BULKHEAD magazine

セーリングニュース&コラム【バルクヘッド・マガジン】

レースのリアルタイム中継はできないか?

2004年11月29日 12時03分49秒 | コラム
 アテネオリンピックを取材して、深く考えさせられたことの1つに「レース情報の伝達・公開手段」があります。アテネで、もっとも速く、くわしい情報は、現場にはありませんでした。海に出て観戦しているだけでは、どんな報道のプロフェッショナルでも不十分です。報道艇に乗っても、4海面あるうちで1つの海面しか見ることはできません。

 レース海面全体を見る方法は、クルーズシップを使った観覧艇に乗ることでしたが、この乗船チケットが1日約1万円と高価な上、見たくもない海面にも連れて行かれてしまう、という難点がありました。さらに、海上も陸上同様に厳戒な警備態勢のため、基本的にどのボートに乗っても自由に動き回るのはむずかしい。

 アテネオリンピックで、いちばん速く、くわしい情報を知る手段は、ウェブサイトを閲覧することでした。ウェブサイトでは、全種目全レースのマークラウンディング(回航順位)が速報され、世界のどこにいても、ウェブサイトを見れば、ほぼリアルタイムで回航順位を知ることができたのです。PCの前に座りながらマークラウンディング速報を見て、一喜一憂された方も多いことでしょう。大げさにいえば、「フィニッシュした選手が結果を知る前に、机の前に座った世界中の観戦者が結果を知っていた」のですから本当におどろきです。

 アテネでは、セーリング競技は(少なくとも1日1種目は)テレビ放映されていました。いちばん選手の近くに寄れるメディアはテレビ報道艇であり、テレビ放映を見ていた方が、海上に出るよりレースの詳細が分かったぐらいです。さらにPCがあれば、完璧なレース観戦ができました。

 これは、ぼくが考えるに、これからのセーリング競技のあたらしい方向性を示していると思います。セーリングは、レースをしている様子が見えない不思議な競技です。海上に出てしまえば、フィールドスポーツのような観覧席はなく、一般の人が気軽に見られる、というものではありません。

 しかし、これではセーリング競技の発展はのぞめません。関係者たちは、もっと、もっと、見られる(見せなければならない)意識を持って、レースをしなければ、発展はない、と考えます。けっきょく、内輪同士の楽しみで終わっていまうわけです。海上にいる選手、運営スタッフだけでなく、ここに「観戦者」が絡むことで、あたらしい競技性(楽しみ方)が生まれるのではないでしょうか。

 日本のクルーザーレースでは、これまでウェブサイトを通じて詳細なレース情報を公開する試みがありました。2003年の鳥羽パールレースでは、全艇にGPS携帯電話を設置して、大まかなポジションをPCで確認できました(ただし、この試みは定着していません)。ほかにも逗子マリーナのクラブレースでも、位置情報サービスのココセコムを使ったレースが行われました。

 でも、インショアのブイ回りレースでは、動きが速く、ボートの位置が細かくなるため、GPSで追いかけるのはむずかしいといわれています(GPS衛星と頻繁に通信するため費用も大きい)。

 アテネのように莫大な費用を使うことは不可能ですが、日本のレースでもできることはないのでしょうか。ぼくは、マークラウンディング(回航順位)や成績速報をウェブサイトを通じて公開するぐらいなら、それほどむずかしいくはないと考えています。

 そこで、ぼくの提案です。
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(1)携帯電話を通信手段に使う
日本の沿海は携帯電話(ドコモ)の通信網が整備されています。これは、多くの漁師がドコモを使用しているからであり、山間部と比べるまでもなく、海は携帯電話がつながりやすいエリアといえます。まして、インショアレースのように岸近くにいるなら、トラブルは少ないと考えられます。

(2)携帯ウェブサイトを作って、携帯から直接更新する
回航順位や成績速報、また風向、風速、海上コンディションなどを携帯で見られたら、楽しくないですか? 速報性を重視するためアンオフィシャルな情報になるでしょうが、それでも、海に出られない人が、陸上から、出張先から、会社から、情報が分かれば、臨場感があるし、なにより、これまでセーリング競技ではむずかしかった「リアルタイムな応援」が可能になります。
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 携帯ウェブサイトは、このサイトのように、ブログを使って更新するのがいちばん安上がりで、手っ取り早い。普段、携帯メールを使う人なら、更新するにも、閲覧するにも、違和感なく操作できることでしょう。

 このアイデアを思いついたのは、11月中旬のニッポンカップ(葉山)の時でした。ぼくは、準決勝、決勝の日に、海に出て、公式サイトに情報を流す係をしていました。「フライト2マッチ1。第1上マークをエド・ベアードが、ハンセンに3艇身先行して回航しました」なんて具合に、携帯電話を使って陸上スタッフに知らせ、その情報を頼りにウェブサイトが随時更新されました。

 どうして、携帯電話を使ったかは、悲しくも無線機が故障していたのが理由です。でも、一方通行同士の交信になる無線を使うより、携帯電話で話した方が、音声もクリアで、スムーズに情報が伝わりました。

 ニッポンカップとは対照的に、今秋開催された470、スナイプ、J24、インカレ等の全日本選手権は、協会ウェブサイトがあるにもかかわらず、ぼくが知る限り、レース情報はすばやく公開されませんでした。なかには、大会終了後も成績がなかなか公開されず、歯がゆい思いをさせられた大会もあります。全日本470は、メーリングリストで1~2日後に成績、レポートが送られましたが、メーリングリストという限定されたメンバーだけで終わらせて良いモノか、とも考えます。

 さて、セーラーのみなさん、長々と書き連ねましたが、この携帯電話を使ったリアルタイム情報公開手段は、いかがでしょう? ぼくは、ぜひ実現させたいと思っています。まず、実験的に一度、やってみませんか。その時は、ぼくに連絡ください。飛んでいきますよ!

(文・平井淳一)

メールはこちらへどうぞ。
j-hirai@fa2.so-net.ne.jp

単独無寄港世界一周マッチレース

2004年11月26日 19時28分34秒 | コラム
 いま2人の日本人が、単独無寄港世界一周に出ているのをご存じですか? 単独無寄港世界一周とは、その名の通り「ひとりで、どこにも寄港せず世界を一周する」こと。つまり、2人の日本人によって『世界一周マッチレース』が行われている、というわけです(正式なレースではありません)。

 その2人とは、「太平洋ひとりぼっち」の堀江謙一さん(64歳)と、斉藤実さん(70歳)です。堀江さんは、40フィートのアルミ製〈サントリー・マーメイド〉で、10月1日に新西宮ヨットハーバー(兵庫県)を出港しました。

 堀江さんのことは、あえてここで紹介する必要もないぐらい有名ですね。あの「太平洋ひとりぼっち」で、日本からサンフランシスコまで単独無寄港横断航海した人物です(1962年)。その後、74年に単独無寄港世界一周、82年縦回り世界一周、92年には足漕ぎボートで太平洋を航海しました。

 ぼくが堀江さんに取材したのは、99年にビア樽を再利用して建造したリサイクルヨットでサンフランシスコ~明石間を航海した直後だったと思います。紳士的な言葉遣いが、とても印象的でした。

 ぼくが「次の航海の予定は?」と尋ねると、「3年後ぐらいに出ようと思っています。体は丈夫だから、まだ続けますよ」と、即座に次の航海計画が飛び出してきました。帰ってきたばかりなのに、もう次の航海計画ができあがっているのか、と驚いた覚えがあります。

 斉藤実さんは、世界的に知られる単独世界一周レース『アラウンドアローン』を3度完走したセーラーです。言葉では言い尽くせないぐらい個性的な方で、とにかくパワフルで骨太。とても70歳には思えません。悪い言い方をすれば、攻撃的な性格で毒舌。今回の航海も堀江さんを異常なまで意識しています。

 斉藤さんは、50フィートヨット〈酒呑童子〉で、10月16日にシーボニアマリーナ(神奈川県)を出港しました。出港直前まで、準備に追われるあわただしさで、いかにも斉藤さんらしい。

 斉藤さんは、出港日をあえて堀江さんの出港日に近づけました。遅れて出港するのも「あとから出港して、追い抜きたい」という、敵対心からのようです。堀江さんは、そんな斉藤さんの気持ちや行動を知らないはずですが、この70歳のアグレッシブな(子供じみてもいる)行動は、超人的であり、尊敬に値します。

 さて、前代未聞の世界一周マッチレースの勝敗はいかに? 彼らのホームページでは、航海位置を随時公開しているので、のぞいてみてください。この冬、最も熱いマッチレースです。

(文・平井淳一)

写真=2004年10月16日、シーボニアを出港する〈酒呑童子〉(photo by HIRAI)

●堀江謙一 SUNTRY-MARMAID.COM
http://www.suntory-mermaid.com/index.html

●斉藤実 チャレンジ7
http://www.canal-wt.com/~Challenge-7/

2004年470全日本・唐津

2004年11月24日 21時56分35秒 | レポート
 11月19~23日の4日間、佐賀県唐津で全日本470が開催されました。アテネ五輪後の全日本470であり、言い換えれば北京へ向けて第1回目の全日本470ということになります。しかし、開催場所が遠いこともあってか参加50艇とさびしく、さらに前ナショナルチームの中村公敏、吉峰秀樹、石橋顕等が不参加だったこともあり、いささか盛り上がりに欠ける全日本となりました。


 今大会では、まだコンビの確定しない臨時結成チームが目につきました。選手が変更された主要チームを紹介します。
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スキッパー:クルー
松永鉄也:同志社大時代に1学年先輩だった原口祐司
関一人:これまで白石潤一郎、松永ともコンビを組んだ柳川祥一
吉迫由香:ベネッセで川野沙織と組む大熊典子
近藤愛:法政大で高橋礼子と組む鎌田奈緒子
井島千寿子(東亜建設):西南学院でFJに乗っていた加藤彩香
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 ここに紹介するスキッパーは、「北京五輪に向けて活動をする意志はあるが、現時点でクルーが確定していない」が本音のようです。彼ら(彼女たち)は、数回の練習(関に至っては現地で初乗り)で臨んだ全日本となりました。

 また、近い将来、470界をけん引するであろう小宮航(江の島ジュニア)にも注目です。現在中学3年の彼は、数々のタイトルをOPで獲得してきたジュニアのヒーロー的選手。OP卒業後は高校ヨット部には所属せず、470で活動することを表明しています。彼の父親・小宮亮氏は、1979年の470ワールドチャンピオン(スキッパーは甲斐幸氏)。正真正銘のサラブレッドです。ターゲットは北京五輪以降になるでしょうが、今後の成長に期待です。

 さて、今大会の最重要人物は、やはりメダリスト関一人。関は前日までニッポンカップ(葉山)に出場しており、ボート、マスト、セールは柳川の前キャンペーンボートを使用し、ドライスーツ1つだけ持って、(ライジャケを忘れるほど)急いで現地に入りました。

 コンディションは、21日第3Rで最高8m/sまで上がったものの、シリーズ全体を通して平均3~4m/sの軽風。そんな軽風コンディションの中、第1Rから飛び出したのは、関/柳川と田畑和歌子/栗田直美です。田畑は2日を終えた時点で、関に4点差を付けてトップに立ちます。

 しかし、田畑は第7Rで痛恨のDNF(このレースでは関を含む5艇のみフィニッシュ)。さらに第8Rでも15位を叩き、関がトップに躍り出ます。

 最終日は、関と田畑の一騎打ちになりました。関は田畑をルーズカバーしながらも、お得意のダウンウインドと賢明なコース取りで着実に順位を上げ、シングルで収めます。対する田畑は、最終レースとなった第8R8位、第10Rで15位と関に差を広げられました。直接対決は、文句なく関/柳川の勝利です。

 関は3回目の全日本タイトル奪取です。初の女子チャンピオンが期待された田畑は、過去女子記録最高の2位となりました。三位には、新鋭・松永/原口を退けて三部/高村が入りました。

 ぼくがレースを観戦した感想は、現時点では飛び抜けている実力の関一人の印象が強く残っています。そして、田畑和歌子の成長ぶりです。「和歌子はずいぶん変わった。ミスが少なくなってる」と関に言わしめるほど、今回の走りには目を見張るものがありました。対する田畑のコメントは、「悔しい」を連発。記録を作ろうが、1位でなければ満足しない“負けず嫌い”には脱帽させられます。

 さて、次の重要470レースは、2005年3月2日に和歌山で開催されるナショナルチーム選考会。今回は、北京へ向けて第1回の選考ということで、選手たちに「様子をうかがいながら……」といった気持ちのある、“ゆるい”レースになりそうです。また、どんな組み合わせのチームがお目見えするのかも注目したいと思っています。

(文・平井淳一)

◎第33回全日本470級ヨット選手権大会成績 2004.11.19~23 佐賀県唐津
1位 関一人/柳川祥一(関自工/SPN)
2位 田畑和歌子/栗田直美(第一経済大)……女子1位
3位 三部泰成/高村幹治(本田技研鈴鹿)
4位 松永鉄也/原口祐司(柳が崎セーリングクラブ)
5位 近藤愛/鎌田奈緒子(ミキハウス/法政大)……女子2位
6位 吉迫由香/大熊典子(島精機/ベネッセ)……女子3位
7位 高橋洸志/天貝謙介(早稲田大)
8位 谷口斉謙/吉見亮平(第一経済大)
9位 前田弘樹/木村彰吾(福岡大)
10位 渡辺哲雄/木村訓(和歌山県連)

※写真=勝敗を分けた第9Rで上マーク回航する田畑/栗田(photo by HIRAI)

北京オリンピック採用艇種決定!

2004年11月23日 22時55分28秒 | ニュース
 2004年ISAF総会で次期北京五輪セーリング競技の種目が決定されました(11月)。ヨーロッパ級が、レーザーラジアルに変わり、ミストラルがニールプライドRS:Xに変わりました(男女とも)。以下、あらためて種目の紹介です。

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ウインドサーフィン男子:ニールプライドRS:X
ウインドサーフィン女子:ニールプライドRS:X
マルチハル・オープン;トルネード
キールボート女子:イングリング
キールボート男子:スター
ダブルハンド・ディンギー・オープン:49er
ダブルハンド・ディンギー・女子:470
ダブルハンド・ディンギー・男子:470
シングルハンド・ディンギー・女子:レーザーラジアル
シングルハンド・ディンギー・オープン:フィン
シングルハンド・ディンギー・男子:レーザー
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 注目はレーザーラジアルの新採用でしょう。ラジアルは、レーザー(スタンダード)にマストとセールを代えただけのスモールサイズ・レーザー。世界で最も普及するレーザーですから、この種目の出場枠争いは、かなりシビアになると予想されます。

 日本でもヨーロッパ級より普及していますが、果たして日本がクオリファイできるかが問題です。参加国数が前回アテネ五輪と同じなら、日本の出場は……。以前より簡単に獲得できないことは確かでしょう。ウインドサーフィンのニールプライドは、どのような艇種なのか知りません。

 また、ISAF評議会メンバーに大谷たかを氏が選出されました(2008年まで)。いつもヨットハーバーで裸足の大谷さんですが、とってもエライ(?)んです。

(文・平井淳一)

リンク
2004 ISAF Annual Conference