気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

北二十二条西七丁目  田村元  

2012-09-15 12:08:55 | つれづれ
幸福にならうと思ふ一枚のシャガールの絵を壁に掛けつつ

一冊を選べば『トニオ・クレエゲル』青春の碑はまだ書架にあり

花びらを上唇にくつつけて一生剥がれなくたつていい

瀧壺に古書沈めたり幾万の活字の匂ひ森に満つるまで

わがために斎藤茂吉が何をしてくれたといふのだらう、椿よ

春怒涛とどろく海へ迫り出せり半島のごときわれの<過剰>が

ドトールで北村太郎詩集読み、読みさして夜の職場に戻る

カウンターの隣は何を待つ人ぞわれは春雨定食を待つ

しばらくは敬称つきできみを呼ぶ晩春の底の象が歩めば

をみなより先につぶれて春の星点(つ)けつぱなしのまま眠りたり

(田村元  北二十二条西七丁目  本阿弥書店)

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田村元(はじめ)の第一歌集『北二十二条西七丁目』を読む。
田村氏は1977年生まれ。二十代はじめからりとむに入って歌を作り続けている。2002年には「上唇に花びらを」で第13回歌壇賞受賞。
一首目は巻頭歌。「幸福にならうと思う」という言挙げが、若くて率直。
三首目は、歌壇賞受賞作からの歌。口語の「くつつけて」「剥がれなくつていい」が若々しい。作者にとって短歌は、くっついて離れない花びらなのではないか。けっこううっとうしいこともあるが、一生くっつけて付き合って行こうという決意表明のように感じられた。
六首目。<過剰>に<>までつけて強調した過剰。歌人は過剰なものを持っていて、生きにくいから歌を離れられない。上句の春怒涛・・・の力強さとともに、半島という比喩が説得力を持つ。
八首目。内面はどうであれ、作者は日常をサラリーマンとして、問題を起こさずに働き暮らしている。春雨定食というやわらかくあっさりした献立が、よく合っている。
十首目。「春の星点けつぱなし」はいままで見なかった比喩で詩情がある。

つづく


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