死の床のごとくにふたつの手を組めば仰向けになることまた愉し
神経はただ口中にあつまりてここに無防備のわれが在るのみ
(原田千万 鬼胡桃)
歯抜けだとどうして間抜けに見えるのか仮歯を入れて謹慎したり
わが猫のけむりを失ふくらゐなら前歯一本惜しくもあらず
(大室ゆらぎ 猫と前歯)
前歯一つなくしてわかる 私はこんなにたよりない人
からだには秘密があまりに多すぎて医師はライトを時おりずらす
(滝田恵水 消毒終えて)
治療中置き所なきこの舌を意識するとき存在は増す
マスクした顔しか知らぬ歯科医師と三十年のわれの年月
(関谷啓子 舌の存在)
****************************************
短歌人5月号、5月の扉より。題詠*歯の治療を受けながら詠む歌。
神経はただ口中にあつまりてここに無防備のわれが在るのみ
(原田千万 鬼胡桃)
歯抜けだとどうして間抜けに見えるのか仮歯を入れて謹慎したり
わが猫のけむりを失ふくらゐなら前歯一本惜しくもあらず
(大室ゆらぎ 猫と前歯)
前歯一つなくしてわかる 私はこんなにたよりない人
からだには秘密があまりに多すぎて医師はライトを時おりずらす
(滝田恵水 消毒終えて)
治療中置き所なきこの舌を意識するとき存在は増す
マスクした顔しか知らぬ歯科医師と三十年のわれの年月
(関谷啓子 舌の存在)
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短歌人5月号、5月の扉より。題詠*歯の治療を受けながら詠む歌。