気まぐれ徒然かすみ草ex

遅れて来た私  近藤かすみの短歌日記
死ぬ日まで素数のよはひ幾たびを重ねむ 額あぢさゐのつぶつぶ 

歳月の気化 阪森郁代

2017-03-08 11:34:36 | 歌集
静けさを啄(つい)ばむのみの秒針は冬の日差しの届かぬ位置に

ヨブ記から少しはみ出す付箋あり花水木(はなみづき)すでに花期を終へたり

傾(かし)ぎつつ夜は深まる瓶詰めのジャージー牛乳立たせたるまま

滴(したた)りは夏の空より 刃を当ててふいに明るむ浅漬の紺

整理して整理のつかぬ本ばかり一冊分の隙間になごむ

歳月の気化を思へり午睡より覚めて肌には藺草(ゐぐさ)がにほふ

摘み取つたこともあつたと振り返る言葉は葉でも実でもあるから

セシウムと小さく声に洩らすとき身じろぎなしてしづかなる花

外光に白く浮き立つ夏の邸 絵画の中を人は行き交ふ

北半球に積もる埃を拭ふため地球儀二回転を強ひらる

(阪森郁代 歳月の気化 角川文化振興財団)

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阪森郁代の第七歌集を読む。

集題はここでの六首目から取られている。あとがきには、「社会の大きな出来事も、身辺の小さな出来事にしても、まるで気化してしまったかのように、たちまち忘れられていく時代であることを実感している」と書かれている。だからこそ、歌に託して残したいと言う。

阪森さんの歌は、地味な感じがするが、じっくり読むととても丁寧に言葉が選ばれていて、味わいが深い。一首のなかに作者独自の視点の入った言葉が選ばれている。「静けさを啄ばむ」「はみ出す付箋」の動詞の選択。
三首目は、浅漬の茄子が、切られる(斬られる)瞬間に命をもったように読んでしまった。七首目。下句は上句の説明のようにも解釈できるが、言葉を扱うことへの深い畏怖を感じさせる。「言葉」という字の意味を、改めて考えさせられた。十首目は、ユーモアのある歌。ここでも「強ひらる」の動詞にオリジナリティがあって面白い。地球儀二回転の句跨りが心地よい。
ほかにも、感心させられる歌がたくさんあり、短歌の滋味ということを考えさせられた。
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