matta

街の散歩…ひとりごと

栃の実

2017年07月13日 | 自然
Leica SL/24-90Vario Elmarit SL Asph.

栃の実で印象深い文章……

……
娘が塗盆に茶をのせて、「あの、栃の餅、あがりますか。」「駕籠屋さんたちにもどうぞ。」
「はい。」――其処に三人の客にも酒はない。皆栃の実の餅の盆を控えていた。
 娘の色の白妙に、折敷の餅は渋ながら、五ツ、茶の花のように咲いた。が、私はやっぱり腹
が痛んだ。
 勘定の時に、それを言って断った。――「うまくないもののように、皆残して済みません。」
ああ、娘は、茶碗を白湯に汲みかえて、熊の胆をくれたのである。
 私は、じっと視て、そしてのんだ。
 栃の餅を包んで差寄せた。「堅くなりましょうけれど、……あの、もう二度とお通りにはな
りません。こんな山奥の、おはなしばかり、お土産に。――この実を入れて搗きますのです、
あの、餅よりこれを、お土産に。」と、めりんすの帯の合せ目から、ことりと拾って、白い掌
で、こなたに渡した。
 小さな鶏卵の、軽く角を取って扁めて、薄漆を掛けたような、艶やかな堅い実である。
 すかすと、きめに、うすもみじの影が映る。
 私はいつまでも持っている。

 手箪笥の抽斗深く、時々思出して手に据えると、殻の裡で、優しい音がする。
                        (泉鏡花『栃の実』より抄出)



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