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色事師といえば西のカサノバか、東の在原業平か...

(他にもアレクサンダー大王、シーザー、光源氏、男にも女にもモテモテで、しかも運の女神にも愛された伝説の男は少なくない)


学芸に秀で、人脈にも金にも困ったことがなく、戦争に出たら連勝続き、顔の造作など問題にならないくらい魅力的、話し上手聞き上手...という男がいる。


小学校6年生のとき、これが女殺しかという転校生に出会った。
彼は常に機嫌が良く、とにかくどんな女にも丁寧に公平に接した。
彼があまりにも「あなたと話しているとものすごく楽しい」と瞳をキラキラさせるので、同級生も初老の教師も「自分は特別である」といい気持ちになってしまうのだ。

瞬く間に彼の名前は隣の学区にまで轟き、◯◯小、6年生の何某といえば、誰でも彼の名前を知っていた。あとにもさきにも、政治家の中にさえも、あんな不思議な才能に恵まれた男には会ったことがない。今頃どうしているだろうか。


閑話休題。

ジャコモ・カサノバは1725年ヴェネツィア出身のマルチ・タレント、奇才、超絶リア充である。


出身階級にもかかわらず、最高学府のパドヴァ大学で倫理哲学、化学、数学、法学を学び、16歳にして法学博士号を取る。

ヴェネツィアに帰り、教会の聖職者として法律実務に就く。が、女性問題で追放される。

ヴェネツィアの76歳の老評議員アルヴィーゼ・ガスパロ・マリピエロと懇意になり、ヴェネツィア最上の社交サークルに紹介してもらう。ここで洗練された社交術を身につける。

ヴェネツィア共和国の下級士官職を買い、コルフに短期間駐留。

サン・サムエーレ劇場のヴァイオリニストになる。

21歳のとき、貴族ブラガディン家一員の命を救い、ブラガディン家はカサノヴァの終生のパトロンとなる。

23歳でヴェネツィアを発ち、パリ、ドレスデン、プラハ、ウィーンを放浪。

30歳のとき、魔法・妖術(当時の科学)に対する関心があだとなり、宗教裁判所で有罪を宣告されて「鉛の監獄」に収監される。

5年後、この最も警戒厳重な監獄からの脱獄に成功。

七年戦争の収拾のため、フランスがアウクスブルクで開催した国際会議にポルトガルの代表使節の一員として参加。

60歳で隠棲、ボヘミア・デュックス(現チェコ領ドゥフツォフ)で、宰相ヨーゼフ・カール・フォン・ヴァルトシュタイン伯爵の司書となる。


どうです、博士号を取って聖職者になっても女を(時には男も)口説き、軍人になったり、人の命を助けたり、芸は身を助くとばかりにバイオリンの才能まであり、脱獄までしてみせたかと思うと、次には外交官ですよ...

サンジェルマン伯爵かというような(実際、同時代人)経歴ではありませぬか。


学者であり
聖職者であり
社交界の人物であり
軍人であり

ミュージシャンになり
宗教裁判にかけられ
脱獄までしてみせ
次には外国の外交官として表舞台に登場、

しかも美貌

そして人生を通して彼はすばらしい愛人であった。

さらにモーツアルトのオペラ「ドン・ジョバンニ」に加筆したとか、ヴェネツィア共和国のスパイだったとか、自著をヴォルテールに見せたとか、教皇や王族とも知り合ったというから、ほんとうに神出鬼没、愉快な男である。

当然、彼についてはいくつも映画が作られ、いくつもの本の題材になり、「カサノヴァ」は、すばらしきプレイ・ボーイの代名詞となった。



で、ここからがやっとバレエの話になる...


Ian Kellyの著書が、このKenneth TindalによるNorthen Balletの新作 Casanovaの下敷きになっている。

カサノヴァの煌びやかな経歴は、バレエとして舞台にうまく乗せたら、さぞ生えるだろうとは思った。

しかし彼の活躍は散文的ではあるので、2時間弱の横幅奥行き数メートルの舞台にどうやって乗せるのか、とても好奇心があった。

つまり、彼の人生のある時点からある時点までをそのまま舞踏で語って聞かせるバレエではありえないだろうと思っていたのだ。そのまま語って聞かせるとしたら、面白おかしいエピソードの連続で焦点がぼやけ、ただのドタバタになるのではないかと想像したのだ。


それが驚いたことに、彼が教会を追放されて、自伝を書き上げるまでの時間と出来事を追う叙述的な形になっているのですよ!

前半には例えば、バイオリニストが弓だけを持ち、ダンスだけで奏でている音楽そのものを表現したり、また女性の体が突然楽器に変容したかのように舞ったりと、すばらしく繊細で素敵な場面がいくつもあった。
宗教裁判の場面なども、凍りつくような無慈悲が表現されていてすごいと思った。

また、舞台装置がシンプルなのに豪華でこれはものすごくよく考えられていると思った。


しかし、特に後半、あまりにもさまざまなエピソードを盛りに盛りすぎたためだろうか、だんだんバレエというよりもマイムだけの場面が増え、正直ポンパドール夫人が出てきたあたりからはわたしはすっかり退屈していた。


色事師というキャラクターだけがおもしろおかしく(羨ましさも含めて)フォーカスされてきたカサノヴァの、おそらくもっと別の面、この男のもっと深いところにリーチしようという試みは、あまりうまくいっていないのではないかと思った。

いや、もしかしたらこの男はエピソードだけは盛りだくさんの、実は空っぽの容器のような男だったのかも...
空っぽだったからこそ、出会う出会う人がそれぞれの「カサノヴァ」像をそこに注ぎ込み、みんないい気持ちになって、だからこそ彼はもてまくったのかも...

いずれにせよ魅力的な人物だったには違いない。


(写真はnorthenballet.comより)
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