3次元紀行

手ぶらで地球にやって来ました。生きていくのはたいへん。そんな日々を標本にしてみました。

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パパ

2008-12-26 21:00:01 | ほら、ホラーだよ
ほら、ホラーだよpart.41

 しかし、驚きの声をあげたのはぼくだけではなかった。
おばさんが「にいさん」と言い、マミさんが「専務さん」と言い、所長さんらしい人は「民生委員さん」と言った。
 え?
 専務さん?
 民生委員さん?
 おばさんももの問いたげな顔をしている。そんなおばさんにパパはあとで、とでも言うように目配せをしながら、マミさんの肩を安心させるかのように2~3度ポンポンとたたいた。そして名刺を取り出すと、笹山さんに向き直った。
 「たいへん、お疲れ様でございます。わたくし、キヌタインテグレーションスタッフサービスの専務取締役をしておりますこういうものでございます。今後ともよろしくお願い申し上げます。笹山様。いかがでございましょう。こんなところもなんでございますから、これからカラオケにでも繰り出しませんか?ご接待させていただきますよ」
 パパは笹山さんをまるで大事な取引先でもあるかのように手を差し出した。笹山さんはパパの名刺を両の親指と人差し指でつまんでながめながら、パパに言われるままに立ち上がった。
 「いやあ、あいにくわしは名刺を切らしておって失礼します。しかし、カラオケはわしゃ好かんなあ」
 そう言いながらもどうやらまんざらでもない様子だ。ご接待ってパパが言ったことが気に入ったのかな?パパはといえば断られたみたいなのに一向に気にせず、笹山さんの腰に腕を回して一緒に歩きながら連れ去らんばかりの勢いでしゃべっていた。
 「いえいえいえ、亡くなられた笹山さまの奥様はカラオケがお好きでしたねえ。町内会のカラオケ大会でいつもご一緒させていただいておりましたが、奥様は、本当はご主人も連れて来たいんだということをいつもおっしゃっておりました。しかし、ついぞ一緒にいらっしゃることはありませんでしたなあ。今日は、奥様のお好きだったカラオケに行き、奥様を偲んで熱唱しましょう。
 笹山様は誰が好きですか?東海林太郎さん?三波春夫さん?三橋美智也さん?笠置シズ子さん?淡谷のり子さん?菅原都々子さん?美空ひばりさん?」
 突然、笹山さんが立ち止まった。後からついていったぼくたちは笹山さんの後姿が小刻みに震えているのを見た。笹山さんが怒ってどなりだす!とぼくたちはみんなそう思った。
 ところが、笹山さんは泣きだしたのだ。うっうっと泣いてパパの名刺を両手で持っているものだから両手がつながったまま両手で涙をぬぐったので、まるで泣きじゃくっている感じになってしまった。
 「そうじゃった。あいつはなあ、カラオケが好きでなあ、いっしょに行かないかとは、まあ、言うとったがなあ、わしゃ機械はようわからん。歌える歌も少のうてな、ええ恰好もでけんからことわっておった。あいつが町内会のカラオケ大会に行くときゃカレーをこしらえてなあ、あとはよろしくってあわただしくでかけていきおったが、そうか、わしを連れてきたいといつも言うとったか・・・。そんなに一緒に行きたいと思ってたんならあんとき一緒にいってやればよかった。今更行ってもあれがおるわけじゃなし、わし1人が歌ってもわびしいばかりじゃ。今日は家に帰って、線香でもあげて寝よう」
 笹山さんはやっと帰る気になったらしい。それにしても意外な展開だった。だけどパパが町内会のカラオケ大会に行っていたなんて、ちっとも知らなかった。
それに、え?パパはキヌタインテグレーションスタッフサービスの専務さんなの?初耳だよ。どうなってるんだ?
 パパは所長さんらしい人に言った。
 「所長さん。どうもお疲れさまでした。あとは民生委員の私にお任せください。どうかショを閉めてお帰りください」
 所長さんらしいと思ってた人は、やはり所長さんだったんだ。
 気がつくと、部屋を埋め尽くしていたアマノジャクの屁が一体もいなくなっていた。
 団体交渉は終わりっていうところかな。
 ぼくら一行は所長さんを残して外に出た。
 しかし、外に出てみると外にはまだ数体のアマノジャクの屁がふらふらと浮かんでいた。そして、デイケアの門前はバイクとウンコスワリをしている不良たちにふさがれていた。
 「まずいな」
 パパが言った。
 「まあ、なにもしないとは思うけど、無理して通らなくてもいいだろう。学校の給食室のほうにまわって裏門から出よう」
 デイケアと学校は駐車スペースを共有しながらつながっていた。人が行き来できる通路もあって、境は植え込みと簡単な木の扉でしきられていた。
 ぼくたちはそちらに行こうとしたが、何を思ったか笹山さんが不良たちのほうにつかつかと近づいていった。止める間もなかった。
 笹山さんは例の大声でどなった。
 「こらーっ!」
 「あちゃー」ぼくたちは目をおおった。
 みるみるアマノジャクの屁たちが集まってきて笹山さんの背後に並び立った。また団体交渉か・・・笹山さんはアマノジャクの屁にあおられでもしているかのようにお説教モードになっていた。
 「こら、おまえたちはこんな夜遅く、こんなところで何やってるんだ!」
不良たちは、最初あっけにとられていたが、相手が老人と見るとハナでせせら笑った。
 「なんだよジジイ。すっこんでろ。よけいなお世話だ」
 しかし笹山さんはひるまなかった。
 「今何時だと思ってるんだ!おまえたちは毎晩毎晩遅くまでこんなところでバイクを乗り回しおって、かねてよりうるさいと思っておったのだ。しかもカップラーメンの殻とかコンビニの袋だとかゴミをたくさん撒き散らしたまま帰っていく。いったい誰が毎日毎日掃除してると思ってるんだ。掃除ぐらいして帰れ!迷惑千万きわまりない。それっくらいのことがわからんのか、馬鹿者ども!どうせ学校にもろくにいかんでふらふらと遊んどるんじゃろう。お母さんが泣いてるぞ。それになんだ!お前たちは未成年だろうが、煙草なぞ吸ってはいかん!」
 笹山さんはいきなり1人の少年が吸っているタバコを取り上げて路上に捨て、靴で踏みにじった。
 「なにするんだよ、ジジイ!」
 タバコを取り上げられた少年が笹山さんを殴った。むろん、笹山さんはふっとんだ。
 「これこれ、相手は老人なんだ、手荒なことをしちゃいかん」
 パパがとめにはいったけれど、パパも殴られた。
 「おーい、里芋!警察に電話して!」
パパが少年たちに取り囲まれ、胸倉をつかまれながら叫んだ。おばさんがポケットから携帯を出したが、しかし電話するどころではなかった。不良の一部がこちらにやってきたからだ。
 「なになめたことしてんだよ!オバサン」
 パパが叫んだ。
 「逃げろ!裏口から!」
 マミさんはタヌ吉の手をひき、おばさんはぼくやヤッチン、八木沢由美子をおいたてるようにして、みんなで駆け出した。
ぼくたちは木戸をあけて、学校の敷地に滑り込んだ。給食室の裏手に裏門があるのだが、裏門には南京錠がかかっていてあかなかった。不良たちがすぐ後に迫っている。ぼくたちは追われるまま体育館の裏手の方に走り、渡り廊下を横切って校庭に出た。渡り廊下を横切るとき、おばさんはぼくに携帯を渡して言った。
 「あんたチビだからひとりどこかに隠れてママに電話して」
それでぼくは一人、校舎の影に隠れて、不良たちをやりすごし、体育館の壁にうずくまるようにしてママに電話をかけた。
 「警察に電話して。学校とデイケアで不良グループに襲われているんだ。パパが殴られている。いそいで」
 携帯電話をポケットにしまうと、おばさんたちがいるはずの校庭に様子を見に行った。
 おばさんたちは不良たちにつかまっていた。
 「携帯電話をよこせ」
 不良たちはおばさんのコートのポケットを探ったり、ジャージのピケットをさぐったりしていた。
 「こら、どこさわってる、すけべ!」
 おばさんが叫んでいる。
 「なんだよ、さわりたくてさわってんじゃねえよ。ドブスのくせに」
 「ドブスですって!」
 おばさんがドブスと言った少年をドついた。おばさんはブスと言われるのが大嫌いなんだ。
 「なにすんだよ!大人しく携帯渡せよ!ドブス!」
 「逃げる途中で落としてしまったよ!探しに行くから放せ、このエッチ!」
 「なんだこのアマ、ドブス、ドブス、ドブス」
 「エッチ、エッチ、エッチ!」
 まあ、注意をそらすためとはいえ、子供っぽいやりとりになってきたな、とぼくは密かに思っていたら、不良グループもそう思ったらしい。
 「お前、なに子供っぽいことやってるんだ?こいつらが携帯で連絡が取れないならそれでいいんだよ。あとでおれ等が探しに行こうぜ。それより、なんか人数足りなくないか?もっとガキがいなかった?」
ジャンル:
小説
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