最果ての極細道

放浪記 旅の記録 廃人による廃句

僻地村滞在記

2017-03-06 10:23:28 | 旅行

小さな港町、ケップから北へ向かうことにした。

バスの発券場で情報を訊くと次の目的地に定めているモンドルキリまでは22ドルだという。またしても直行ではなくプノンペンで乗り換えが必要だ。さらに朝早い便しかなく所要時間は11時間とあった。
ケップからプノンペンまではバスが6ドル、ミニバンが8ドルだったので一旦プノンペンまで行ってみることにした。

午後1時半発のバスは休憩をはさみ約4時間でプノンペンに到着した。
到着するやトゥクトゥクの勧誘をかわし停留所でモンドルキリ行きの情報を訊く。
朝と昼の便があったが、その日の便は既に終わっていた。

1泊3ドルの宿を見つけそこに1泊することにした。その宿でもモンドルキリ行きの手配をしてくれた。VIPミニバンが13ドル。ケップからの運賃6ドルと、宿代3ドルを足すと、22ドル。なるほどうまくできている。
昼の便を購入したが、プノンペンの街を歩いてみて翌日昼まで待つのも退屈しそうだったので朝の便に変更してもらった。


カンボジアのバスのいいところは低価格に加え、追加料金なしでピックアップがついてるところだ。
翌朝停留所まで連れて行ってもらいモンドルキリ行きのバンを待つ。その間、付近の現地の食堂で朝食をとる。食べ終わって戻った頃にちょうどバンが来ていた。

おそらく帰省するのであろう現地人しか乗っていないそのバンに乗る。
郊外を抜けると道は砂地になる。砂埃を立てながらお構いなしに加速していく。クラクションを鳴らし前を行く車両をどんどん追い抜いていく。これぞVIPである。東南アジアならではのこの光景が徐々に非日常ではなくなっていく気がする。
バンはどんどん僻地に踏み込んでいき、約5時間半を要し目的地に到着した。


微睡みから覚めバンが停まっているのを確認する。現地の女が箒を持ち車内を掃除し始めた。運転していた男に着いたのか尋ねると首を縦に振る。
バンを下りた瞬間、小ぢんまりした町が目の前に現れる。

オートバイの後ろに乗り直前に予約した宿へ向かう。予約をとる際にホームステイという文字が気になっていたが、オートバイは外れの方に進んで行く。
宿に着き受付に行き予約を確認するとどうやら違っていたようだ。サイトから予約したところの番号を見つけ連絡してもらう。小一時間待てとのことだったのでコーヒーを頼んで待つ。

しばらく寛いでいると迎えが来たのでそれについていく。三菱のパジェロがあり、それに乗れと言う。カンボジアで交通機関以外で乗用車に乗るのは初めてだったため新鮮だった。砂道の砂埃も気にならない。

地元の市場に買い出しに行ったりして30分程で件の宿に着いた。

町の外れにある小さな村。集落というよりも家屋がある程度の間隔で点在している。ひと言で言えば閑静でのどか。ただやはり便は良くない感を覚える。

ただ、おれにとっては楽園そのものである。何もないところにおれがいる。これほど自由を感じられるものはない。







着いたとき既に夕暮れ時であった。カンボジアで見る夕陽は滞在する町を変えても美しさは変わらない。

「すぐそこに丘がある。夕陽がきれいに見えるから行っといで!」

ここの宿の亭主であるヴァニに促され丘へ足を運ぶ。
薄っすらと敷かれた雲の陰へ沈んでゆく陽をぼんやりと眺めていた。





宿に戻りシャワーを浴びたいがどこかと訊く。

「シャワーはない。トイレの横に水が張ってある。それを使ってくれ。」

「あぁ、あれか。」





「シンプルスタイルだぜ!」

「お、おう。」

おれはそもそも潔癖のkすらない男だ。体内に寄生虫を受け入れる寛容ささえ持ち合わせている。清潔性への抵抗は皆無、ただ寒さが敵なのだ。

夜が更けないうちにさっさと体を洗う。実際してみると時間もかからないし非常に爽快感を得られる。
この水で洗濯もでき体も洗えるのだからかなり経済的ではある。

夕食を済ませた後、この日は移動で疲れていたためすぐに床に就いた。

犬が鳴くのを除けば実に閑静な夜だ。虫たちが各々旋律を奏でる。時々ケッケッケと笑うのはヤモリか。とにかく人工的な音が一切ないのである。

夜中に目が覚める。夜が更けると一気に冷え込む。日本の初秋の肌寒さに似ている。山間部に位置しているため日中は陽射しが強いため暑いが、やはり朝晩は冷える。

上着を羽織り気晴らしに外に出て冷たい空気を吸う。天を仰ぐと星がよく見える。時間を見ると早朝という方が近い時間だ。これくらいの時間帯が星もよく見える。





朝方に近づくほど寒さは増す。寝袋を取り出しそれに包まり朝を迎える。
朝陽が昇ると気温も上がる。今度は暑くて寝ていられなくなる。


滞在2日目はのんびり朝食をとった後、オートバイを借りて町を周ることにした。
1日7ドル。シェムリアップでは10ドル、カンポットでは4ドルで借りた。町によっても場所によっても相場は異なる。

「ガソリンを入れてきてやる。」

「お、ありがとう。いくら渡せばいい?」

「そうだな、10,000リエル(2.5ドル)ぐらいかな。」

マネークリップに挟んである小汚い20,000リエル札を渡す。そのままオートバイに乗りどこかへ行き暫くして戻ってきた。

「4L分買ってきた!」

そう言ってヴァニは6,000リエルを寄こす。

「あれ、話が違うくない?おれそんな遠くまで行くつもりもないんだけど。」

「満タンにしておかないとな!途中でガス欠起こされても困るしな。なんだったらレンタル代を6ドルにしておいてやるさ!」

ヴァニの良心的な提案に笑顔で頷く。
従来挿すべき鍵穴に鍵は挿さず足蹴りでエンジンを起動させる。電源は常に入にしたままエンジン停止は萎えるまで待つ。そんな年季の入ったオートバイに跨り町へと向かっていく。

よくこれで動くな、と悲鳴に似たエンジン音を轟かせるそれで滝の方へ行ってみることにした。やや勾配のある砂利道を滑るようにして下ったところに小さな滝があった。





迫力よりもなんかこの落ち着きがむしろよかった。


そこから前日、ヴァニが迎えにきてくれるまで待っていた宿へ向かう。そこも宿というよりも自然に囲まれたコテージのようなところに泊まるといった具合で雰囲気がよかった。
そこに再び足を運んだのは受付の女の子の愛想がよかったというのもあるが、前日コーヒー代を払い忘れてしまってたからである。
彼女も忘れていたようで、苦笑いする彼女にコーヒーを注文し前日の分も一緒に支払う。
暫し寛いでから情報を訊くと、けっこう離れたところだがこの辺りで一番大きな滝があると地図をくれた。


そこに向かう前にオートバイを逆方向に走らせ展望台に行ってみる。





人は全然いない。一丁前にあるアイラヴなんとかの前で最近おれの中で流行りの遠隔自撮りを決め込む。
ここで重要なのはいかに楽しそうにするかということと誰かに撮ってもらっているかのように見せることである。当然ひとりである。

実にどうでもいい。





"像"に乗っても動かないので致し方なくオートバイに乗り滝へ向かう。この日二度目の滝へ。


長い道のりを走り、ひとつ小さな町を過ぎまた暫く進みようやく辿り着いた。時間にして1時間弱といったところだろうか。駐輪代2,000リエル、入場料2.5ドルを払い滝の方へ行く。
欧米人数人とすれ違いざまに挨拶を交わす。ようやく観光らしいことをしている気になる。それでもやはり多くはいない。

上から流れてきて下に落ちていく、そのちょうど間に出てきた。下へ続く景色もきれいだ。









これまで幾度とあらゆる場所で滝を見てきたがそのどれもが当然ながら異なる。それぞれの美が水流によって映し出される。そもそもこういうのは比べるものではなく、どっちの方がきれいだとかそういうのは少なくともおれの中では皆無だ。限りなく流れてくる水に生命力さえ感じずにはいられない。
極度の飽き性であるおれが飽きずにいられる数少ないもののひとつでもある。


陽が落ち出したので帰路を急ぐ。
暗闇の中の運転も恐けりゃ、"水浴び"もしなくてはならない。明るいうちに、太陽の余暖があるうちに済ませたいものだ。


活発に動いた翌日はゆっくり過ごそう。日曜日だしな!
ということで滞在3日目はのんびり過ごすことに決めた。

午前中、タオルを洗濯し寝袋も天日干しすることにした。バックパックのカバーも汚れていたのでウェットティッシュで拭きこれも天日に晒す。
暖かい陽射しの下で麦芽酒を煽る。程よい自然と程よい空気に包まれながら気分良く笑う。








昼食に呼ばれるまでは寛ぎの時間を満喫していた。
昼食後、昼寝でもしようかというときにヴァニがおれを呼ぶ。

「カシューの農場があるんだが一緒に来るか?」

どうやらそこはヴァニの両親の農場らしくそこで家族が集まるのだと言う。
せっかくなので参加させてもらうことにした。麦芽酒を籠に入れオートバイに跨るヴァニ。その後ろに乗る。
暫く走ると道を外れ林の方へ入っていく。

「着いたぞ。こっちだ。」





そういうとヴァニは勾配を下って林に入っていく。それを追って行くと農作業をする人たちが見えてくる。小屋があり女が肉を捌いている。







「それな、犬の肉だ。」

よく見ると犬の頭がある。

農作業を中断した人たちがやってくる。ヴァニのお父さんとお爺さんだそうだ。そして麦芽酒を煽る。





自然の中で飲む酒はまた格別に思える。

先ほどの犬肉が出てきたのでいただいてみる。やはり筋肉質なのか食感は弾力がある。やや獣臭がするが味付けしてあるためほとんど気にならない。昼食をとったばっかりだったためあまり進まない。





彼らは談笑しているが、もちろん何を言っているのかひとつも理解できない。それでも自然の雰囲気や彼ら家族の仲の良さを見て終始楽しい気分でいた。酩酊しながら笑う。それだけで心が満たされた。

結局小一時間ほど居座らさせてもらい村に戻った。
そこから子どもたちと蹴球をして遊ぶ。

「おい、3対1だ!」

地元の小学生3人対おれ(26、飲酒後)
傾きのある荒野で情け無用容赦ない一戦が始まる。

開始5分で疲弊する。
言わずもがな飲酒後の激しい運動は好ましくない。ゆっくり1日を過ごすつもりだったが最終的にかなり体に負担のかかる結果となってしまった。


翌朝朝一便しかないバスに乗り次なる目的地を目指すべく早くに起床した。濃い赤色の朝陽が段々目を冴えさせる。





モンドルキリの村滞在。
近代的な生活にすっかり慣れきった日本人であるおれにとって原始的ともいえる村での生活はかなり刺激的なものだった。現代社会においてなかなか考え難い生活を村人たちは日常的にやっている。
とはいえ宿があり、電気もきれいな水も使える。食事も頼めば提供してくれる。ここでの安らぎはむしろ贅沢に感じた。

何もない。されど人はいる。人が暮らしている。それは何かしらあるということ。



村人よ もてなし笑う 旅人よ

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