というのも実際のところ。

Chim↑Pomが今回”ボーダー”をテーマに扱ったのは、メンバーのエリィさんが現在もアメリカに入国拒否されていることがきっかけとなっているそうです。(エリィさんの入国拒否の原因は、テレビ出演でハワイロケに行った際に、クルーの中にブラックリストの人がいた”とばっちり”ようです。本人に非がなくてもそんなことが起こるのか…とまず驚きでした。)


会場の無人島プロダクションの入り口はシャッターが閉まっていて、入って良いのか不安でしたが…あいてました(^_^;

(このシャッターの理由は中に入ってわかりました。)


中に入ると、秘密基地のような小さな小屋と雄大なメキシコの風景写真、子供たちの歓声に動物の鳴き声…普段のギャラリーとは随分違った空間になっています。

(ギャラリーの中に再現された「U.S.A Visitor Center」。)

今回の展示の起点となるのは2015年の「Koyote」。NYの個展でパフォーマンスを行うためにアメリカを訪れようとするものの入国できず、Skypeを通じてキュレーターとやりとりを行う映像をベースにした作品です。ヨーゼフ・ボイスの作品のオマージュとして制作された作品ですが、「アメリカでも日本でも犯罪を犯したわけでもないのに、なんでアメリカに入れないの?!」というエリィさんの言葉が印象的で、何もしていないのに、もともとあったはずの権利が突然剥脱されるような理不尽なことが起こる怖さを感じました。

会場内にある小屋は、アメリカとメキシコの”国境の壁”を自宅の壁の一部にして暮らしている家の木ににつくった「U.S.A Visitor Center」。

(「U.S.A Visitor Center」の中から映像作品を見ることができます。)


「ビジターセンター」というのは、”(自然保護区域など)立ち入りが制限される場所でその場所についての情報をくれる場所”を表しているそうで、2015年に福島の帰宅困難区域につくった「Non-Visitor Center」に続く”入れない場所”への「ビジターセンター」です。
国境の壁を超えて”向こう側”に行くことは許されませんが、国境の壁よりも高い位置につくられたツリーハウスからは”向こう側”の景色がよく見えます。木の上から眺める”見えるけれど入ることのできない自由の国”は、どんな風に見えるのでしょうか。

ところで、メキシコとアメリカの国境を越えるのはどれだけ厳しいのか、と疑問に思いますが、この国境の壁は二重になっていて、この2つの壁の間(といっても公園のように広い土地ですが)は「no mans land」という、監視の人間だけが行き来できる場所になっているようで、メキシコ側の壁は、子供たちが乗り越えて遊んだり、地元の人が壁の向こうにゴミを捨てたり…と、あいまいな”ボーダー”になっているようです。
その壁の”向こう側”に「『自由』の墓」を建てたのが「LIBERTAD」。アメリカの象徴的理念である『自由』が死んでいることを表現するというものものしい作品でありつつも、FRP で制作した墓はアメリカのアニメや遊園地の遊具に出てくるようなポップさがあって、”入りたくても入れない”状態を茶化しているようにも見えてきます。

(どこまでも続くような国境の壁の内側に建てられた「LIBERTAD」。)

また、監視の目をかいくぐって壁を乗り越えたり、壁の下までトンネルを掘ることで国境を越えようとする人たちもいるそうです。そのトンネルを通り、合法的にアメリカの土を踏むエリィさんのパフォーマンスも作品となっていましたが(「The Grounds」)、”向こう側”に足跡を残すことが、まるで月面に足跡を残すのと同じくらい困難なことに見え、目の前にある”向こう側”との大きな距離感を感じられます。
(「The Grounds」は、とても気付きづらい場所に展示されていて危うく見逃してしまうところでした…)

(「The Grounds」で残されたエリィさんの足跡。)

「国境問題」というテーマは重いですが、子どもたちの歓声や犬の鳴き声が響き、小さなころに夢に見たような大きなツリーハウスや遊園地の遊具のようにポップな「『自由』の墓」のある会場は、そんな重さを感じさせず、楽しげな印象すら与えていました。
国境の壁の向こう側にある”自由の国”と”自由の墓場”。
壁の向こう側とこちら側、どちらが良いのかはわからないけど、少なくともそれを選ぶことができない、という現実があるということを知る展示でした。


とはいえ、もし、ブラックリストに載っている人と一緒に日本に入国してくる人がいたら…?と考えてみると、やっぱり少し怖いというのも本音。展示を思い返しながら、自分の中にある”ボーダー”にも気づかされるような気分でした。

なお、3月17日(金)~3月27日(月)は休館中なのでご注意ください。

 

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■Chim↑Pom展『The other side』 @無人島プロダクション(清澄白河)

会期:2017年2月18日(土)~4月9日(日)
時間:火~金曜12:00~20:00 土、日曜11:00~19:00
休廊日:月曜、3月17日~3月27日


本展でChim↑Pom は、「ボーダー」をテーマに、2016 年から2017 年にかけてメキシコ・ティファナと アメリカ・サンディエゴの国境沿いで制作したアートプロジェクトを発表します。


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