オベロン会ブログ

英米文学の研究会、オベロン会の専用ブログです。

1月のオベロン会報告

2011-02-02 | 左り馬
2011年最初のご発表は、宮本さんの『壺葬論』についてです。

実は宮本さんはこのテクストを共訳 されています。
残念ながら今は品切れ中ですが、
日本語で十七世紀の散文にふれることのできる貴重な書物です。

ブラウンはイースト・アングリアで出土した古のローマ人の遺灰
(後にサクソン人であることが明らかになったようです)
を目にしながら、さまざまな思いをめぐらせます。
世界各地の火葬の歴史、出土した壺とその中身についての詳細な記述、
火葬後の魂の運命、質素な骨壺と対比される立派な墳墓を建設する無意味さ…。
死生観と無常観があふれていますね。

ブラウンは世俗での永遠を願った人々の壮麗な墳墓を見ながら、
それと対比される神の時間を意識します。
ブラウンが対照的な二つの時間を意識するに至るきっかけとして、
十七世紀に拡張しつつあった年代学の考えを無視することはできないようです。

さらに、前時代の歴史意識や同時代の古事研究を学ぶことで、
ブラウンのテキストはいっそう深みを帯びてきます。

それだけではなく、ギリシャ・ローマ古典への言及があふれたブラウンの著作には、
随所に興味深い記述が含まれていることをお話していただきました。

壺をめぐる様々な議論に、参加者一同大いに刺激を受け、
多くの質問が交わされました。

しかし、ブラウンの英語は難解ですね~

その後は、例になく目黒へ三次会までくりだし、
お酒で暖まりながら歓談に花を咲かせました。

宮本さん、今回も貴重なお話をありがとうございました!

11月のオベロン会報告

2009-12-06 | 左り馬
今年は暖冬と言われていますが、
昼間の暖かさも、会が終わる時刻になると
冬の風が吹きとばしてしまったような気がします。


会場の国際文化会館を出て
鳥居坂を下る足元もすっかり暗くなる季節になりました。

このような頃合いになると、学事も忙しくなる「繁忙期」ですが
その合間をぬって伊達恵理さんが

「探求の変容:'The Seeker' から At the Hawk's Well へ」

のタイトルでご発表してくださいました。
予告より踏み込んだテーマとなっております。

あまり知られていない初期の作品 'The Seeker' は
一人の老騎士が、魅惑的な「声」にとりつかれ
その主を求めて遍歴するという劇詩です。
その後のイェイツの作品に通じる象徴性や、
Femme fatale である魔女のモチーフが見られることを、
原文を読みながら解説してくださいました。

これらのモチーフは、At the Hawk's Well に受け継がれつつも、
'The Seeker' の老騎士が体現していた役割は
At the Hawk's Well の二人の登場人物、騎士クーハランと老人に
それぞれ描き分けられ、「探求」の意味も変容していることが読み解かれました。


この二つの作品に見られる登場人物の役割の変容には、
イェイツがアイルランド文芸復興運動を強く意識し、
詩人の在り方や、詩作に対する態度の変化が作用しているようです。

能の影響が強く反映された作品として知られている
At the Hawk's Well ですが、劇詩人イェイツという観点から
'The Seeker' と併せて考えることで新たな視座を提供してくださいました。


イェイツの作家としての成熟を見るのみならず、
ロマン派的特徴や、同時代の作家が描くモチーフとの関連、
牧歌の伝統(前回のご発表ではイェイツのパストラル・エレジーに触れて下さっています)、
聖杯伝説、政治性など、
イェイツの背後に広がる文学観と世界観に
参加者一同おおいに盛り上がり、
イェイツの作品に 'possessed' された一時でした。

今回もありがとうございました!

さて、次回は平成21年最後のオベロン会です。
普段より一週早く、12月19日(土)、
14時から国際文化会館西館4階のセミナールームにて開催されます。
どうぞご参加下さい。

9月の例会報告

2009-10-02 | 左り馬
日中は日差しが強く汗ばむくらいでしたが、
会が終わると時刻になるとすっかり涼しくなります。

さて、 今回の会で千葉さんは、

「伝記」をめぐる十八世紀的状況と「注釈」の効用
――『スコットランド旅行日記』と『ジョンソン伝』にみるボズウェル編集術

のタイトルでお話をして下さいました。

『スコットランド旅行日記』(The Journal of a Tour to the Hebrides, 1785)というタイトルからして、
どのような旅行記だろうと興味を抱きますが、実際に作品を紐解くと、
「旅行記」ととらえるよりも「伝記」としてとらえた方が適切だということをご指摘下さいました。

そこで、ボズウェルの「伝記」を書く際の方法論を、
『ジョンソン伝』(1791)の序文から確認したところ、
ボズウェルは「読者にジョンソンとより親密になってもらうために」、
「できるだけ正確にジョンソンの書き物」を用いることをことわっています。

たしかに、ハンドアウトで引用して下さった『ジョンソン伝』を見る限り、
ボズウェルの書きぶりは、ノートに書き留めたという会話の集積で成り立っており、
一つの物語を構築するという態度よりは、「散漫なエピソード集」と呼ぶに相応しいものです。

これは『スコットランド旅行日記』にも言えることで、
ボズウェルの場合、スコットランドの記述というより、
ジョンソンとその周囲の人々の会話から成り立っており、
あまり旅行記らしい記述ではないことが指摘されました。
ジョンソンが『スコットランド旅行記』(A Journey to the Western Islands of Scotland, 1775)で
同じ体験を綴った記述を見ると、
その土地の人物、歴史、風土などが読み取れる文章となっているのとは対照的です。
『スコットランド旅行日記』を『ジョンソン伝』の一部として読める理由がここにあります。

しかし、ボズウェルの旅行記、一番の注目点は初版(1785年10月)と
第二版(同年12月)の異同にあるといえるでしょう。
初版には見られず、第二版に付加された箇所をいくつか引用して下さいましたが、
ここからは、これまで脚注などに注目してテクストを読み解いて下さった千葉さんの独壇場です。
草稿や初版の段階で問題となった、スコットランドの有力者Alexander Macdonaldや
Edmund Burkeらをジョンソンが批判している箇所を、
第二版では書き換え、脚注で弁明を加えているのです。
興味深いことに、これらの書き換えや弁明は、
ボズウェルと同じくジョンソン・サークルに属していた
Edmond Maloneの筆によるところが大きいことを詳しく説明して下さいました。


こうなると、ジョンソン自身の語りそのものを重視したボズウェルのジョンソン像も、
様々な書き換えの中で<作られた>ものとなりますね。

いつもより若干少ない参加者でしたが、千葉さんのテクストの詳細な読みに、
一同さまざまな意見を出し合い、会は大いに盛り上がりました。
活字となった時が楽しみですね

会の後は、初めて足を向けたお店で
スコットランドとアイルランドのウイスキーで、
美味しいお酒をいただきました

千葉さん、今回もありがとうございました!

9月の例会

2009-09-22 | 左り馬
今年は夏の暑さもあまり例年のように感じられず、
いつのまにか秋風が吹く季節となってしまいました

例年、我が家の周りに集まる昆虫を目にする機会が
少ないのは関係があるのでしょうか。

さて、ご報告が遅くなってしまいましたが、
今月のオベロン会のご発表は千葉康樹さんがなさって下さることになりました。

今回のテーマは、ボズウェル(James Boswell)の
『スコットランド旅行日記』(The Journal of a Tour to the Hebrides, 1785)と
『ジョンソン伝』(The Life of Samuel Johnson, 1791)です。

千葉さんは2007年10月のオベロン会のご発表で、
ジョンソンの『リチャード・サヴェジ伝』とボズウェルの『ジョンソン伝』についてお話をして下さいました。
今回は、そのとき触れられなかったボズウェルの『スコットランド旅行日記』を取り上げ、
そこから『ジョンソン伝』に話を広げていって下さるそうです。

ジョンソンとはまったく違うボズウェル流の伝記の書き方について、
ジョンソン亡き後、ボズウェルのメンターでもあり、共同執筆者でもあった
Edmond Malone(シェイクスピアの校訂者として有名)について、
そして伝記における注釈の役割についてのお話をして下さると頂いております。

千葉さんは18世紀がご専門ですが、
これまでにオベロン会でジョンソンやボズウェルに加え、
Michael DraytonのPoly-Olbion (1612) や、
Edward GibbonのThe History of the Decline and Fall of the Roman Empire (1776-88)
などの作品における、近代以降の注釈を新たな視点から論じて下さいました

今回も興味深いお話が伺えること間違いなしですね!

9月26日14時から、国際文化会館で行われます。
みなさまのご参加をお待ちしております