文淵の徒然なるかな

日々の徒然なるのを綴る

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桃太郎 63 雉編

2017-03-07 18:07:05 | 日記
 涼は意識を取り戻した。目を開けたが視界は真っ暗のままだった。顔の蹴りつけられた箇所を冷やすために視界を覆うように冷えた手拭いが置かれているのに気づいた。
 涼が取り除こうとすると近くに気配を感じた。涼が手を動かすと、そっと下ろそうとする手があった。
 その手を思わず探り握った涼は纏まらない言葉を口にする。

「ありがとう、助けられたのは二度目だな……上手く言葉にできないが、一目見た時からお前の事が頭から離れないんだ。意識しないようにしていたが、ふとした瞬間の胸の高鳴りはどうにもならない。どうやら私はお前の事を好いてしまったみたいだ。すまないこんな事を、だが顔を見る事ができないいまだか言える。臆病な私を許してくれ……」
「そんなんいきなり言われても困りますわあ」
「なななな!庚申【こうじん】!」

 慌て飛び起きた涼は未だ握った庚申の手を振りほどき、慌てた様子で纏まらない弁解を繰り返す。そんな涼の姿を見て、庚申はゆっくり首を振り涼の両肩を静かに押し、寝かせようとする。

「違うのだ!これは!その!あれだ!えと……」
「桃太郎はんも休んでますわ。心配せんでも今の告白は誰にも言いませんから、ゆっくり休んでください」
「絶対……だぞ」
「わかってます。口はこう見えてまあまあ固いんですわ」
「まあまあなのか?」
「言葉のあや、心配せんでもええから、山降りれるくらいの体力を戻してください」
「何を傷も浅い……すまない。言うとおりにもう少し休む」
 
 抵抗しようとしたが四肢に力が入らない涼は再び横になり、庚申の言葉に従って休む事にした。

 しばらくすると涼の寝息が聞こえてくるのを聞き庚申は安心した。でなければ思わず左手に隠し持った意識を奪うように眠らせる絶針を使うところであった。
 突如現れた気配を感じた庚申は声をかけた。

「鴉【からす】どないしたん」
「実は探索途中で―――」
「はあ、なかなか気が利くな、よし皆起きたら行くわ」
「では」
「ありがとうな」

 気を利かせた鴉よりの報告を受けて庚申の顔もにこやかであった。

 しばらくした後、一同は休息を終え、動けるようになった涼と傷が閉じた桃太郎と共に報告を受けた場所へと向かうのであった。

「なんだ、その良いところとは?」
「着いてきたらわかりますわ」
「もったいぶりおって」
「そろそろですわ」
「おおっ!あれは!」
「ほな、ゆっくり湯治していきましょか」

 庚申の言葉を言い終えるより先に壮介は駆け出して行った。

「馬鹿犬……」
「くっ……あはは、壮介は童のようだ」
「涼様もゆっくりしてください」
「ありがとう桃太郎」
「なんやったら一緒に入りはったらどないです」
「ばばば、馬鹿を申すな!」
「別におかしい事ないですやろ?」
「庚申様も人が悪い。涼様も困っていらっしゃるじゃないですか、涼様、心配しなくても狭いので一人一人入る事になりましょう」
「そっ、そうか、別に俺は一緒に入っても構わないぞ」
「涼様そんなに無理なさらなくてもよろしいですよ」
「涼はん堪忍な、つい面白うて」
「そうか、そうだな、ああ残念だ」

 動揺しながらも強がりを見せる涼の姿に苦笑する桃太郎と庚申だった。

「おーい!なかなか良い湯だぞー!」

 既に湯に入っている壮介がにこやかな笑顔で手を振っている。

「ホンマ馬鹿犬や」
「申し訳ない、涼様は後程になります」
「構わない。先にゆっくり休んでくれ」
「ほな一足先にいただきます」

 こうした涼を除いた一行は湯に入り傷と疲れを癒すのだった。

「なぜ一緒に入らん」

 湯上がり開口一番壮介が涼に向かい放った言葉だ。

「忘れてるやろけど、涼はんは貴族、間違っても犬とは入らんよ」
「誰が犬か!……そういうものなのか?」
「誰しも事情というものはありましょう」
「そうか……涼すまなかった」
「いや俺は気にしていないからな、壮介頭を下げるな」
「では涼様もどうぞ」
「わてらは晩の獲物を取りにいきますよって、気兼ねなくゆっくりどうぞ」
「では参りましょうか」
「行くか」
「ほな行ってきますわ」

 こうした涼を残して一行は晩の食事となる獲物を捕りに発った。
 残された涼は久しぶりの湯を堪能し、ついつい長湯となるのであった。

 一方獲物を捕りに向かった一行は順調に獲物の数を増やしていった。

「結構捕れましたな」
「十分な食事も摂れて、残りも保存食にできそうですね」
「これだけあればしばらくは大丈夫だな」
「あんさん何もしてませんやろ」
「壮介の追い込みがなければいろいろ厳しくあったでしょう」
「そ、そうか!」
「実際には獲物を追い込んで逃がしてましたけどな」
「まあまあ庚申様も」
「とにかくもう一度湯に入り汗を流そうではないか!」

 そう言い壮介は湯へと駆け足で向かって行った。

 一方涼は長旅の垢と疲れを癒し、溜まっていた洗濯を行っていた。洗った後に入り直さねばなと涼は考えつつも夕刻辺りまでは戻らぬだろうと踏んでいた。
 そこへ壮介が裸で入ってきた。

「一仕事したあとにこうして入れるのは、なかなか贅沢だ」
「ななな、なぜ貴様、堂々と入って来ているのだ!」
「おおっ、涼かすまんすまん。まだ入っていたとはな。すぐ上が……」

 肌襦袢が濡れ透けて下の白い肌が見える。細いながらも丸みを帯びた体に、普段は抑えつけられている乳房が今はしっかり主張している。

 互いにしばらく無言であったが、叫び声を上げたのは壮介だった。

「だだだだ誰だ!なぜこのような場所にいる!」
「それはこちらが言う言葉だ!未だ狩りの途ではないのか!」
「狩りはもう終わったのだ!貴様……まさか涼なのか」
「俺以外にどう……」
 
 この時初めて涼は自身の格好を見ると、みるみる赤面して悲鳴を上げた。

「まじまじと見るなこの助平!」 

「女だったのか?」
「ここまで見てそれをわざわざ問うか!」
「馬鹿犬ー!早よ謝って出てこい」
「申し訳ない涼様、手違い故に何卒お慈悲を!」
「早く出て行け!」
「すまなかった!」

 こうして一行に涼が女性であると知られる事となった。

「馬鹿な上に助平とは救えんな」
「まあまあ庚申様も、壮介も悪気はなかったのですから」
「仮にも貴族の姫君やで打ち首やな」
「さすがにその死罪はやり過ぎではないか、俺も伏せていたのだし」
「まあ冗談はさて置き、涼はんには事情があって男の真似事をしとるわけやな」
「そうだ。あのような不甲斐ない男に囲まれて居てはそうなろう」
「桃太郎殿も庚申も人が悪い知っていたなら教えてくれても良いではないか」
「いや逆に気づかんのもおかしいやろ」
「いや確かに可愛いらしいと思ってたが、まさか女とは思うまい」
「だだだだ誰が可愛いか?!」
「まあまあ皆様、とにかく涼様は女子でありますので配慮すると言う事で」
「夜這いなや」
「誰がそのような!」
「桃太郎ならいつでも……」
 
 涼の小さな呟きに場が一瞬で静まり、視線が涼に集まったのは言うまでもない。

「じじじじ冗談だ冗談!あははははは……ははは」

 静寂は桃太郎が今日は休みましょうの言葉を口にするまで続いたのであった……。
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