第221話 エメラルド

2009年07月20日 01時27分42秒 | 子育て・「おママごと」
「お母さん!」 
「え?(私のことか?)ハッ(私だ)」
瞬時に気づいて、声のする方向を見たら、出たぁーっ。
あ!(わ、主人そっくり・・・)
なんか手足が紫色っぽいぞとこれまた瞬時に思ったが、
産まれたという興奮の中で周りの異変に気づくことなく、
主人にずっと「(主人の名)にそっくり」と笑っていた。
初めてのことだし、息子が連れていかれたのもきっと綺麗にしてもらっているんだわ
くらいにしか思っていなかった。

あれ・・・
「カンガルー抱っこ、いつになったらできるんでしょう?」
助産師さんや先生がどう私に伝えてくれたのか思い出せない。
母親を心配させないでおこうという配慮しか思い出せない。
ゆっくりと体を起こし、助産師さんに支えられながらLDR室を出ると、
廊下の椅子に腰掛けている主人が見えた。
憔悴しきっている・・・あの主人の姿が忘れられない。

主人の希望を却下し、私は立ち会い出産を望んだ。
出産を夫婦2人で共に乗り越えることは夫婦の絆を深めるものと、
産みの苦しみに立ち会えば父性が生まれ、
その後の育児協力につながるものと、信じていたからだ。
実際、立ち会い出産をしてよかったのかどうか・・・

分娩中、幾度か担当の助産師さんが部屋を出て行き、夫婦2人だけ取り残された。
かと思えば、他の助産師さんが入れ替わり立ち代りは入ってきては、
何やら小声で会話し、また出て行く。
初産であれど、曇り顔の助産師さんにただならぬ空気を感じ、不安になるではないか。
もし主人がいなければ私ひとり・・・側に誰かがいる状況。私は、よかったと思う。
主人はどうだったのだろうか?
もともと嫌がっていたのに、加えて難産である。
女性は産むことだけに没頭できるからいい。
男性はしらふでその光景のすべてを目の当たりにする。
途中、赤ちゃんの心拍数を計る機械が切られたことなど当時の私は知らない。
一部始終を知る主人は、最悪の事態を予測しうる時の中でなすすべもなく側にいた。
立ち会う男性の辛さを思い計る余裕などなかった。

可愛い我が子を前にできることならもう1人、若ければ後2人は欲しいところであるが、
主人は1人でいいという。
それは、きっと出産は産む側も、生まれる側も、
命懸けの営みであることを目の当たりにしたからであろう。
「子供はそんなに簡単にできるものではないよ。K君は奇跡の子だよ」
立ち会ったからこその深い思いであるが、
立ち会ったからこその深い傷といえなくもない。

新生児仮死。
その影響は主人だけではない。息子にもある。
いまだ夜泣くように起きる。
「生まれる時の恐怖感からではないか」と学者ではない夫婦の会話。
時間がかかっても少しずつ克服できるといいなと。
そして、私にもある。
グズる息子に、イヤイヤ期の息子に、この血の気の多い私が感情的にならないなんて・・・
グッとたえることができる。
これは少し角のとれた30代の育児というだけではなく、
「難産による無意識下の罪悪感からではないか」と推察。
やっと念願叶って母となったママのような穏やかな育児は、
出だしピリッとした出発だったからではないだろうか。

話を書き終えてから題名を考えることが多いのだが、題名を「トラウマ」にはしたくない。
エメラルドは内部に多くの傷を持つのが特徴だという。
宝石は傷の少ないものが上質とされているが、その傷こそが天然の証であり、
エメラルドの魅力だという。
傷つかずに生きることなど不可能であろうから、
無数の傷がおりなす輝きの美しさを信じて「エメラルド」に決めた。

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第220話 サーファー(出産は波に乗れ)

2009年07月12日 00時13分40秒 | 子育て・「おママごと」

来たな。実家にいたが、一人になりたくて、
私ん家(独身時代に過ごしていた一人暮らしの家。今は弟が暮らしている)に向かった。
出産は「人間が耐えうる限界の痛み」ときいた。
果たしてどれほどの痛みなのか・・・
親に苦しむ姿を見られたくなくて産卵場所に向かう海亀のように、深夜。
立ち会い出産を望んでいたので、主人にだけ連絡をした。

こ、これはなかなかに痛い。
ぐ~っとくる痛みにおトイレの側で倒れていた。
到着した主人が笑っている。
玄関から見ると、つきだしたお腹で私の顔が見えず、ラッコのようだと笑ってる!
来るの、遅いよぉと訴える私に、連絡を受けお風呂に入ってから来たという!!
笑うは、この緊急事態にこざっぱりしてるは、文句をいいたいところだが、
そんな余裕はない。病院に向かう。

病院につくとすぐLDR(分娩室)へ直行。助産師さんが主人にきく。
バスタオルはどこですか? 母子手帳はどこですか?
主人がバスタオル地のパジャマを差し出し、これではありませんと言われている・・・
しまった!
入院の準備を一人でしていたから・・・痛みの中、私が母子手帳他の場所を説明する。
入院セットの中に用意していたうちわ(あったら便利グッズ)など出てくるはずがない。
助産師さんが気をきかせて病院にあるうちわを貸してくれた。
せっかく可愛いうちわを用意していたのに・・・しかも、なまぬるい風しか来ないのは?
それは主人が自分をあおいでいるから!
主人からうちわを奪い取り、激しく自分であおぐ。
食事が出てきた。食欲などない。
ほんとに食べていいのかい?ときく主人に、どうぞと目をむく。
今、こうして綴っていてもあぁあの日の怒りがよみがえる。
私に話せる元気があったら絶対夫婦喧嘩勃発である(笑)

出だしは順調だったのだが、なかなかの長丁場となってきた。
後半、心の中で我が子にひたすら「出てきてください」と丁寧語で懇願。
そのうちに、あれ? 陣痛が来ない??
助産師さんが「後は自分のタイミングでいきんでください」という。
えー! 陣痛って期間限定なの?! そんなの知らない。きいてない。
あの痛みの波は、出てくる赤ちゃんと息をあわせるタイミングを知らせるものだったのだ。
あの波がなきゃ どこでどうのっていいのやら。自分で波をおこせって・・・
そりゃ大変。カムバック陣痛。必要な痛み。

産前、ずっとどこかに出産への不安、恐怖があった。
産後、人間が耐えうる限界の痛みは産声と共に過去のもの。
すぐに忘れてしまうものなのだと。
陣痛も痛かったが、その後の乳腺炎も痛かった。おっぱいが痛かった時、
陣痛の方が痛かったから耐えれるなんて振り返る起点にもなりゃしない。
痛いものは痛い。だが、過ぎ去ればけろっと忘れるもの。
痛みは更新しては消えていく。
出産を控えている方へ。 大丈夫! 

ビックウェーブを待って、波に乗れ!!

アドバイスというか自身への教訓である。
あ、後、入院の準備はぜひだんな様とご一緒に♪
出産エピソード1、「サーファー」終わり。エピソード2に、つづく。

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第219話 ルネサンス

2009年07月10日 03時51分37秒 | 子育て・「おママごと」

7月3日、私もママ歴2年となりました。

出産・・・
産みの苦しみに耐え、全身の血がすべて入れ替わるほどの大事業を終えた後の
あの「すっきり」感。
大きく前につきだしていたお腹がぺっしゃんこ(表記上)になった後の開放感。
我が人生最大級のすっきり感を懐かしく思い出す。
出産という生まれ変わり。
ここに女の強さの秘訣があるのではないかと思う。

育児休暇を終える時。
ママ友との別れのさみしさの影にひっそりと隠れて、
さみしさに比べたらほんの一抹ではあるにしろ確かにあったすっきり感。
これまで築いてきたものをすべて捨てていかねばならぬ、いくのだという
裸一貫、出発の覚悟。
また一からのやり直し。これもまた生まれ変わりに似て。

そういえば・・・結婚をして姓をかえた時のこと。
名義の変更等再登録の煩わしさもあったが、
同じ人間でありながら別の人間になりすましての新規登録も楽しめた。
名を替え、環境を変え、順応していく女性。
結婚や出産はある種変身願望を満たすのかもしれない。
死せずして再生を繰り返す・・・女は強い。


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第218話 キャッチボール

2009年07月08日 22時31分36秒 | 子育て・「おママごと」

ある日突然「せーの、」と言えるようになって(第216話「きいろ、」参照)
ずいぶん話せるようになりました。
「これは?」「ぞうさん」 「これは?」「かえる」 「これは?」「うさぎ」
うちの子、すごい!(親バカ)
私の親バカっぷりはともかくとして、何がすごいって、写真だったり絵だったり、
画のタッチが違うのに、どうしてこれが「あば(=かば)」ってわかるの?!
ってのが、すごい!! 子供って、ほんとすごい。感動・・・。

息子の場合、言葉の最後の音をとらえる傾向があります。
おっぱいは「ぱい」、ミルクは「ク」、テレビは「ビ」、しまうまは「まうまぁ」
これ以上略しようのない略語ですが、だいたい意味はわかります(私には。私だけ?)
そうかと思えば、水色をなぜか「じぃじ、くるま、いっしょ」(=じぃじの車と一緒の色)と言い、黒色を「パパ、くるま、いっしょ」と言います。
他の言葉は数回きけば覚えるのに・・・あえてこの表現を選んでいるのかな。
出先で同じ色を見つけた喜びを懸命に伝えてくれます。
休日、寝ているパパの足を見て「おおきいね~」「パパ、おおきいね~」
息子の感嘆にパパ、ご満悦♪
「K(自分の名)、あかい でんしゃ みる」(こと、電車に関してはクリアに話す)
パパ、むっくり起き上がり、K、抱っこしてもらってベランダへ。
目的達成。なかなかやるなK・・・。
「しろい でんしゃ きた」 「みどり でんしゃ いった」 飽きずにずっと。
「もう一回」「もう一回」と、も~ものすごく ひつこい(笑)
毎度のことながら最後は涙と共に室内に強制連行。
何やらごそごそ引き出しの中をいじくっていた息子。
私のところにやってきて、「こえは?」(=これは?)
「そ、それはっ・・・ママの・・・おむつ?」なんてこともありますが、
息子と通じ合える(たとえそれが私の思い込みであったとしても)ことが
嬉しくて楽しくて。

7月3日、息子が2歳になりました。

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第217話 見失わない心

2009年07月02日 01時11分29秒 | 子育て・「おママごと」

メロンパンナちゃんへ。
たくさん時間をさいて、あふれる思い(コメント)をお送りいただきまして、
ありがとうございます。
何度読み返しても、様々な感情が生まれて参ります。

私の職場復帰は、産んでいなかった頃の私の意思が尊重された「契約」でもありました。
産んだ後、我が子愛おしにどっぷりつかった私はその気持ちに任せて復帰しなければ、
契約違反です。
社会復帰への不安を前に、契約という強い力にひっぱられ、無事出勤できたようなものです。
もし、出産を機に退職を選択していた場合、
1歳児を前に再就職などとても考えられなかったと思います。

私は30代で子供を産みました。
ここからは年上の主人の年齢で計算しますが(笑)、
息子が大学を卒業するかしないかくらいの年齢で定年です。
そして、目前にせまる介護問題。
いつ働くかでなく、いつまで働けるかさえもわからぬ状態。
女の人生、働けるうちに働いておこうという思いもあります。

とはいっても、人を育てるほど尊い仕事もありませんから、
3歳までは、の言葉に揺れ動かないこともない。
私が働くことに対して、息子の気持ちはどうなのか?
息子の気持ちは私の急所で、痛いところをつかれ返信遅くなりました(笑)

結論。
子供にとって、母親と親密な時間を過ごす環境にあることはベストだと思います。
メロンパンナちゃんのお子様はさぞお幸せなことと思います。
どんなにあがこうがこの結論は動かせない事実として、
世の中には様々な事情によって、母親以外の人の手で育てられるパターンがあります。
父親だけで、祖父母によって、保育士に、など。
生まれるのは母親からですが、育つのは母親のもととは限らない状況もある中で、
「母親でなければならないというわけではない」と思っています。
(そう思わないと働きになど出れませんから)
突拍子もない意見ですが、
専業主婦、対、共働きママに、母乳、対、ミルク育児が重なります。
おっぱいで育てていることにある種の自信が生まれるという点においてですが。
母乳をあげたくても出ない方に、母乳をあきらめなければならなかった方に、
「なければならないということはない」
そうは言っても気持ちのどこかに・・・あるものだからあえて言いたいのですが。
これはメロンパンナちゃんにというより、
メロンパンナちゃんのコメントを読んで私同様揺すぶられた共働きママへになるでしょうか。

それにしても面白いのが、
メロンパンナちゃんのママは働いていて、メロンパンナちゃんは専業主婦となり、
幼稚園卒の私は保育園に息子を預ける共働きママになったこと。
私の母は今でこそ働く楽しさ辛さを知り、外に出ておりますが、
ずっと専業主婦でした。長男の嫁として生き、介護、介護の繰り返しです。
親の生き方はなんら子供に影響を及ぼすのでしょうか。
なら、共働きが子供に与える影響より、
親の懸命な生き様が子供に与える影響を期待して! 私は共働きます。

あと、貧困について(って今の日本で貧困という言葉がふさわしいのかどうか???)
物質的にも恵まれ、精神的にも豊かである友人、方々が私の周りにいる事実から。
貧困すぎても裕福すぎても執着を生むような気が致しますので、
ほどよさが大事と考えます。
こんな私の意見に対して、生じる思いがあるかと存じます。また、お話しましょう。
末筆ではございますが、
親愛なるメロンパンナちゃんへ。私もあなたが好きです。


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