現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

天野夏美/作 はまのゆか/絵「いわたくんちのおばあちゃん」

2017-02-22 09:43:01 | 作品論
 四年生のぼくは、六年のいわたくんと仲良しです。
 ぼくたちの学校は、原爆が爆発したところから一番近い小学校です。
 いわたくんのおばあちゃんは、絶対に家族と一緒に写真をとりません。
 ぼくは、いわたくんのおばあちゃんが、なんで一緒に写真をとらないのか知っています。
 それは、いわたくんのおかあさんが、「平和学習」の時間に理由を説明してくれたからです。
 いわたくんのおばあちゃんは、原爆が投下された1945年8月6日の直前に、両親と当時16才だったおばあちゃんも含めて四人姉妹全員で、記念写真を写真屋さんに撮ってもらいました。
 空襲を避けるための一家の疎開が間近に予定されていたので、焼けてしまうかもしれない家の中で最後の記念に撮ってもらったものです。
 しかし、原爆のために、いわたくんのおばあちゃんを除いて、家族全員が死んでしまいました。
 記念写真は、その後に写真屋さんからもらったので、今も残っています。
 おばあちゃんは、一緒に写った家族がみんな死んでしまったあの八月が忘れられなくて、ずっと家族と一緒にいたくて、孫のいわたくんたち今の家族と一緒に写真を撮らないのです。
 ぼくはこの話を聞いて、「大人になっても戦争はしない」と誓います。
 読み始めた時には、四年生が主人公の割には文章や本の作りが幼い子向けの感じがして気になったのですが、だんだんに作品世界に引き込まれました。
 広島弁を生かした淡々とした語り口が、静かに原爆や戦争の愚かさを告発しています。
 そして、それをたんなる過去の出来事の糾弾ではなく、未来への平和の誓いにつなげているのが特に良かった点だと思います。
 絵も優しいのんびりしたタッチで、未来への希望をうまく表現しています。
 巻末の実際の記念写真が、作品中の写真の絵と全く同じ雰囲気で、「事実」だけの持つ迫力を伝えてくれています。
 この本は2006年8月6日の原爆の日に発行されたものですが、こういった原爆体験を語る地道なボランティア活動を続けているいわたくんのおかあさん、作者、画家、出版社に敬意を表したいと思います。
 2012年10月に行われた日本児童文学学会第51回研究大会(その記事を参照してください)のラウンドテーブル「<記憶>の伝達を考える――「戦争児童文学」という枠からの脱出――(その記事を参照してください)」で、「記憶の更新」「次の世代に伝える工夫」が大事だということが話されましたが、この作品はまさにそれらの条件をクリアする新しい「戦争児童文学」だと思います。

いわたくんちのおばあちゃん
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