恍然如夢

恍然如夢

るような様の

2017-03-02 15:08:22 | 日記

「お前も少しは知っているだろうか。光尋が戦地へ赴く時、料亭上総(かずさ)に多くの芸者衆が登ったのを。」

「はい。海軍将校が多くお集まりで、基尋は出征されるお兄さまの為の華々しい酒宴だと思って遠くから見ていました。」

「……そこに花菱楼の雪華という太夫がいたんだが、見なかったかな。男女郎(おとこえし)の最高峰で現の世dermes 脫毛界では本来なら見ることも叶わない、大江戸花菱楼の最上級の花魁が光尋の出征の席で舞ったんだ。お前に目を付けたのは、その花魁を抱える花菱楼の楼主だ。」

「そうだ。ああいう席に男芸者を上げるのはどうかと思ったのだが、光尋が今生で最後になるかもしれないから逢わせてくれと、頭を下げたのでな。遊びも知らない堅物だと思っていたが、たまに大江戸へ出かけていたようだ。」

基尋はその時、酒席を離れた兄に紹介されて、雪華花魁とわずかに言葉を交わしていた。酒に酔って嬌声を上げるような芸者衆とは違う控えめな態度で、つつましく目許を赤く染めて、曇りの無い涼やかな瞳を自分に向けて微笑んでいた。
その人だけは姿も他の者と違い、戦場に赴く兄との別れを心から悲しんでい気がした。
その細い優しい声は、女でもなく男でもない不思議な艶を含んで、基尋は妖しく胸が騒いだのを覚えている。

*****

「基尋、ちょっとここにおいで。紹介しよう。」

「はい。光尋お兄さま。」

「お兄さまの大切な雪華だよ。僕が出征すると聞いて、会いに来てくれたんだ。」

「……雪華……さん?」

「あい。若さまには、お初に御目もじいたしんす。花菱楼の雪華太夫でありんす。此度は光尋御出征、真に喜dermes 脫毛ばしく日頃は日陰で暮らす身の上なれど、図々しくも一言お祝いを言いたくて馳せ参じんした。」

「初めまして。基尋です。」

「あい、お写真で存じておりんすよ。光尋様がいつもお年の離れた若さまが、可愛くてならんのだとおっしゃっておりますもの。本当に、お可愛らしいこと。」

自分はいずれ兄のように、凛々しい軍人になる。
その男子に向かっていくらなんでも可愛らしいはないだろうと、基尋は不愉快になった。
無礼な物言いに抗議をしようと思い、顔を上げたら、雪華大夫は兄の光尋をふっと見つめ、涙ぐんでいた。迸る切ない想い……

大好きな兄が何故、場違いな遊び女(男)を大切な祝賀の宴に呼んだのか、当時の基尋には理解できなdermes 價錢かったが、その後女官たちの噂で何となく理解した。

コメントを投稿