アクセル、ブレーキ、ときどきクラッチ

広告制作者であり、ウイークエンドテニスプレーヤーであり、2児の父であり、鬼コーチでもある自営業者の日記

フランス生まれのシモーネ嬢とイタリア生まれのテソーダ氏(21)

2016-10-16 11:08:49 | 日記
前の試合が終わって選手たちがコートから出てきました。
すれ違う選手たちの顔を見ればどちらが勝ってどちらが負けたかは想像がつきます。
”いよいよ私の番、コートに入ったら落ち着いて自分のテニスをするだけだわ”
そう自分に言い聞かせながらゆっくりとコートサイドのベンチに向かいます。
どうやら対戦相手はまだのようです。
ラウラはラケットバッグからラケットとタオル、
それから水筒とテニスノートを取り出して横に並べます。
軽く足を動かしながら入口の方に目をやってみましたが対戦相手は現れません。
ロービングアンパイヤが無線でなにやら本部と話をしているようです。
「いま対戦相手がこちらに向かっているみたいだからもう少し待ってくださいね」
ラウラは「はい!」とだけ短く応え、ベンチにすわってテニスノートに目を通し始めました。
4~5分ほどして「おくれちゃったー!」という声が聞こえたので目を上げると、
なんと先ほどラウラの前を歩いていたクレアと呼ばれていた女の子だったのです。
ラウラはおどろきました。
“ポイントを持っていない、ウォームアップになるかならないかわからないような対戦相手って
ひょっとして・・・いいわ!ジックリ見させていただきましょう。
ウォームアップになるかならないかは、やってみなければわからないことよ”
そう思うとラウラの闘争心(とうそうしん)に火が入ったようです。

コイントスでラウラはレシーブを選びました。
試合前の3分間の練習では相手のボールの威力を確かめるため、
ラウラはわざと回転のかからないボールを返しながらラリーをします。
”やっぱりポイントを持っていないだけあってボールに重みがないわ。
単調なボールですこと。この分ならどうやら私がいちばんはじめにカフェのイスに座れそうだわ”
クレアはそんなことを思いながら舌なめずりでもするようにサーブを打ち始めました。
練習を終えてベンチにもどり、水分をとりながら作戦を考えるラウラ。
一方のクレアはベンチにもどろうともせず、ラウラがレシーブ位置に立つのを待っています。
まるでムダに時間をかけたくないわとでも言いたそうな表情です。
そんなクレアの気持ちを察してかラウラはタオルを持ってコートをゆっくりと歩きます。
そしてタオルをバックネットにはさんでレシーブサイドに立ちました。
それと同時にクレアのサーブトスが上がります。
サーブはラウラのバックサイドに入りましたがラウラは動こうとしませんでした。
「まだ構えができていません。もう一度ファーストサーブからお願いします」
はっきりとした声でそう言うと後ろに転がったボールを拾い上げて
相手コートにやさしくワンバウンドさせて返しました。
クレアはもどってきたボールを荒っぽくつかむと、
しかたないといった表情でもう一度サーブトスを上げ直します。
そしてトスが上がるとラウラはすばやくベースラインより内側に入って、
バックサイドに入ってはねてくるボールをライジングで力強くとらえ、
リターンしたボールは相手バックサイドのコーナーギリギリに落ちます。
クレアはなにかにだまされたようにポカーンとボールを見送ってしまいました。
”ウソでしょ?マグレ・・・よね?そうに違いないわ”
00-15!ラウラのポイントです。
今度はスライス回転でセンターから左に逃げていくサーブ。
これにもベースラインより内側に入って、
さらに斜め前に足をふみ出しながらファーストポイントと同じようにコーナーの深いところをつきます。
クレアは必死に飛びつこうとしますが、レシーブのもどってくるタイミングが早すぎて追いつけません。
00-30!再びラウラのポイントです。
ラウラは表情ひとつ変えることなくデュースサイドに立って次のポイントに備えます。
”ラウラ・ブルネッティ・・・いったい何者?
完全に相手を見あやまっていたようだわ。
そしてわずか2ポイント取られただけで、すでにわたしは自分を見失っている”
クレアは自分が勝ちを意識しすぎてあせっていることに気づきました。
なんとか自分のプレーを立て直そうと考えをめぐらせます。
”サーブが浅すぎたみたいだわ。もう少し深く入るサーブを打たなくちゃ”
そう考えて打った次のサーブは深すぎてサービスラインをほんの少し割っているように見えました。
「フォールト!」ラウラがコールすると、すぐさまクレアがネットに向かって歩いてきます。
ラウラはそんなクレアの動きを先回りするようにボールの落ちたところをラケットでマークします。
クレアはラウラのマークしたボールのあとを確かめると
ムッとしたような表情でベースラインにもどって行きます。
セカンドサーブがあまく入ったらまたライジングをたたかれてしまうかもしれない。
でもダブルフォルトだけはしないように注意しなくちゃ・・・。
クレアの打ったサーブは予想した通り浅くなってしまったので、
ラウラの強烈(きょうれつ)なリターンに備えすぐに姿勢を低くしてかまえます。
するとラウラは前と同じようにベースラインの内側に入ってライジングをとらえましたが、
グリップを素早く持ち替えてネットギリギリに落ちるドロップショットでリターンします。
ボールはスライス回転がかかったまま相手コートのネットぎわにポトンと落ちました。
クレアはあわててダッシュしましたが追いつくことができません。
00-40!この相手の裏を描くショットが決まった瞬間、
バックネットの外側からため息と拍手が同時に聞こえてきましたが、
ラウラは気にすることなく次のプレイに集中しているようです。
”こんな選手がわたしの緒戦(しょせん)の対戦相手だなんて信じられない。
完全にプレイを読まれているみたい。でもこのまま彼女のペースが続くとは思えないわ。
まだ試合が始まったばかりじゃない。流れが変わるまでガマンガマン!”
そう自分に言い聞かせたクレアは次のポイントは開き直っていくことにしました。
サーブのコースを思い切ってラウラのボディをねらいます。
ラウラはやはりライジングをとらえようと前にふみ出していたので、
体に食い込んでくるボールの軌道に対応することができずに体勢をくずしてしまい、
リターンは大きく右にそれてアウトになりました。
15-40!
続く次のポイントではファーストサーブをゆるく打って相手のタイミングをずらそうとしました。
これをラウラは強打してリターンをネットにかけてしまいました。
30-40!
”よし!この調子でもう一本しのげればデュースよ。フォーカス!(集中!)”
次のサーブはスピードの速いフラット系。
バックに来たボールをラウラはブロックリターンで返球します。
リターンされたボールには回転がかかっていないため、比較的コントロールしやすい。
クレアはひざを折って姿勢を低くしてオープンコートをねらって打ちましたが、
ねらいすぎてアウトしてしまいました。
ゲーム!
ラウラ最初のゲームをブレークしました。表情は変わりません。

第2ゲームはラウラのサービスから始まります。
ラウラは作戦通り相手のウイークポイントをさぐるため、
自分のサービスゲームではラリーをしてみようと思いました。
テソーダ氏との約束通りボールを10回ついてトスを少し後ろ気味に上げます。
そしてタテの回転を強くした、どちらかというとセカンドサーブのようなサーブを打ちました。
それほどきびしいコースをねらって打たなかったので、
クレアはふみ込んでボールに体重を乗せてリターンします。
返ってきたボールは思った以上に回転がかかって重く、
ラケットの真ん中に当てることができずにストロークが短くなってしまいました。
そのボールをクレアはアプローチショットにしてネットにつめてくるかと思ったら、
打った後ベースラインまですぐにもどってしまいました。
”あれ?もしかしたら相手はネットプレイは苦手なのかしら。
今度は意識的に短いボールを打ってみよう”そう思って打ったボールにも
クレアは返球した後、やっぱりネットを取ろうとせずベースラインまで下がってしまいます。
”よし、それならわたしの方がネットに出てみよう”
そう考えてコーナーめがけてアプローチショットを打ちネットにつめます。
クレアはそのタイミングを見計らってロブを上げました。
高く上がったボールはラウラの頭上を越えてベースライン近くにストンと落ちました。
00-15!
”あせっちゃダメだわ。もっとジックリとプレイしないと”
次のポイントは相手に打ち込まれないようにヨコ回転のスライスサーブをボディめがけて打ちました。
コントロールを重視したサーブだったのでスピードはそれほど速くはありません。
このボールに対しクレアは上手に体を逃がしながらていねいに深く返します。
少し長めのラリー戦となり、クレアはループボールをおり交ぜることで相手のリズムをくずして、
ラウラに気持ち良くストロークを打たせないようにしているようです。
特にバック側に大きくはずむボールは10さいのラウラにとって返球はむずかしくなります。
結局このポイントはラウラの打ったボールが長すぎてアウト。
00-30!
”そうだわ、クリスティコーチが言っていたように相手に気持ちよくラリーをさせてはダメだわ。
返ってきたボールにできるだけ早く追いついて自分のボールにして相手を動かさなくっちゃ”
ラウラはボールに”意志”を持たせようと考えたのです。
”相手は次のポイントもループボールを混ぜてくるはずだわ。
ループボールを打ってきたら今度は後ろに下がらずにライジングでヒットしてみよう”
そんなアイデアが浮かんできました。
ラウラはクレアが左右にふられた時は必ずといっていいくらい
クロスにループボールを打ってくることを前のラリーでなんとなく感じ取っていたのです。
次のポイントでラウラはサーブのスピードよりもむしろ回転数の多いスピン系のサーブをセンターに深くに打ちました。
コートに落ちてからかなり高くはずむので、クレアは後ろに下がらされた状態でリターンします。
肩よりも高いところで取らされたクレアはボールに体重を乗せることができません。
そしてあまく返ってきたボールをラウラは相手コートのバックがわコーナーに打ち込みました。
クレアはそのきびしいボールを、ラウラが読んでいた通りクロスにループボールで返球します。
そのフォームを素早く見て取ったラウラはサービスラインあたりまでダッシュ。
ライジングではなくドライブボレーでストレートに打ち抜きました。
「カモーン!」ラウラの声がコートにひびき渡ります。
15-30。
この調子でラウラは次のポイントでもサービスでポイントを取ろうとせず、
高くはずむスピンサーブを打ちます。
そしてムリな体勢にさせられたクレアのリターンは前のポイントの時よりもさらに短くなって、
ラウラはそのボールをオープンコートめがけて思い切りたたきこみました。
30-30。
ここでラウラは一呼吸おくため、バックネットにかけたタオルで手と顔の汗を拭きます。
”たぶん次のポイントはとっても大切。このゲームをキープできれば後の展開がラクになるわ。
とにかく集中を切らさないようにしなくちゃ”
そう思いながらサーブトスの動作をしようとした時です。
クレアのレシーブの構えの位置が少し後ろに下がったことに気づきました。
”あれっ?あっ、そうか!相手はわたしがまたスピンサーブを打つと読んで
はじめから下がっているんだわ。よし、それなら作戦を変えちゃおう”
ラウラのトスは前よりも少し外がわに上がりました。
そうです。横回転を強くしたスライスサーブに切り替えたのです。
ラウラの放ったサーブはネットを越えるとカーブしながら角度がついて外に切れていきます。
後ろで構えていたクレアは必死にボールに飛びつこうとしましたが間に合いませんでした。
ノータッチのサービスエースです。
ラウラは左手をにぎりしめて小さくガッツポーズを作りました。
40-30。
「その調子でいきましょう」シモーネがささやきました。
「ええ、そのつもりよ。よくわからないけど今日のわたし、なんだか相手の動きがよく見えるの。
そればかりじゃない、体だって思うように動けてる。気持ちが悪いくらい楽しいわ」
ラウラはここで自分の試合を見ている人がどのくらいいるかグルッとながめてみました。
まだ2ゲーム目なのにかなりの人が見ていることに気づいてビックリです。
なにやらささやき合っていることはわかりましたが、なにを言っているかまではわかりません。
でも注目されていることだけは確かのようです。
”さぁ、集中し直してこのゲーム、キープしなくちゃ”
そうは思ったものの、注目されていることに気持ちがフワフワしてしまっているラウラは
うっかりボールを4回ついただけでトスアップしてしまいました。
今度もスライス系のサーブでセンターをねらいましたが
力が入りすぎてしまったためボールはネットにかかってしまいました。
セカンドサーブもわずかに2回つただけですぐにトスアップ。
ボールにタテへの回転が不十分で大きくアウトしてしまいました。
”アッチャー!やっちゃった!”
40-40。ノーアドなので次のポイントを取った方がゲームを取れることになります。
”ほかに気を取られている場合じゃなかったわ。
次のポイントを取られたらゲームを落としちゃう。
今度はファーストを確実に入れていかなくちゃ”
そんなことを思いながら、またもやボールを4回ついただけでトスアップ。
上がったトスはイメージしたよりも少し後ろになってしまいましたが、
ムリして打ってしまったため、またもや大きくアウトしてしまいました。
”アッチャー、トスし直せばよかった。大失敗!”
残されたセカンドサーブが入らないとゲームを失うことになります。
「ねぇラウーラ、ちょっと間を取った方がいいよ」
そんなテソーダ氏のアドバイスもまったく耳に入りません。
なんとあろうことか、今度は1回もボールをつくことなくトスアップ。
ネガティブな気持ちで打ったサーブは力なく相手コートに入ります。
あらかじめポジションを前に取っていたクレアは
力強いスイングでリターンしボールがラウラの正面をおそいます。
ラウラの反応は遅れラケットのスイートスポットを外してしまったボールは
にぶい音を立ててネットにかかってしまいました。
ぼうぜんとするラウラをしり目に「カモーン!」。今度はクレアが叫びました。
これでゲームカウントは1-1。
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