現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

小川洋子「ことり」

2018-01-20 08:35:13 | 参考文献
 「小鳥の小父さん」と呼ばれる一人の男の一生を描いた作品です。
 人間の言葉は話さずポーポー語と呼んでいる小鳥のさえずりに近い言葉を話す年の離れたお兄さんの、唯一の理解者(お兄さんの話すポーポー語が理解できます)であった「小鳥の小父さん」。
 優しいお母さん、家族に背を向けたお父さんが、あいついで亡くなってからの二人だけの二十三年間の静かな生活(企業のゲストハウスの管理人の仕事をしながらお兄さんを養っていました)。
 お兄さんが亡くなってから(大好きだった幼稚園の鳥小屋のそばで脳溢血で倒れました)の長い孤独な生活。
 「小鳥の小父さん」のまわりには、お兄さんのことを気にかけその後は「小鳥の小父さん」に鳥小屋の掃除をやらせてくれるようになった親切な園長先生や、図書館で鳥が出てくる本だけを読む「小鳥の小父さん」に理解を示してくれる若い女性司書など、心優しい登場人物も出てきます。
 しかし、「小鳥の小父さん」の静かな生活には、しだいにいろいろな苦難が押し寄せてきます。
 若い司書への淡い恋は破局に終わり、体は変調をきたし、子どもに対する変質者だという濡れ衣を着せられ、新しい園長に鳥小屋から追われ、仕事を失い、違法なメジロの飼育者たちに巻き込まれ、最後は一人(怪我していたのを助けたメジロはそばにいましたが)で死んでいきます。
 無名な心優しい人物の静かな一生を、過度に感傷的にならずに淡々と描いていて感動的です。
 「小鳥の小父さん」のような人々は、世の中にたくさんいることでしょう。
 そして、このような控えめで心の優しい人たちにとっては、現代は生きづらい世界なのかもしれません。
 こういった人々に光をあてることは、児童文学にとっても大事な仕事です。
 この作品は一般向けの本ですが、文章が平易ですし子どももたくさん登場するので、児童文学といってもいいくらいです。
 ただ、現在の売上第一の出版状況では、児童書として出版することは困難かもしれません。

ことり
クリエーター情報なし
朝日新聞出版
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