■「日本の 現代アートが ここにある。」—日本の現代アートを俯瞰する展覧会。
先日、イギリスの美術館の専門月刊紙『The Art Newspaper)』が、草間彌生さんを”2014年 最も人気なアーティスト"と発表したというニュースがありました。(「草間彌生は「世界で最も人気なアーティスト」と美術専門紙が発表」/ Fashionsnap.com)
(「レペティションA, B」/草間彌生 展覧会チラシより)
そんな草間彌生さんを初めとして、村上隆さん、奈良美智さん、横尾忠則さん、森村泰昌さん、名和晃平さん…といった日本の著名な現代アーティストの作品が集まる展覧会が東京オペラシティで開催されています。
高橋コレクション展 ミラー・ニューロン @東京オペラシティ アートギャラリー
(展覧会チラシ)
これらの作品が全て精神科医・高橋龍太郎さん個人のコレクションだというから驚きです!1997年から90年代以降の日本現代アートを中心にコレクションを開始し、今、所蔵作品は2000点にも及ぶそうです。
2008年に上野の森美術館などで開催された「ネオテニー・ジャパン 高橋コレクション」展で展示されていた作品の多くに再会することもでき、さらに2010年以降の新しい収蔵作品にも出会う事ができます。
■「ミラー・ニューロン」って何?
さてこの展覧会、入り口で作品リストが手渡されますが、普段美術館で目にするような「章立て」や「作品解説」などのキャプションは一切ありません。それでも、”作品が何を表したいのかが全然分からない…”なんていうストレスは感じませんでした。
アーティストが著名で作風が分かっていたり、作品の色やかたち自体が美しいから、という理由もあると思いますが、作品に含まれる皮肉や冗談もすっと感じ取る事ができるのは、同じ国で同じ時代を経験しているから、作品に込められた感覚が自然と身体の中に流れ込んでくるのではないかなと思いました。
(展覧会チラシと作品リスト)
ところで、タイトルの「ミラー・ニューロン」という聞き慣れない言葉は一体何なのでしょう? HPには、
”ミラー・ニューロン」とは、他者の行動を見て「鏡」のように自分も同じ行動をしているかのように反応する神経細胞を意味し、それは他者との共感や模倣行動をつかさどるとも考えられています。”
と、ありました。現代の社会で起こっていることが作品のテーマとなり、それに対してアーティストが思っている事を作品を通じて追体験させてくれる、(アーティストの”作品”を見て、自分も同じ行動をしているかのように反応してしまう)そんな意味合いも含まれているのかなと思いました。
(「第三のモナ・リザ」/森村泰昌 展覧会チラシより。
図録の中では様々な作品の「過去の作品へのなぞらえ・引用」の指摘がなされていました。)
■ 作品に写し出される世界。
この展覧会、キャプションもなく、作品はアーティストごとに淡々と並べられているように初めは感じました。
ただ、前後の並びが作風や思想でゆるやかにつながっているとともに、展示の部屋ごとにテーマがあるようにも感じられました。
例えば、昭和40年会メンバー周辺の作品が並ぶ部屋では、
- 小沢剛さんの「ベジタブル・ウェポン」「地蔵建立」
- 会田誠さんの「紐育空爆之図」「美しい旗」(戦争画RETURNS)
- 大岩オスカールさんの「ガーデニング(秋の銀座)」
- 山口晃さんの「當世おばか合戦」
など、戦争や争いをテーマにした展示で構成されているように感じました。類似のテーマでも、全く違ったアプローチで製作され、そこから受ける印象が全く異なるのが面白いです。
(「ジューサーミキサー」/会田誠 展覧会チラシより)
一番印象に残った部屋は、今回のメインビジュアルにもなっている名和晃平さんの作品が展示された部屋でした。
- ライオンの剥製を起点にガラスビーズが増殖していくような、名和晃平さんの「PixCell-Lion」
- 海の潮か粘菌のように、緻密なレース状に加工された紙が天井に向かって広がっていく、塩保朋子さんの「cosmic perspective」
- ガラスケースに閉じ込められたナフタリンが揮発し、形を変えてケースに付着していく宮永愛子さんの「はるかの眠る舟」
どれも乱雑な方向へと形を変えながら拡張していくしたたかな自然の様子を表しているように感じました。
■ 個人でアートをコレクションするということ。
90年代以降を中心に、日本の現代アートを俯瞰するような展覧会ですが、ここに展示されている「52作家による約140点の作品」は約2000点に昇るコレクションのうちのほんの一部。
なぜ個人でこれほど収集するんだろう、これほどの作品を個人が所持する感覚ってどんな感じで、それらの作品を守るプレッシャーはどれほどなんだろう…そんな疑問が浮かんできます。
コレクションが始まるのは、バブル崩壊直後の1990年代。展覧会図録にある「高橋龍太郎年譜」には、
”2000年 54歳 この当時、美術館に購入予算がつかないため、ギャラリーを巡れば心を打つ作品に出会う、コレクターとしてよい時期に恵まれる”
とありました。また、「アートコレクターという豪快な生き方「高橋コレクション」(CINRA.NET)」の記事では
「高橋が収集活動を加速させていった背景には、ある種の使命感が働いていたのではないでしょうか。つまり、日本の現代アートの新しい芽生えを応援し、育てたい、そしてその優れた成果が海外へ流出してしまうのを食い止めるには、もはや個人のコレクターの力しかない……。」
と述べられています。個人のコレクターだからこそできることがあって、そのお陰でこうして国内でいくつもの作品に触れる事ができるんですね。普段あまり考えることのない、コレクターの想いの部分にも想いが巡る展覧会でした。
(「ハーイ、コンニチワ! ポチ」/ 草間彌生
展覧会場ではこちらの作品のみ撮影OKでした)
「高橋コレクション ミラー・ニューロン」展は6月28日(日)までです。
日本の現代アートを一度に体験できる機会。ぜひどうぞ。
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なお、同時開催の「project N 60 富田直樹」もとても面白かったです。
(「project N 60 富田直樹」展 パンフレット)
遠くから見ると油彩風に加工した写真のようにも見えますが、近づいてみるとそれは非常に分厚く重ねられ、”絵画”かどうか迷うほどの絵の具で構成されていました。
描かれた「もの」が、たっぷりと重みのある絵の具でできた抽象的なオブジェみたいに変化してしまう様子がとても面白かったです。
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■DATA■
高橋コレクション展 ミラー・ニューロン
TAKAHASHI COLLECTION: Mirror Neuron
期 間: 2015年4月18日[土]─ 6月28日[日]
会 場: 東京オペラシティ アートギャラリー[3Fギャラリー1, 2]
(交通アクセス / フロアマップ)
開館時間: 11:00 ─ 19:00 (金・土は11:00 ─ 20:00)
休館日: 月曜日(ただし5月4日は開館)
入場料: 一般 1,200円(1,000円)、大学・高校生 800円(600円)、中学生以下無料
*同時開催「収蔵品展 051 3O+A」「project N 60 富田直樹」の入場料を含みます。
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最後までお読みいただき ありがとうございました。
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