3次元紀行

手ぶらで地球にやって来ました。生きていくのはたいへん。そんな日々を標本にしてみました。

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初詣

2009-01-10 11:23:43 | ほら、ホラーだよ
         注・この写真は高宮神社と何の関係もありません。

ほら、ホラーだよpart.44
  
 そうそう、ぼくはパパに聞きたいことがたくさんあったんだけど、あいかわらずパパは日曜日は昼まで寝ているし、夜は遅い。いまさら改まった口調で、「パパ、お話を聞きたいんですけど」とも切り出しにくくて、ずるずると日にちがたっていた。
 おばさんから小出しで多少は聞いた。
 それによると、どうやら、パパは昔から変化さんたちの相談にのっていたそうで、大人になって人材派遣の会社で仕事をするようになってから、人材派遣という形なら変化さんたちに仕事を世話することができると思いつき、電話一本でキヌタインテグレーションスタッフサービスを立ち上げたんだそうだ。変化さんたちにヘルパーの免許をとらせ、介護サービスを手がけるようになってから、町内会にも顔をだすようになり、昨年から民生委員もたのまれるようになったとか
 「ふーん。おばさん、知ってた?」
 「知るか。兄貴のやることなんかいちいち」
 そんなものなのかな。
 「じゃあ、ママは知ってたのかな、パパのこと」
 「町内会でカラオケ行ってたのは知ってたみたいよ。それより、パパが実は座敷オヤジとかと付き合っていたのに、私たちに何にも言わなかったってのが驚きだね。だから、ママが建て替えたい、なんていったとき、反対はしなかったけれど、積極的に動かなかったんだよ。座敷オヤジが消えてしまうというのがわかってたからね。でもママの気持ちも大事にしたい。それでパパは自分が判断を下さなくていいように家じゃ寝てばかりいたんじゃないのかなあ」
 その気持ち、わかる。決断を迫られたくないというぼくの性格はパパゆずりなんだ。
 そんなパパだけど、珍しくパパからお誘いがあった。
 「初詣は地元の高宮神社にいってみないか?」
 高宮神社といえば、お手伝いのマミさんや子供のタヌ吉たちが住んでいるボロアパートの隣にある神社だ。うちのポストにときどきその神社の「お祓い」と書かれた白い袋が入っていて、新聞などといっしょにリビングのテーブルの上においてあったりするのを見かけることがあった。が、ついこのあいだまでその神社がどこにあるのかさえも知らなかった。キヌタインテグレーションスタッフサービスという会社をおばさんと地図で探していたときに地図上で位置を知り、タヌ吉の後をつけて、タヌ吉のアパートまで行ったとき、その隣に高宮神社があるなあと思った程度で、まだお参りはおろか足を踏み入れたことさえも無かった。
 高宮神社は、はっきり言ってさびれていた。
 初詣というとぼくは駅から参道までびっしりとつながった人の波や交通規制のおまわりさん、沿道にたち並ぶ屋台などが頭に思い浮かぶのだが、高宮神社にはそういったものは一切なかった。
 人の流れはむしろ駅にむかっており、沿道の商店街は謹賀新年の紙を貼って閉っていた。おばさんも含めたぼく達一家4人は人とは逆の方向にサクサクと歩を進めた。境内に入ると、さすがにお参りの人が少しは来ていて自動販売機でおみくじを買ったりしていた。社務所の小窓は開いていたけど、無人で、ちいさな呼鈴があり、「御用の方は押してください」との張り紙がしてある。
 パパはその張り紙を声を出して読んだ。
 「ほほう。御用のある方は押してください・・・と。では」
 なんと押してしまった。押して、実際人が出てきたらどうするんだろう。と思う間もなく、人が出てきた。
 「やあ」
 出てきた人は言った。
 「どうも」
 パパが言った。
 えっ?知り合い?
 「小学校のときの友達よ」
 とパパは言った。
 「ちょうどいいところに来た。もうみんな来てるよ。あがって」
 その人は言った。
 神社みたいなところに上がるの初めてだ。だって、明治神宮だって、川崎大師だって、人の流れにくっついていって本堂まできたら遠くからお賽銭を投げ入れ、その流れでまた帰路を辿って帰るだけだったから。
ママやおばさんが入り口でコートを脱ごうとすると、その人は「部屋に着くまでは寒いからどうぞ着ていってください」と言った。それでぼくたちは靴だけ脱いであがり、その人についていった。
 その人はどんどん先をあるいていく。けっこう早足で、ぼくたちは一生懸命ついていった。そして、一生懸命歩いているにもかかわらず、なかなか目的地にたどり着かない。この神社は外から見るより随分広いんだなあと思いながらついていったが、それにしてもいったいどうなっているんだろう?と思う頃、やっとその人はとある部屋の前で止まった。襖を開けるとさーっと明かりがこぼれ、中にあつまっていた人々がいっせいにこちらを見た。
 どこかで見たような人たちだ。町内会の人たちかな?商店街で見かけた人だろうか?みな恰幅がよく、頭の長い人や白髭をたらした人、耳たぶがふくれている人など、個性豊かで、正月の晴れ着を着ているせいか、まるで絵を見ているみたいに色彩が鮮やかだった。
 「やあ、民生委員さん、あけましておめでとうございます」
1人がそう声をかけるとその場にいた人たちはいっせいに「あけましておめでとうございます」と口々に挨拶をした。
世話人らしい人が出てきた。
 「昨年はお疲れ様でした。ま、ま、ま、どうぞどうぞ、これはこれはご家族の方たちで。奥様に、ぼっちゃん、そして小説家の先生、
まずはお屠蘇をいっぱい。お料理もどうぞ召し上がってください。もうしばらくすると新年のお神楽がはじまりますよ」
 世話人さんはぼく達を席に案内し、飲物や食べ物をすすめてくれた。
 どこからかタヌ吉と、あの明日香ちゃんに似た女の子も出てきた。タヌ吉は「おにいちゃん、あけましておめでとう」と言ってぼくにくっつくようにして座った。
マミさんもやって来た。マミさんは今日はころころ太ったおなかに帯をしめた着物姿でおめかしをしていた。
 「まあ、きれいですこと」などとママはマミさんにお愛想を言っている。
パパの隣にはあの、丸モジャめがねがやってきたので、ぼくはびっくりしてしまった。丸モジャめがねはいつぞやぼくがタヌ吉の後をつけて、松風荘に行ったとき、ぼくをモルモットにして・・・じゃなくてモルモットをぼくにした怪しげな博士だ。あの丸モジャめがねがパパの知り合いだったなんて!
 「小学校のときの友達よ」
 と、パパはまた言った。
 丸モジャめがねはぼくの顔を見てにぃっと笑った。
 「その後研究はどう?」とパパが聞いている。
 「相変わらずさ。三次元コピーは白日のもとでは5分ともたない」
 「それでいいのかもよ。だって、三次元コピーが実用化されたら、誰かになりすまして悪いことするやつがふえるよ、絶対」
 「それがぼくにはわからない。だって自分のログには自分のしたことが全部記録されるんだぜ。あの世に帰ったら全部ばれちゃうじゃないか。そしてあの世に帰らない人間なんていないんだからね。こんなに割の合わないことないのにさ」
 「それがさ、普通の人間はわからないのさ。この世限りだと思ってるし、誰もわからないと思うからやるのさ。この世はクイズ番組みたいなものさ。そしてドッキリテレビだ。あの世に還ると、先に還っている知人友人親類縁者などのまえで自分のログが公開される。隠しておいたこと、人を欺いたこと、全部見られてしまうんだ。でも、生きている間、誰もそんなことになるなんて、思いもしないのさ」
 「しかしそれにしても人間というのはよく悪いことを次々思いつくね。ニュースなんか聞いてると、悪者たちの頭のよさにはつくづく感心するよ。あの頭のよさと、やる気とエネルギーを、もっと有意義なことに振り向けたら世の中ずっと住みやすくなるのに、って思うんだけどねえ。
ぼくはさ、無い智恵絞って見た目に悩む人のために整形手術より害の無い三次元コピーをつくろうと思っているだけなのさ。それを、なに?なりすまし犯罪に使うだって?なんてことを考えるんだ!」
 「いやー、ぼくだってそれあったら悪用したいよ。イケメンをコピーしてもらってさ、銀座あたりを歩きたい。きっともてて楽しいぞ」
 「なに言ってるんだよ。こんな美人の嫁さんもらってさ」
そんな騒がしさがぴたりと止まったのは不思議な音楽が聞こえてきたからだった。それと同時に入ってきたのと反対側の襖が開いた。襖の向こうには天人のような衣装をまとった楽人たちが思い思いの楽器を抱えて演奏を行っていた。
パパがおばさんに何か耳打ちした。おばさんはぼくに耳打ちをした。
 「あれ本物。あれ、天人」
 えっ?!
 ぼくはママが見えて、聞こえているだろうかと心配になって寄り添い、顔をのぞきこんだ。パパも同じように心配そうにママの顔をのぞきこんだ。ママはそんなぼくらを交互にみまわし、にっこり微笑んで小声でささやいた。
 「すてきなコンサートね」




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小説
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