現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

ばんひろこ「ひめおどりこそうが ゆれたよ」あける28号所収

2017-04-29 09:52:14 | 同人誌
 女の子のグループの秘密基地(神社の裏の細長い公園)をめぐる話です。
 リーダーの女の子の指令で、その時いなかった女の子の仲間外れ(ごっこ?)が始まり、メンバーは次々とその子の悪口を言わされます。
 でも、その子と仲のいい主人公だけは、なかなか悪口を言えません。
 とうとう、ひめおどりこそうの精(?)に励まされて、主人公はその子が好きなことをみんなに告白します。
 そのために、主人公はグループ内で微妙な立場に置かれます。
 しかし、ひめおどりこそうの蜜を吸う遊びをきっかけに、またみんなとつながれます。
 低学年の女の子たちの微妙な人間関係が、丹念に描かれています。
 特に、ラストでリーダーの女の子を悪者のままにしなかったことが、読み味を良くしています。 

天馬のゆめ
クリエーター情報なし
新日本出版社
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高山榮香「ひまわりの里」あける28号所収

2017-04-29 09:34:23 | 同人誌
 人付き合いが苦手で、生涯独身だった地方公務員の男性が、母親の影響でひまわりを育て、退職後は野球場ほどの広さのひまわり畑に育て上げる話です。
 初めは地元の人たちにも馬鹿にされながら、数少ない理解者と共にひまわり作りに丹精していく姿が感動的です。
 彼のひまわり畑はやがては観光名所になり、鉄道の廃線で寂れていた地元をよみがえらせます。
 人にほめられることを期待せずに、自分の信念を貫き通す主人公は、児童文学にとって大切な人物像(キンセルの「シューレス・ジョー」(フィールド・オボ・ドリームスの原作)など)のひとつでしょう。
 特に、ひまわりの迷路を子どもたちが歓声をあげて走り回る姿は、宮沢賢治の「虔十公園林」の杉林やサリンジャーの「キャッチャー・イン・ザ・ライ」(その記事を参照してください)のライ麦畑を子どもたちが走り回るシーンを彷彿とさせます。

横丁のさんたじいさん (鈴の音童話)
クリエーター情報なし
銀の鈴社
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小川洋子「カタツムリの結婚式」不時着する流星たち所収

2017-04-29 09:05:55 | 参考文献
 「偉大な何ものかが立案した計画の実行者に密かに選ばれ、本人にも分からない任務を与えられながら、お互いをどうやって認め合ったらいいのか見当もつかず、秘密を守る重みに一人耐えている同志たち」を探す、主人公の女の子の、八つか九つのころの思い出を描いています。
 同志たちは、「演奏しているふりをしているオーケストラの楽団員」かもしれませんし、「試合に参加しているふりをしているサッカー選手かラグビー選手」かもしれません。
 しかし、少なくとも、女の子の通う学校にはいません。
 ある日、家族で時々遊びに行く空港(女の子の弟は、離陸したり着陸したりする飛行機の機種や航空会社を正確に言える才能を持ち、両親はそれを誇りに思っています)の片隅で、とうとう同志を発見します。
 それは、飛行機の待ち時間に暇を持て余している乗客たちに、カタツムリの競走を見せている(あるいは競走の結果に金を賭けさせている?)少年とも老人とも見える不思議な男です。
 作者の精密な観察眼と、熟達の描写力が、いかんなく発揮された作品です。
 特に、ラストのカタツムリの結婚式(交尾)を眺める(これが与えられた秘密の任務だと、女の子は確信します)二人の様子には、神々しささえ感じられます。
 なお、「カタツムリを偏愛し、自宅の庭で繁殖させ、ついには300匹にも達した」パトリシア・ハイスミスという作家に触発されて書かれた作品のようなのですが、彼女の作品を未読のため、関連についてはコメントできません。

不時着する流星たち
クリエーター情報なし
KADOKAWA
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