９月２３日（火）
参加者ーたかし、喜哉、突波、ジロー、還水
烈、鈴鹿、白水、さと子、かづこ
初恋は春だったね。あの娘に出会ったのは駅だったかバスストップだったか忘れたけど、恋は成就して二人して流星を見てはどうしてこんなに悲しんだろう、なんて言ったりした。
そして神戸で２２才の別れを迎えて他人の関係になり加茂の流れに身をやつしたり・・
さて、何曲あるでしょう？
句会が終わったあと、５０代のオッサン６人が集まって歌いまくりました。選ぶ曲はみんな知っていてなつかしく、妙に盛り上がってしまいました。
仕上げに熱唱したのはなんと！「若者たち」
この日は１０名の参加で出句数も選句数も多かったのですが、そこを手順よく句会進行させてゆく喜哉さんにはいつものことながら感心させられました。自身の句も最高得点に選ばれ殊のほか機嫌が良かったように思います。
また、この日は白水さんが出色の出来で、出した句すべてがマルチです。俳句のつぼを押えたというところでしょうか。
互選句
帰へりには通らぬ道の曼珠沙華 （たかし）
寺の庭招かぬ月の客二人
葡萄より固き涙を吸ひにけり （突波）
そこそんなふうにされたら猫じゃらし
鎧の姫組み伏せられし曼珠沙華
おるがんの吸ふ秋風吐く秋風 （喜哉）
透けし服はおりて月光の少女
ゆく秋の窓そしてかなりやのうた
葬列も遠陰の類秋の風
良夜なり次郎の家の灯の消ゆる
表札にひとつ増える名柿日和 （ジロー）
椋鳥や誰も知らない隣の子
ちちははの影ふみ帰る良夜かな
熱のさめて入る店秋ともし
ひとまはりして戻り来し秋の川
疑問符が浮いてゐる空吾亦紅 （還水）
叱られて仔猫は鈴を追う良夜
世は火宅現世安穏只秋鯖
訛りたる体育教師今朝の秋
我が為に鳴く虫ありき夜の果て
返信の来ぬこと思ふ秋扇 （烈）
秋蝶の手の届きそな夢のごと
消し難き想ひ膨らむ良夜かな
叡山より蹴上げられたる望の月 （鈴鹿）
湯の秋や少彦名の立たす石
手水舎に熱き湯の沸く諏訪の秋
稔る田にやや傾いて案山子かな
耳に澄む風の轍や秋彼岸 （白水）
弟と空かきまぜる赤蜻蛉
惜別の金鋲打てよ法師蝉
秋空に青き鯨の浮かびをり
足すことも引くこともなき良夜かな
曼珠沙華くずれ土塀に灯をともす （かづこ）
母看取る院の窓辺の良夜かな
看取りの夜母を窓辺に月待てり
あてもなくより添い歩く良夜かな （さとこ）
そよ風と松虫の音でまず一献
叡山より蹴上げられたる望の月
今年(H26年)9月8日、私もこの句の現場に居た。
駅の改札口を出て、ひとりが指さし、皆で見上げた空に真ん丸、お月さん。
これまたひとりが、「名月をとってくれろと泣く子かな」と声に出した一茶の句。貴船の川床の帰り、駅を出て、皆で見とれた満月。そう、正に季語「名月」の現場。
幼子はその満月をほしいと思い、青春時代をとうの昔に過ごした作者は、その同じ月を、引き寄せるのでなく、遠くへ放つイメージとして「蹴上げられたる」月と詠んだことに、共感を覚えた。
すべての存在が、自分から離れゆくものとして感じるようになる、それが年を重ねるということかと、しみじみ思い、特選に戴いた。(鑑賞者 烈)
おるがんの吸ふ秋風吐く秋風
今をときめく村上春樹の第一声は、「完璧な文章などといったものは存在しない」だった。
形而下に完璧はあり得ないのかもしれない。しかし、色彩や造形と違い、文章というものは自然界にもともと存在したものではなく、我々人間が何の因果かサルか
ら身を起こした挙句に、切々たる原初の叫びを宥め賺し、こね回して造り上げた人造生命である。その意味では、完璧に近いものを創り得るのは人間だけであり、
神にもその座を譲ることはない。
万能の創造主がいて、秋の風を吹かしたとしても、おるがんにその風を呼吸させて秋思に溢れる音色を聴かせるのは、利剣の鋭さと儚さを併せ持った詩人の魂だけ
である。吾人はそこに、不死にあらざる者のみが表現し得る奇蹟を見るのである。恐るべし……。
（文責：はやみかんすい）
