大人たちが、分厚いコートを脱ぐように、
膨らんでいた桜のつぼみが、いっせいに花びらを広げた。
つぼみたちは、なんで春が来たとわかったのか。
不思議な力をもった桜の木だなと感心するレイラです。
それでも、お店のテラスを吹きぬける風はまだまだ冷たく、
ロールケーキが焼き上がるまで待てなくて、
レイラはパパのお仕事を中断させてクレートに入れてもらった。
お店の中は、生地が焼ける甘い香りがして、
きょうもNorah Jonesが、けだるい声で歌ってる。
その声は、子守歌のようにレイラを寝かせつけてくれる。
Norahも不思議な力をもった女性だなと思うんだな。
お店の前の公園で、少年が一人で遊んでる。
そうか、春休みかと、パパがぼんやり眺めていたら、
少年が蹴ったボールが大きくジャンプして
公園の柵を越えて飛んでってしまった。
「しまった!」
少年は胸の中で叫んだようだった。
声には出していないけど、
それはパパにも聞こえるくらい大きな叫びだった。
あの勢いだと、きっと海まで飛んでったに違いない。
残念ながら、その予想は大当たりで、
少年のきょうの遊びは終わりとなり、
公園には誰もいなくなってしまった・・・。
そんな日常の風景の中で、
パパたちの店はきょうもオープンするんだな。
きょうも普通の一日でありますように・・・。
レイラは、そう思うのです。
きょうも青いお空が広がって、超気持ちのいい朝を迎えたレイラです。
風も穏やかで、瀬戸の水面は鏡のように平らに光ってる。
その上をスイスイ滑って遊んでる海鳥を、
Norah Jonesを聴きながらぼ〜っと見てるパパです。
きのうから、うちのお店にカフェのお勉強に来てる研修生。
すっごく落ち着いてて、お店の中を海鳥のようにスイスイ滑ってる。
キッチンにその人がいるだけで、なんだか違うお店になったみたい。
お店って、人が空気をつくるんだね。
もうすぐ桜が咲いて、いろんなところでピカピカの一年生が誕生する。
ランドセルをしょった一年生。
スーツできめた一年生。
エプロンを着けた一年生・・・。
きょうはね、研修生と一緒にスコーンを焼くらしい。
この人も、近い将来エプロンを着けた一年生になるんだろう・・・。
パパたちは、少しでもその力になれればと思ってる。
学校や社会という世界が、大きな扉を開けて一年生を迎えてくれる春。
けさのスコーンも、オオカミが大きなお口を開けてくれるといいんだけどな・・・。
見上げると、青いお空が広がって、まぶしいくらいに明るい朝。
それでも、ここ数日続いてる春の嵐が
冷たい風をビュンビュン吹かせちゃって、
お店の前でブルブル震えるレイラです。
お店に入るとひんやりしてる。
場所を取って邪魔になると思ったストーブに火をつけて、
ゴメンゴメンと、いとおしそうに炎を見つめるパパ。
レイラにはこのストーブが、
「いい時だけ電話してくんだもん」と彼を想う
切ない女子のように見えっちゃった。
同じ女の子として、ちょっぴり同情しちゃったな。
青い空の色が反射して、瀬戸の水面も青くキラキラ輝いてる。
それを眺めながら、パパはいつものように珈琲を淹れて頭をかしげてる。
でもね、けさはそのあと、大きくうなずいた。
きっと、おいしい珈琲が淹れれたんだな。
このところ、ずっと続けてるのが、
中深煎りと深煎りの珈琲豆の配合率の研究。
けさ、やっと探してた配合が見つかった様子。
パパは一人でニヤニヤしながら、カップに入った珈琲を見つめてる。
なんか、「見えてきたぞ〜っ」って表情。
カップの中の珈琲には、パパのそんな楽しそうな顔が映ってる。
けさの珈琲は、ひときわ輝いてるみたいだ。
瀬戸の水面のようにね・・・。
昨日といい、今朝といい、春の嵐がやってきて、
ほとんど吹き飛ばされそうなレイラです。
さて、この時期はどうしてもパパたちのお話しは、
卒業とか進学とかの話題になってしまう。
こないだなんか、塾でのお勉強を一生懸命頑張った18歳の若者たちが、
進学が決まったって遊びにきてくれた。
進学先は様々で、学部も工学部だったり経済学部だったり、いろいろ。
今どきは、環境なんとかって学部もあるらしく、
時代は変わったなって感じ。
そうかと思えば、
ひととおり大学でのお勉強も終わって、いったん就職したけど、
まだまだ勉強し足りないって、
働きながら更に上の学位を取っちゃった人もいる。
みんなお勉強大好きなんだな・・・。
お勉強が大嫌いで、机からエスケープばかりしてたパパとママは、
彼らを見てホント感心しきりなんだ。
そうそう、専門学校で飲み物やお菓子のお勉強してる学生さんが、
来週から研修のためにうちのお店にやってくる。
その人は、ただいま学生真っ最中。
将来は、カフェを開きたいって夢を抱いた希望の星なんだな。
はたして、うちのお店で得るものがあるのか、
パパとママとしては責任重大なのさ。
さらに、二人は20歳の頃の自分と比べて、
あんなしっかりビジョンもってたかなって、落ち込んじゃってるみたい。
でもね、勉強大好きな人たちの刺激を受けて、
きっとパパたちのモチベーションも上がんじゃないかな・・・。
春の嵐は、まだまだ弱まりそうにもありません。
でもね、この嵐がないと、本当の春はやってこないって。
だからね、
ネバーエンディングストーリーのファルコンのように、
風に毛をなびかせながら、シッカリ目を開いて前を向くレイラなのです。
お外に出てみると、なんだか爽やかで、
きょうは四温のうちの一つなんだと思う今朝のレイラです。
こんなお天気だと、パパのブラッシングもなんとか我慢できる。
お散歩も自然と足取りが軽やかになってしまう。
暖かいだけで心がウキウキだけど、
こうなってしまうと、「ストーブが場所をとって邪魔だ」と、
この冬、だいぶお世話になったくせに
勝手なことをふと思ってしまって、反省しちゃいます。
春は心浮かれる一方、
新学期や新年度がはじまるって緊張感も漂うんだな。
パパはこの時期があんまり好きじゃないって。
なんか不安に駆られるんだってさ。
進学先や人事異動が決まり、
不安どころじゃない引っ越しの準備で大忙しって人もいるだろう。
レイラんちのお隣の「怪物くん」も、どうやら完成したようで、
そろそろ新しい住人がやってくるんじゃないかな。
そんなこんな、大したこともないことをぼんやり考えてるパパ。
パパの頭の中も春霞がかかったように、
ぼうっとしてるみたいだ。
こんな時はね、珈琲を飲むといいんだよ。
頭が冴えて、「さあ、頑張るぞ」って気になるらしい。
逆にね、ちっと一息って時は紅茶。
「あ〜っ、ホッとした」ってな具合に、リラックス効果があるらしい。
みんな、上手に使い分けて
その時に合った「お茶時間」楽しんでくださ〜い。









