現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

香山リカ「劣化する日本人」

2016-11-27 18:18:01 | 参考文献
 精神科医の香山が、2014年に話題になった様々な問題や事件は、日本人が劣化していることが原因であると主張している本です。
 「STAP細胞問題」、「音楽界でのゴーストライター問題」、「パソコン遠隔操作事件」、「ヘイトスピーチ問題」、「橋下大阪知事や安倍首相などの政治家の発言問題」、「反知性主義問題」、「製薬会社の臨床研究不正事件」など、旬な問題や事件を、精神医学の観点から論じています。
 それぞれの問題や事件は興味深いのですが、あくまでも個別なミクロな事象であり、「劣化する日本人」というマクロな現象との結びつけが決定的に弱いです。
 マクロな結論を導き出すのなら、具体的なデータの提出が不可欠なのですが、この本で提示されたデータは「大学生の四割が一日の読書時間0」、「テレビの朝の情報番組の他愛ないゲームに毎日三百万人も参加している」のたった二つだけです。
 また、個々の事象に関する情報も、すべてマスコミですでに明らかになっているもののみで、独自の取材や調査は皆無です。
 さらに、精神医学的観点の分析も、先行する論文などの調査はきちんと行われておらず、都合のいい部分だけが引用されています。
 ひどい時には、その引用も孫引きのことすらあります。
 自分の文章の中で引用するならば、原典にあたるのは書き手としての最低限のモラルでしょう。
 香山は、この興味深いテーマを、なんでこんなに荒っぽく書いてしまったのでしょうか。
 そこには、「これらの問題や事件が旬なうちに出版してたくさん売りたい」という編集サイドの意図が明瞭にうかがえます。
 香山自身が「あとがき」で述べているように、「この緊急企画を考え、あわただしい執筆の過程を支えてくださった」のは編集者です。
 おそらく香山は、編集者が用意した素材を使って、精神医学の知見でさばいて見せたのでしょう。
 これは、ワイドショーなどで見かける様々な肩書を持ったコメンテーターが、自分の専門領域外のことまで、その日の話題にもっともらしくコメントしている姿に酷似しています。
 そして、執筆の背景には、商業主義(つまりお金です)や、虚栄心や自尊心の満足と行ったことも絡むでしょう。
 そういう意味では、香山自身も、この本で取り上げられたいろいろな問題や事件に現れた人びとサイドの人間だと言えるかもしれません。

劣化する日本人 (ベスト新書)
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