気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

青雨記  高木佳子

2012-07-18 21:37:06 | つれづれ
せつかちに背伸びするとき大いなる積乱雲が陽を翳らせる

まだ堅き果実のやうにはつかなる音を立たせて動くくるぶし

いつくしく薄暮となりて青鷺はとけゆくごとく片脚に立つ

たとふればパーレンとして見る虹に閉ぢられてゐる吾の地平は

古書売りし午後のしづけさそののちのラスコリニコフも行つてしまひき

鶏卵はおほつぶにして美しく列なせりけりそれらの死見よ

父はいま燃えてをらむよ菓子あまた皿に盛られて水色ももいろ

水紋の暈のありやう ひろごりのひとつひらくをひとつが覆ふ

さんぐわつのひかりはみちて誰かの母だつたかもしれないそのひと

あをいろの雨はしづかに浸みゆきて地は深々と侵されてゐる

(高木佳子 青雨記 いりの舎)

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高木佳子の第二歌集『青雨記』を読む。高木さんと言えば、いわき市在住で、震災、原発事故の歌を現地発信で詠むことで、注目されている。
歌集は、五部構成になっていて、震災についての歌は最後の章に収められている。実際に被災した体験から詠まれた歌は、こころを打つ。
しかし、そこに至るまでの章を読むとき、彼女の歌人としての力を感じさせる歌が並ぶ。抒情、ユーモア、観察眼のあるレベルの高い歌。その力をもって、震災の歌、その後の歌とともに、さまざまな素材の歌を詠み続けて欲しい。読者として、楽しみに待っている。

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