団塊的“It's me”

コキロク(古稀+6歳)からコキシチ(古稀+7歳)への道草随筆 2週間ごとの月・水・金・火・木に更新。土日祭日休み

山崎豊子

2009年12月25日 | Weblog
 山崎豊子著『作家の使命 私の戦後』新潮社 1400円税別を読んだ。疑問がひとつ解けた。以前から『不毛地帯』の主人公壹岐正は、伊藤忠商事の故瀬島龍三さんだと言われている。しかし著者の山崎豊子は、『作家の使命 私の戦後』の46ページで「この壹岐正のモデルについて、専ら伊藤忠商事の瀬島龍三氏と云われているが、氏は決してモデルそのものではない。確かに元大本営参謀、シベリア抑留、帰還後商社マンに転身という三つの原型は、氏から発しているが、シベリア抑留の部分は、極北の凍土地帯まで流され、国籍を失い、朝鮮人囚人として強制労働を強いられた竹原潔氏をはじめ、草地貞後吾氏、鈴木敏夫氏などの多くの抑留者の辛酸を極めた体験の一片、一片を載せて、壹岐正という小説の主人公に凝結させて描いたのである。」 瀬島さんが亡くなった今だから、山崎豊子もやっと重い口を開いたのだろう。

 噂というのは、いつしか一人歩きを始めて、勝手に既成事実化する良い例である。なぜ瀬島龍三さんが『不毛地帯』の主人公のモデルかどうか、私が拘るようになったのか。それは、ある取材テープを聴いてからだった。テープで取材を受けていたのは、シベリアに昭和26年まで7年間抑留されていたAさんである。Aさんは、すでに亡くなっている。Aさんの奥さんが、どうしてもAさんの長年の瀬島さんに対する鬱積を私に知ってほしい、とそのテープを聞かしてくれた。テープの中で「瀬島龍三氏が山崎豊子の小説『不毛地帯』の主人公壹岐正と云われているが、絶対に違う。事実とあまりにも違っている」と言っていたからである。

 読書の楽しみに、このような著者の本心を読めることがある。私は、疑問を胸にいろいろな本を読む。しかし、題名が、あなたの疑問が解けますよ、と謳っていても、読後、更に疑問が深まることのほうが多いのが現実だ。今回『作家の使命 私の戦後』を読んで良かったと思う。1400円の投資は大きかったが、久しぶりに気分が晴れた。映画『沈まぬ太陽』に瀬島さんらしき人が出てくるが、けして壹岐正のように演出されていなかった。気骨ある作家山崎豊子の勇気にあらためて感心した。できるだけ早くAさんのお墓参りに行こうと思っている。
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