信じれば真実、疑えば妄想…

季節は巡り、繰り返しと積み重ねの日々に、
小さな希望と少しの刺激で、
今を楽しく、これからも楽しく

妄想劇場・韓信外伝 (馬邑失陥)

2017年07月23日 | 妄想劇場

V0151111111 


昨日という日は歴史、今日という日はプレゼント
 明日という日はミステリー


メジャーでは無いけど、 こんな小説あっても、 
 良いかな・・・


アングラ小説です、不快感がある方は、
読むのを中断して下さい



Kansin 


韓信外伝 (馬邑失陥) 

冒頓は父親の頭曼とうまんを殺して単于の位に
就いた男です。到底話し合いが通じる男ではありません」  
側近たちは口を揃えて反対の意を表明した。

韓王信はそれに対して言う。 「しかし、あの兵数を見ろ。
ざっと見積もって十万は下らない数だ。
我々の軍は、これに対して三万に過ぎぬ。
……
しかし、彼我の兵力差に怖じ気づいたと思ってくれるな。
確かに少数の兵力で匈奴を破ることができれば、
朝廷の我々に対する評価は高まるだろう。しかし、
事態はそんな悠長な状況ではない。

名をあげるための努力をするより、隣の匈奴とどうやって
付き合っていくか考えるべきだ。
大局を見て行動せねばならぬ」 「

では、戦っても勝てないとお考えですか」 
「当たり前だ。余は勝てぬ戦いはしたくない。
だから争わなくても済む両国の関係を築くつもりだ。
……
彼らが危険を犯しながら、こうして大挙侵入して
くるのはなぜか。彼らの土地には食が少ないからだ。
折しも今は秋。中原には収穫物が溢れ、
彼らはそれを欲する。だから、くれてやるのだ」 

「お言葉ですが……それは屈辱的すぎます」 
「耐えろ。武力でかなわないのだから仕方がない。
漢の内政が安定するまでの辛抱だ」 
「ですが」・・・ 

「欲しい物を施してやれば彼らは骨抜きになる。
その間にこちらは国力を蓄え、兵を鍛錬して養成すれば、
逆転は可能だ」 
「大局を見る、とはそういうことですか」
「そうだ。むやみに死ぬことを考えてはいかん。
無謀に戦って敗れてしまってはどうにもならぬ。
馬邑を守るためには…
長期的な戦略的思考が必要なのだ」

韓王信は匈奴と和睦すべく使者を送り、事態を
打開しようとした。これに関してはいろいろな解釈があり、
その多くは彼に批判的なものが多い。
しかし自分の領地と領民を守り、なおかつ彼が自分の命を
大事に考えたとすれば考えられる行動である。

しかも一時の激情に流されることのない、すこぶる
冷静な対応であったといえよう。
言葉の壁にぶつかり、文字を持たない相手に意思を
伝える難しさを再確認しながら、それでも二、三度と
使者を往来させ、おぼろげながら良い結果が期待できそうな
頃合いになった。

少なくともその間に両者の間の戦闘は止み、緊張も
緩和したのである。だが運の悪いことが起きた。
間が悪いと言った方がいいだろうか。

漢は冒頓単于が大挙して侵入してきていることを伝え聞き、
ちょうどこのときになって馬邑に兵を派遣してきたのである。
「援軍だと? 今さら要らぬ。帰らせろ」  
韓王信は吐き捨てるように言った。

彼らの存在はせっかくの和平の気運を妨げるものであった。
あるいは彼らが登場することで一気に状勢を
逆転できるのならまだよいが、見たところそれもあやしい。
彼らが加わったところで、たいして戦力の足しに
なるとは思えなかった。

「彼らの登場が匈奴を刺激する結果になるかもしれぬ。
そうなっては今までの努力が、水の泡だ」  
韓王信は援軍の漢兵を決して前面に出さず、
その存在を匈奴に気付かれぬよう配慮した。
当然ながらその様子に漢の兵たちは不信感を抱く。

どうも、夷狄に使者を送ったりしているようだ。  
韓王は匈奴に土地を売り渡すつもりか? 
それはすこし違う。売るのではない。
彼は代価も貰わずに土地を……しかも財物をつけて
渡すつもりだ。ただの献上だ。

そういった兵たちのささやき合いがやがて将官の
耳に入るに至った。しかし疑念を抱いた将官は直接
韓王信に問いただすことはせず、櫟陽の皇帝劉邦のもとに
事を告げた。

そして韓王信は劉邦から叱責されることになる。
木簡に記された皇帝の書を突きつけられ、彼は嘆息した。  
淮陰侯は鍾離眛を匿っていた事を余人に察知され、
密告されたというが……この国はいつもそうだ。
小人に足元をすくわれることが多すぎる。

「死んでみせることばかりを考える者は、
勇者とはいえない。かといって生き続けることだけを
考える者も、侠者とはいえない。

夷狄が馬邑を攻め続けるのは、彼らが君王の心を
見透かしているからだ。
なににおいても城を堅守しようという意志が、
いったい君にはあるのか。たとえ危亡の地にいようと、
動じることのない忠と信の心を持って守っていれば、
危機は取り除かれ、亡は薄められる。

思うに、君には忠と信が不足している。
これこそが朕が君王を責める所以なのだ」
皇帝劉邦の書簡には、そう記されていた。
言いたいことがよくわからない文面ではある。
しかし、このときの韓王信には、劉邦の言いたいことが
よくわかった。

城から突出したことが冒頓を呼ぶ原因となった……
外形のみから判断すれば、これは私の行為が
浅はかなものだった、ということだ。

いい格好を見せようとして武力を行使してみたものの、
それに倍する強大な敵の姿におののき、後退したことは
確かにそういえるかもしれない。
しかし、あのときは……仕方がなかった。

強大な敵を前に和睦を結ぼうとして使者を送ったことは、
間違いではない……しかし皇帝にとってこのことが
裏切りに見えることも……あるかもしれない。

不利な条件を前提に講和を結ぶ、ということは
降伏と見えないこともない。だがこのことも、
ほかにどうしようもなかったことである。

後知恵で物を言える身分のうらやましさよ。
皇帝は自分で考えることもせず、戦うこともしない。
やることと言えば結果に対する批評ばかり
……気楽なものよ。

しかし彼は思う。自分は皇帝から土地を割き与えられ、
その権利を子孫に伝えることを保証されている。
ゆえに言うことを聞くのは当然ではないかと。
「……土地というものは、厄介なものだ」

「は?」
彼は口に出してそう言ったが、周囲の人物たちには
その真意が理解できない。
「他人から与えられた土地は、目に見えぬ糸で人の行動力を
制限しようとする。余が皇帝から与えられた恩義とは、
この土地を与えられた、その一点に尽きる」

「どういうことでしょう」
「韓の王室の血を引継ぐ余が平民の身分に
甘んじていた時期に、余を見出し、引き上げてくれたのは
張子房どのだ。そして当時未熟だった余に対し、
武勲を譲り、王権を引継ぐにふさわしい功績を
与えてくれたのは淮陰侯だ。

皇帝は、それを許可したに過ぎない」
「…………」
「よって、余と皇帝の関係を繋ぎ止める糸は、
この土地でしかない。余は……
いっそ、その糸を断ち切ろうと思う」

「と、申しますからには……」
「うむ。一度馬邑は手放して、無から再出発しようと思う。
そして、取り返すのだ。余自身の力で土地を得たい。
漢兵に気付かれぬよう城を脱出し、時期を見て反転し、
再奪取する。匈奴と手を組むことになるが、
それもやぶさかではない」

皇帝が配下の王を信用して叱責した文書が、結果的に
反発を生んだ。これは、土地を与えるという一点のみで
配下との信頼関係を築こうとした当時の伝統的な
政策の誤りであった、と言えるかもしれない。

ひそかに城内から脱出した韓王信は、その後の匈奴軍の
行動になにも口を挟まなかった。
よって馬邑は攻めたてられ、城壁をよじ登られて匈奴の
手に落ちた。失陥したのである。

匈奴の世界は、彼らにとってまったく初めて
見るものばかりであった。
まず第一に、大きいという印象が強かった冒頓単于の馬は、
実際に近くに寄ってみると馬ではなかった。
首が長く、毛深い。何やら口元をもぐもぐと常に動かし、
泡を吹いているようでもあった。

そしてなによりも特徴的なのは、背中に大きな瘤がふたつ
見受けられることである。異世界の生物を初めて目にした
韓王信には、それが幻覚ではないかと思われた。

「こいつは、駱駝という。見た目はそうでもないが、
実は足も速い。そして何よりも、馬より手がかからぬ」
基本的には彼らの話す言語は自分たちのそれと同じもので
あるかのように思われた。しかし中原の人物たちにとって、
彼らの言葉はひどく訛が強いように感じられ、
聞き取るのにも苦労する。
結果、あまり親交は深められなかった。

「構わないさ」彼らは彼ら、我らは我らである。
中原の地を奪うという目的が一緒である以上、
細かいことを気にする必要もあるまい……
韓王信はそう思ったが、寒空の下、天幕だけを張って
暮らすという生活様式には決して慣れることはなかった。

彼に従う兵たちも同様で、それがどうしても望郷の念を
呼び起こす。さらに、食い物が違うことはそれを決定的にした。
米や麦を主食とする中原人にとって、肉と乳製品ばかりの
食事は馴染めないことこの上ない。

彼らは故郷を思う心だけでなく、体調さえ制御できなくなった。
なんとか早く中原の土地を得て、拠点を築かねばならぬ。
そう感じた韓王信は、幾度となく長城を越えて中原に侵入する。
彼らの軍は、閼与を越え、晋陽を越え、銅鞮どうていに至った。
もう少しで邯鄲に到達するという勢いである。

当初彼らに与えられた太原郡という地は、かつて「代」と
呼ばれた地であったが、彼らはそれを越えて趙へ
侵入しようという凄まじさを持っていた。

匈奴の協力を得た彼らの勢力が大変なものであったことを
物語るものであろうが、それ以前にやはり韓王信の統率力が
人並み以上のものであった、ということであろう。

しかし残念なことに銅鞮で彼らの進撃は止められた。
皇帝が親征し、その軍が韓王信率いる隊を
迎え撃ったのである。
この戦いに敗れた韓王信は一人の将軍を失い、
自らは長城を逆に越えて匈奴の地まで後退した。

「敗兵をまとめ、様子を見よ。吾は、まだ死ぬわけにはいかぬ」
彼は戦地に残した王黄おうこうと曼丘臣まんきゅうしんという
二人の将軍に命じ、再起を期した。
「匈奴兵は強いが、作戦に深みがないようだ。
負けて勝つ、ということをまったく考えていない。
だからその戦いはすべてが局地戦であり、ある戦いの結果
が次の戦いの結果に結びつくということがない」

韓王信は冒頓を相手に話した。言葉が通じるように、
ゆっくり丁寧に話す。しかし、冒頓は彼のいう言葉の音が
わかっても、意味が理解できないようであった。
「どういうことかな?」

「……むこう(漢)は皇帝が親征してきている。
これを討ち、捕らえれば漢は実質上、滅ぶ。
皇帝は元来感情的なお方だ。勝ちが先行すれば調子に乗って
深みにはまる。博打のようなものだ……

いや、博打の意味は君らにはよくわかるまい。……
とにかく最終的な勝利を得るために、我々は小さな敗北を
何度も重ねる必要がある。五度戦って四度負ける、
そのような覚悟が必要なのだ」

冒頓からすれば、韓王信の考えは素直に受け入れがたい。
彼は心の中で中原に帰りたいと望み、それがゆえに
我々に負けろと言っているのではないかと
疑いたくなるのであった。

言葉巧みに我々を誘導し、最後の最後で寝返るのでは
ないかと……。
「疑うな。最後には必ず勝つ。吾の言う通りにせよ。
いや、してほしい」
韓王信は冒頓の疑心暗鬼を打ち消すように言った。
それもそのはず、彼にとってもはや皇帝は討つべき
存在なのである。

中原に帰りたいという感情は確かにあったが、
皇帝を討たない限りそれは不可能だと彼は考えて
いたのであった。

「疑うなというが、やはり君の言葉を信じるための
保証が欲しい」冒頓はしかしそう言った。当然の反応だろう。
「ならば、生まれたばかりの子と孫を君に預けよう。
あまりに年若いので人質とも言えぬかもしれぬが……
それで吾の気持ちを斟酌してほしい」

韓王信は馬邑を捨てる際に、太子を連れて匈奴に投降した。
匈奴の地に至った後、その太子に子が生まれた。
これが孫であり、韓嬰かんえいである。

同時期に韓王信は自分の妻にも子を産ませている。
生まれた子は地名をもとに頽当たいとうと名付けられた。
子と孫を同時に得るあたり、自分はなかなかに強運の
星のもとに生まれたと考える彼であったが、
これはやはり由緒正しき韓王室の血を途切れさせないことに
由来する。

しかし大事な血脈を持つその子や孫であっても、
政争や戦略の道具にせざるを得ないのは仕方の
ないことだったと言えよう。 
・・・
(つづく)



愚人は過去を、賢人は現在を、
  狂人は未来を語る




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歌は心の走馬灯、歌は世につれ、
 世は歌につれ、
  人生、絵模様、万華鏡…


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