3次元紀行

手ぶらで地球にやって来ました。生きていくのはたいへん。そんな日々を標本にしてみました。

広告

※このエリアは、60日間投稿が無い場合に表示されます。記事を投稿すると、表示されなくなります。

モデルハウス

2008-12-06 07:19:28 | ほら、ホラーだよ

ほら、ホラーだよpart.35

ママが、住宅展示場に家を見に行こうと言い出した。ママはさかんにパパを誘ったが、パパは忙しいからと言を左右にしてなかなか行くと言わない。
ママが多少痺れを切らしたように「本当は建て替えしたくないの?建て替えしていいの?いけないの?」というと、パパは「いやいや、君がいいのにしなさい。アールヌーボー調にするとか、コロニアル調にするとか、モダーンにするとか、そういうのは君に任せる」などと言って、休日ももっぱら昼まで寝て、午後もなんとなく家でだらだら過ごし、いっこうに動く気配がない。
ついにママはパパを連れ出すのはあきらめた。
「もういいわよ。ひかるちゃん、一緒にいかない?ヨシヒコも行こうよ」
というので、ある平日の午後、ママの運転でおばさんとぼくの3人でとある住宅展示場へと出かけた。駐車場に車を止め、モデルハウスの立ち並ぶ区画へと足を踏み入れた。
ぼく達のほかにお客さんなんてみあたらなかった。木枯らしが路上を吹きぬけ、わずかに残っていた枯葉を移動させていた。FS小説に出てくる“何かの都合で住民が出て行ってしまった謎のゴーストタウン”、そんな感じだった。
「あれ、こんなところにこんな展示場、あったんだ」
メインストリートを挟んで立ち並ぶモデルハウスを左右に眺めながらおばさんが言った。
「そうなのよ。最初、入り口がわからなくて、前の通りを行ったり来たりしちゃった」
ママはちょっと得意そうだった。
なにかがでそうだ。
向こうから女の人が歩いてきた。
「いらっしゃいませ」
その人が声をかけてきた。ママが挨拶をかえした。ママが見えているからこの人は普通の人間だと、ぼくはそんなことを思ったりした。
その女の人は声だけかけると通り過ぎた。振り返ると、トイレの看板がかかった建物に入っていくのが見えた。
「ひかるちゃん、見たい家ある?」
ママとおばさんが話している。
「迷っちゃうな。どうせだから、買えそうもない一番高そうなところを話の種に見るってのも悪くないかも」
「この先に、2棟続きの家があるのよ。パティオを挟んで一棟は3階建て、一棟は2階建てなんだけれど1階がバリアフリーでワンフロアー仕立てになっているの。これってうちと光ちゃんの仕事場兼用住居としてぴったりだと思わない?」
「いいねえ。そこ行ってみようか」
ぼくたちはそこへ向かった。
モデルハウスに入ると、ママくらいの年齢の女の人が応対に出てきた。案内に従って一通り見た後、ママとおばさんはテーブルに座っていろんな説明を聞くことになった。ぼくはすっかり退屈してしまった。それにさっき出してもらったジュースを飲んだせいかトイレに行きたくなった。
「トイレに行っていい?」というと、モデルハウスのおばさんが「ごめんなさいねえ。モデルハウスの中のトイレは使えないの。トイレは外にあるのよ。わかるかしら」
と言った。
「わかります。さっき、女の人がはいっていくところを見たから」
ぼくはそう答え、話し続けるママやおばさんを残して外に出た。
外は暗くなりかかっていた。ぼくはひとまずトイレをすませた。男子トイレから出ると、女子トイレを覗き込んでいる女の子の後姿が見えた。ぼくが通り過ぎようとすると女の子は振り返って、
「ママは?」
とぼくに聞いてきた。
え?ママ?誰の?
「ママどこ?」
心細げな声だった。そうか、この女の子のママだな。迷子になったんだ。しかし、どこ?といわれてもぼくにわかるわけがない。
「トイレにはいないの?」
「いない」
「トイレに一緒に来たの?」
女の子は首を横にふった。
「じゃ、一人で来たの?」
女の子は首を縦にふった。
ぼくと同じか。ママがどこかのモデルハウスで話し込んでいるので一人でトイレに来たんだな。
「じゃ、ママはどこかのモデルハウスにいるんでしょ。どこのモデルハウスから出てきたの?」
「えーと、えーと、わかんなくなっちゃったの」
「なんか目印憶えていない?」
「目印は・・・なんか赤い旗がたっていた」
「じゃ、赤い旗のお家を探せばいいよ」
「いっしょに探して」
女の子が旗を覚えているなら簡単だと思った。どうせ暇だし。ぼくは女の子に付き合うことにした。
しかし、赤い旗というだけでは意外と難しいということがわかった。どのモデルハウスにも旗はあったが、女の子が首を縦にふる旗は見当たらなかった。
「じゃあ、どうせ、ママはどこかの応接室で話をしているんだから、応接室を覗いてみようか」
応接室はたいてい外から見えた。ぼくのママたちが話しているのも外から丸見えだ。ぼくが前を通ると、ママが気付いて手を振ってくれた。おばさんも顔を上げてこちらを見た。
「あれ、うちのママとおばさん」
ぼくは女の子に言った。
女の子は食い入るような目でママとおばさんを見ていた。自分のママではないことを確かめているみたいだった。
ところが、次のモデルハウスは応接室がよく見えなかった。ぼくらは、なんとか覗こうとあっちこっちまわってみたが良く見える場所がなかった。
「そうだ!ママの靴はわかるでしょう?どのモデルハウスも玄関は開けっ放しだから、靴はみえるじゃない。玄関の靴で探そう」
玄関を覗き込んだ。覗き込むとチャイムがなった。
あれ・・・ぼくはちょっとあせった。モデルハウスの人が中から出てきたからだ。
「す、すみません、ママがどのモデルハウスにいるかわからなくなっちゃったので覗いてみたんです」
モデルハウスの人は同情してくれた。
「そう、それはたいへんね。一緒に探してあげたいけれど、わたし、ここを離れるわけにいかないのでごめんなさい。でも家はそうたくさんないから見つかるわよね」
確かに家はそうたくさんない。順番に覗いていったらそのうち見つかるだろう。
その時、そのモデルハウスの奥のほうでこちらをうかがっている子供の顔が見えた。
ひょっとして、この家の座敷わらしではないか?ぼくはとっさにそう思った。試しにモデルハウスの人に聞いてみた。
「今、この家に子供のお客さんいますか?」
いないという返事だった。奥のほうで子供がにいっと笑った。間違いない。座敷わらしだ。展示場の家にも座敷わらしはいるんだ。しかもぼくは座敷わらしというと、オヤジしか見たことがなかったので、子供の座敷わらしは新鮮だった。そんなことを考えていたら、一緒にいた女の子が袖を引っ張った。
「別のところに行こうよ」
「え?ああ行こう」
ぼくらはそのモデルハウスを出た。
「こっちの方だと思う」
女の子はその道の様子で何かを思い出したらしい。
「こっち、こっち」
一つのモデルハウスの裏手にまわる細い道をすり抜けた。裏は竹やぶだった。
「こっち」
竹やぶのむこうに一軒のモデルハウスがあった。赤い旗が立っていた。やれやれ見つかった。女の子の足が速まった。見つかったんでうれしいんだな、とぼくは思いながらついて行った。開け放された玄関に一足の靴が置かれていた。女の子は「あった!ママの靴だ!」と言いながら玄関に飛び込んだ。そして手招きした。ついでだからこの家を見ていくかな。玄関に足を踏み入れようとしたとき、後からおばさんの声がした。
「ヨシヒコ!」
「ああ、おばさん、ぼく、この家見ていくよ」
「なに言ってるのヨシヒコ!キャー」
おばさんがすごい悲鳴を上げた。
え?
右腕を、女の子が引っ張っていた。
左腕を引っ張るものがいた。
「ショウチャン!」
ショウチャンが爽やかな笑顔を見せてぼくの腕をつかんでいた。
ショウチャンは女の子に言った。
「放しなさい。君はもうこんなイタズラをしちゃいけません」
女の子はたちまち顔をゆがめて大声で泣き出した。
「あたしのうち、あたしのうち、大きかったのに。立派だったのに!そのあたしのうちを壊して、別のうちをいっぱいたてちゃってさ!なによ、みんな新しい家だからって、しゃれた家だからって、気取っちゃってさ、こんなちっちゃなうちにあたしを押し込めて!おかげでうちにはだれもお客さんなんて来ないじゃない!」
ぼくが入ろうとしていたのは、何かを祀った小さな社だったんだ。
やっとぼくのそばに駆けつけたおばさんが興奮覚めやらぬ様子でぼくに告げた。
「あんたの体、半分、消えてたんだよ」


『小説』 ジャンルのランキング
コメント (2)   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« いじめっ子たち | トップ | 色即是空 »
最近の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お~コワや。 (オニギリ ジョー)
2008-12-11 06:50:11
神隠しだ。。
なんか、この言葉って昔から怖かった。

でもさ、神隠しってさ実際こんな風に何処かへ連れて行かれちゃうのかもしれませんよね。
まぁ・・戻った人は居ないのでしょうから真実はわかりませんけど・・・。

違う空間・・・違う世界・・・。
私が前から思ってることなんですけどね・・・
夢の世界ってそれに近いのかなと・・。
寝ている時は、精神がそちらへ行ってるんじゃないかと。。

そこは皆共通の世界でさ、時にはそこでもcatmouse女史とも会ったり話したり出来るんですよ。
っていうか、しょっちゅう会ってるのかも知れません。

夢ってのは毎日、何度もみて・・大抵を忘れてしまってるらしいのでw

私が思うにですよ、我らはそこで様々な情報を得てる気がするんです。

世の中、全ては必然とか言いますでしょ??
私としては、この辺も夢との密接な関係を感じるんですよねぇ。。

長くなるのでこの辺でw
やっとホラーに (catmouse)
2008-12-11 08:39:19
ホラーと言う割にはぜんぜん怖くない、当小説ではありますが、この回はホラーっぽくなりましたね。
珍しいことです。
catmouse自身は、こんな小説書いといてなんだけども、人が神隠しにあうという場合の犯人はたいてい北朝鮮か変質者で、神様はとんだ濡れ衣と思っておりますです。
しかし夢に関してはちょっと、おにぎりさんと同じ意見なんですよ。

睡眠にはノンレム睡眠とレム睡眠があるそうですが、ノンレムのときに見る夢は、他愛ない日常的な記憶の断片みたいなものだけれど、レムのときにみる夢は、魂が異次元にいって、そこで遭遇した出来事だと思うのですね。
そこで、多分、忘れているけれど、オニギリさんなんかにも会ってるんじゃないかと思うのですよ。

オニギリさんは会ったこと覚えています?
だったらやばいなあ。なんかまずいこと言ってないかなあ。でもcatmouseは忘れていますからね。知りません。責任ありません。

それはともかく、レム睡眠を妨げると人間は死んじゃうそうですね。
それは、体の休息とは違う、人がこの世で生きていくために必要な充電がそこでなされているのではないか、と思うんです。
こういう考え方は、人間の本質は魂であると思わない人には受け入れられないと思います。

レム睡眠の正体は学問的には依然謎とされていますが、多分、魂の存在を持ち出さないと、謎はとけないのではないかと思っています。

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL