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熟年オジサンの映画・観劇・読書の感想です。タイトルは『イヴの総て』のミュージカル化『アプローズ』の中の挿入歌です。

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蝉しぐれ

2005-12-31 | 映画
藤沢周平の最高傑作というよりも、『蝉しぐれ』は日本で最も愛されている時代小説の一つである。
今回の脚本・監督の黒土三男は、数年前のTV版でも脚本を担当している。普段TVドラマはほとんど観ない私だが、その時は5~6回のシリーズを毎週夢中で観た。文四郎が内野聖陽、ふくが水野真紀で、演技力、情感ともに素晴らしかった。
今回は、恐らく合計4時間はあったTV版をほぼ半分の長さにするわけだから、ストーリーを追うだけではなく、何を核とするかの主眼が必要となってくる。
同じ藤沢周平作品を、『たそがれ清兵衛』『隠し剣 鬼の爪』と2本映画化した山田洋次は、短編をいくつか組み合わせた巧みな脚色で、武士社会の不条理と、封建社会での女性の不合理な立場を淡々と描いて見事であった。

以下、TV版『蝉しぐれ』と、山田洋次が監督した藤沢作品を踏まえての今回の感想である。
結論から言うと、よくまとまった出来栄えではあるが、何かシックリと来ない不満が残った。
前半部分は子役の健闘でよく仕上がっている。
藩のお世継ぎ抗争に巻き込まれ、切腹させられた父(緒形拳)の遺体を、大八車で一人引き取って行く文四郎(石田卓也)と、途中から手助けするふく(佐津川愛美)の、前半最大の泣かせどころは上手く描かれている。
問題は中盤以降の成人になってからの部分である。
意外だったのは、適役だろうと思っていた文四郎役の市川染五郎から、内に秘めた無念さや、朴訥とした一途な思いが全く伝わってこなかったことである。これは映画全体の雰囲気を支配することになり致命的であった。
反対に、ふくの木村佳乃は意外に声質と佇まいに存在感がある。言い換えれば、達観して堂々とした風情で、純朴で弱い部分や哀切の情感が薄まってしまった。
また、『隠し剣…』での緒形拳のような強烈な悪役は、加藤武では老獪さはあってもいかにも弱い。
カメラ(釘宮慎治)はきれいだが、四季折々の風景が度々繰り返されてしつこく感じる。さりげなく取り入れていた山田洋次との違いである。欅屋敷での別れの場が、モノクロから徐々に色づいてゆく意味がよく解らなかった。年月を経た二人の想い(白黒)が、昔の子供時代の無垢な二人(カラー)へと戻って行くということなのだろうか。
山田洋次とのもっと大きな違いは、大きなテーマであるべき下級武士とその家族の悲しみが平板に流れてしまい、武士社会の不条理までは浮かび上がらず、単なるお幼馴染みの悲恋物語になったことである。
元々そういうものだと思って見れば、それはそれで感動的な映画ではあるのだが、藤沢周平ファンとしては、どうしても厳しい眼で観てしまい、不満が残った一作である。
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7 コメント

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なかなか (kossy)
2005-10-06 21:36:52
なかなか厳しいご意見、参考になります。

四季の自然美を目まぐるしく映像化した手法には、こだわりが感じられて、これもまぁこの監督の特徴なのかな~と、あまり知らないので素直に受けとめてしまいました。

確かに、下級武士の貧しい生活は目だっていませんでした。その点は山田作品と大きく違いますね~

色んな角度から比較すると、もっと発見がありそうです。
何やかや (broadway05)
2005-10-06 22:03:41
散々文句たれて☆4つです(笑)。

因みに『鬼の爪』は☆5つでしたが。

あくまで比較上の好みの問題ですから致し方ありません。

細部に拘って観た割には、今田君もふかわ君も全く気になりませんでした(笑)。

着眼点 (メビウス)
2005-10-06 23:11:07
こんばんわ♪TB有難うございました♪



自分の評価は、原作未読、藤沢周平作品は映画のみ、TV版蝉しぐれも一度見ただけ・・・・と言う何ともしょっぱい評価なので、藤沢周平ファンの方の指摘ほど着眼点を突いているものはないですね。



ちなみに原作を本屋にあるかどうか探しているのですが、今の所どこにもないんですよね・・(^▽^;)ウチの本屋が品揃え悪いだけかもしれませんが・・・(汗



今度図書館にあったら読んでみようかとも♪
そうかもしれません (snowflower_001)
2005-10-07 01:40:41
こんばんは、TBさせていただきました。

よくまとめられた映画ですが、私も少し物足りなさを感じました。



>下級武士とその家族の悲しみが平板に流れてしまい、>武士社会の不条理までは浮かび上がらず、

>単なるお幼馴染みの悲恋物語になった



これは同感ですねぇ。



染五郎ダメでしたか?

確かに、あっさりしてましたけど、

「内に秘めた無念さや、朴訥とした一途な思い」は

最後の表情に充分込められていたと私は思います。
時代小説の秀作 (butler)
2005-10-07 11:57:00
>メビウスさん、コメントありがとうございます。

原作は是非お読みください。きっと他の藤沢作品も読みたくなると思いますよ。

早く手に入るといいですね。



>snowflowerさん、こんにちは。

染五郎がキャスティングされた時点では、良いかもと思ったのですが…。TV版での、内野聖陽の刷り込みのせいかもしれません。これも主観的な好みの問題ですのでご容赦ください(笑)。
Unknown (伍郎♂)
2005-10-09 13:20:41
はじめまして。

鋭いご意見だと思います。

文四郎のふくへの想い、父の死後禄が戻るまでの苦しさなどをもう少し出しても良かったと思います。

主役はふくなのかもしれませんね。
下級武士の子弟 (butler)
2005-10-09 17:07:42
>伍郎さん、

父親の仇同様の男が上役にいるわけですから

屈辱感と無念さは尋常ではないはずです。

それを耐えるのが武士なのでしょうが、

表情とか仕草で表現して欲しかったですね。

導入部の蛇は原作でも同じです。

単なるお隣同士から、二人の思いを繋ぐための

縁結びとして蛇が使われたのでしょうね。

私も爬虫類は苦手です。

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