ローマ話題3つ。
90年代のコバルトで『アレキサンドリア物語』という小説があった。by山崎晴哉 挿絵が『聖闘士星矢』アニメで知られる姫野美智だったので、そちらのファンが手にとっていたのではないだろうか。私はこの小説に対して、あちこちで悪口を書いてきたが、自分のところではしていないので、ここらでまとめておく。
くれぐれも誤解してほしくないのであるけど、私は決して、悪意の構えでこれを読んだのではない。どうせ読むならば面白いほうがよい。しかし、面白くなかったのである。男主人公たちは架空の人物で、なにか出生の秘密があり、どこぞの王族らしく、やたらと「神の子」なんて設定が出てきた。しかし未完で、謎は明かされていなかった。女主人公がクレオパトラで、教養も高くひたすら心優しい美貌の女王様、美化しまくり。
「 クレオパトラものチェックポイント」 かつて私が上記の記事で書いたポイントに照らせば、「その1」は大いにバツ。このへんは、作者はエリザベス・テーラーの映画で印象づいたということだから無理もないことではある。たいして罪のあることではない。
その2、オクタの容姿、これは直接の出番がないので問題外。
その3、遺言状。カエサリオンのはずなのにおかしい、カルプルニアの陰謀?としてある、大バツ!
その4.物語はそこまで進んでいない、しかし、1巻のあとがきで、「オクタヴィアヌスさえもふらつかせた女王」と書いている・・・。物語の中でそういう描き方をするほうがまだましというものだ、あたりまえの史実であるかのように書きおって・・・。大バツ!!!
とにかく、ローマサイドの読者の逆鱗に触れまくる話である。
そして、ローマサイド以外の視点でもひどい。この話では、クレオパトラが架空キャラの二人の若者に想いをよせていて、カエサルの口説きをとことん退けている。それでカエサルはパトラの侍女に手をつけて、それで生まれたのがカエサリオン。ーーなんでそれを自分の子にしてしまう!? プトレマイオス王家の血と無縁の子を王子と偽るなど、神々と王家に対する冒涜もいいとこだろうに。これと比べれば、ドラマ『ローマ』で、カエサル以外のタネで産んだ子をカエサリオンにしてしまうほうがはるかに納得がいくというものだ、少なくとも女王の子だからエジプトの王にする理由はある。 『アレキ〜』のこの設定は、クレオパトラファンでも怒っていいのではないかと思う。
作家当人に対して石を投げる気なんかない。しかし、私の読んだ2作品がどうしようもなくつまらなかったのだ、運が悪い。
ちなみに、もう一つは『総司!』。本筋が面白くないことに加えて、総司を「美剣士」と連呼していること、文体の異常さとで頭を抱えた。『アレキ〜』は文体は普通だったが。
(このタイトルで検索すると、同じ題の映画のほうが多く出てくる。)
去年出た本について、アマゾンその他での宣伝文を引用。
『クレオパトラ』 早川書房 ステイシー・シフ著 近藤二郎・監修 仁木めぐみ訳 予価 \2,730<税込>
全米70万部突破、アンジェリーナ・ジョリー主演映画化原作! ニューヨーク・タイムズ・ベスト・ブックス選出をはじめ、有力各紙誌が総絶賛! PEN/ジャクリーン・ボグラド・ウェルド賞(評伝部門)受賞。ピュリッツァー賞作家が描き出す、『ローマ人の物語』に匹敵する傑作!カエサル、アントニウス、オクタウィアヌ、キケロ、ヘロデ――古代ローマの巨星たちの心をときに激しくとらえ、ときに震わせた稀代の女王の実像!史上もっとも有名な女性クレオパトラ7世(紀元前69年〜前30年)。数限りない小説や戯曲、絵画やコミックの題材となってきたこの女王の実像を、われわれはどのくらい知っているだろうか? じつは彼女はギリシア人の血を引いていた? 名高い美貌の実際は? カエサル、アントニウスへの愛は本物だったのか? プルタルコスからシェイクスピア、エリザベス・テイラーにいたる後世の虚飾にまみれ、彼女の真実の姿は、ほとんど顧みられることがなかった。2000年の時をへて、評伝では右に出る者のないピュリッツァー賞作家が、誤解に満ちたオリエントの妖婦像を一新。たぐいまれな戦略家、かつタフな外交官であり、また愛情深い母として、強国ローマの権力者たちと対峙し、陰謀と戦乱渦巻く時代を駆け抜けた、稀代の女性の素顔を浮かび上がらせる。骨太かつ絢爛に展開する、壮大な歴史絵巻の一大傑作!
この本、わりに大きい書店3軒をあたったけどいまだに目にしていない。でも上記の文章だけでも大いに言いたいことはある。
>カエサル、アントニウス、オクタウィアヌ、キケロ、ヘロデ――古代ローマの巨星たちの心をときに激しくとらえ、ときに震わせた
「震わせる」とは必ずしもプラスの意味ではないにしても、こうやって並べ立てると、このメンバーをことごとく虜にしたと錯覚させたいと見える。
>じつは彼女はギリシア人の血を引いていた?
プトレマイオス王朝がマケドニア由来だってことは歴史の常識。
>名高い美貌の実際は?
プルタルコスの報告や肖像くらい少なくない人が知ってる。
>カエサル、アントニウスへの愛は本物だったのか?
所詮、推測の域を出ないでしょうに。正解なんてない。
>彼女の真実の姿は、ほとんど顧みられることがなかった
これまでの多くの作家・研究者を無視するか?
>誤解に満ちたオリエントの妖婦像を一新
多少なりと考える、歴史知識のある人ならば、当時のローマサイドのプロパガンダを今さら鵜呑みにしてやしない。そして、お色気妖婦のイメージで事足りている人ならばこういう本をわざわざ手にとろうとも思わないだろう。
>一新
結局、こういう言葉で宣伝したがることに無理があると思う。カレン・エセックスの小説の後書きでも、「これまでローマ側の宣伝で貶められてきた」云々と、もう聞き飽きた言葉が書かれていたけど、そしてあの小説は力のこもったものだけど、クレオパトラをまじめに追求したらこうなるだろうという印象で、よかれあしかれ、目新しい人物像だとは思えなかった。
だから、「新しい」クレオパトラ像、ではなく、「正調」! 「正統派」! と主張すればいいのではないか? 少なくとも私はそのほうが抵抗ない。 うん、確かにこういうのが正調だろうなと思える。 「新しい」と称することと、「正しい」とはどちらのほうが偉そうなのかは議論の余地があるけど。
「新しい」と持ち上げるから、ウソつけ! またかよ! と思うのだ。 「正調」ならば、似たようなのが出てきても当然だと思える。このへん少し関係者は考えてみてほしい。
集英社の冊子「青春と読書」で連載されていた『ローマ人に学ぶ』by本村凌二 がこのほど、集英社新書で出た。オビにルシウスのカットが引用されている。(1巻のときの絵) 手頃な値段で持ち運びもしやすいのでお得感あり。
90年代のコバルトで『アレキサンドリア物語』という小説があった。by山崎晴哉 挿絵が『聖闘士星矢』アニメで知られる姫野美智だったので、そちらのファンが手にとっていたのではないだろうか。私はこの小説に対して、あちこちで悪口を書いてきたが、自分のところではしていないので、ここらでまとめておく。
くれぐれも誤解してほしくないのであるけど、私は決して、悪意の構えでこれを読んだのではない。どうせ読むならば面白いほうがよい。しかし、面白くなかったのである。男主人公たちは架空の人物で、なにか出生の秘密があり、どこぞの王族らしく、やたらと「神の子」なんて設定が出てきた。しかし未完で、謎は明かされていなかった。女主人公がクレオパトラで、教養も高くひたすら心優しい美貌の女王様、美化しまくり。
「 クレオパトラものチェックポイント」 かつて私が上記の記事で書いたポイントに照らせば、「その1」は大いにバツ。このへんは、作者はエリザベス・テーラーの映画で印象づいたということだから無理もないことではある。たいして罪のあることではない。
その2、オクタの容姿、これは直接の出番がないので問題外。
その3、遺言状。カエサリオンのはずなのにおかしい、カルプルニアの陰謀?としてある、大バツ!
その4.物語はそこまで進んでいない、しかし、1巻のあとがきで、「オクタヴィアヌスさえもふらつかせた女王」と書いている・・・。物語の中でそういう描き方をするほうがまだましというものだ、あたりまえの史実であるかのように書きおって・・・。大バツ!!!
とにかく、ローマサイドの読者の逆鱗に触れまくる話である。
そして、ローマサイド以外の視点でもひどい。この話では、クレオパトラが架空キャラの二人の若者に想いをよせていて、カエサルの口説きをとことん退けている。それでカエサルはパトラの侍女に手をつけて、それで生まれたのがカエサリオン。ーーなんでそれを自分の子にしてしまう!? プトレマイオス王家の血と無縁の子を王子と偽るなど、神々と王家に対する冒涜もいいとこだろうに。これと比べれば、ドラマ『ローマ』で、カエサル以外のタネで産んだ子をカエサリオンにしてしまうほうがはるかに納得がいくというものだ、少なくとも女王の子だからエジプトの王にする理由はある。 『アレキ〜』のこの設定は、クレオパトラファンでも怒っていいのではないかと思う。
作家当人に対して石を投げる気なんかない。しかし、私の読んだ2作品がどうしようもなくつまらなかったのだ、運が悪い。
ちなみに、もう一つは『総司!』。本筋が面白くないことに加えて、総司を「美剣士」と連呼していること、文体の異常さとで頭を抱えた。『アレキ〜』は文体は普通だったが。
(このタイトルで検索すると、同じ題の映画のほうが多く出てくる。)
去年出た本について、アマゾンその他での宣伝文を引用。
『クレオパトラ』 早川書房 ステイシー・シフ著 近藤二郎・監修 仁木めぐみ訳 予価 \2,730<税込>
全米70万部突破、アンジェリーナ・ジョリー主演映画化原作! ニューヨーク・タイムズ・ベスト・ブックス選出をはじめ、有力各紙誌が総絶賛! PEN/ジャクリーン・ボグラド・ウェルド賞(評伝部門)受賞。ピュリッツァー賞作家が描き出す、『ローマ人の物語』に匹敵する傑作!カエサル、アントニウス、オクタウィアヌ、キケロ、ヘロデ――古代ローマの巨星たちの心をときに激しくとらえ、ときに震わせた稀代の女王の実像!史上もっとも有名な女性クレオパトラ7世(紀元前69年〜前30年)。数限りない小説や戯曲、絵画やコミックの題材となってきたこの女王の実像を、われわれはどのくらい知っているだろうか? じつは彼女はギリシア人の血を引いていた? 名高い美貌の実際は? カエサル、アントニウスへの愛は本物だったのか? プルタルコスからシェイクスピア、エリザベス・テイラーにいたる後世の虚飾にまみれ、彼女の真実の姿は、ほとんど顧みられることがなかった。2000年の時をへて、評伝では右に出る者のないピュリッツァー賞作家が、誤解に満ちたオリエントの妖婦像を一新。たぐいまれな戦略家、かつタフな外交官であり、また愛情深い母として、強国ローマの権力者たちと対峙し、陰謀と戦乱渦巻く時代を駆け抜けた、稀代の女性の素顔を浮かび上がらせる。骨太かつ絢爛に展開する、壮大な歴史絵巻の一大傑作!
この本、わりに大きい書店3軒をあたったけどいまだに目にしていない。でも上記の文章だけでも大いに言いたいことはある。
>カエサル、アントニウス、オクタウィアヌ、キケロ、ヘロデ――古代ローマの巨星たちの心をときに激しくとらえ、ときに震わせた
「震わせる」とは必ずしもプラスの意味ではないにしても、こうやって並べ立てると、このメンバーをことごとく虜にしたと錯覚させたいと見える。
>じつは彼女はギリシア人の血を引いていた?
プトレマイオス王朝がマケドニア由来だってことは歴史の常識。
>名高い美貌の実際は?
プルタルコスの報告や肖像くらい少なくない人が知ってる。
>カエサル、アントニウスへの愛は本物だったのか?
所詮、推測の域を出ないでしょうに。正解なんてない。
>彼女の真実の姿は、ほとんど顧みられることがなかった
これまでの多くの作家・研究者を無視するか?
>誤解に満ちたオリエントの妖婦像を一新
多少なりと考える、歴史知識のある人ならば、当時のローマサイドのプロパガンダを今さら鵜呑みにしてやしない。そして、お色気妖婦のイメージで事足りている人ならばこういう本をわざわざ手にとろうとも思わないだろう。
>一新
結局、こういう言葉で宣伝したがることに無理があると思う。カレン・エセックスの小説の後書きでも、「これまでローマ側の宣伝で貶められてきた」云々と、もう聞き飽きた言葉が書かれていたけど、そしてあの小説は力のこもったものだけど、クレオパトラをまじめに追求したらこうなるだろうという印象で、よかれあしかれ、目新しい人物像だとは思えなかった。
だから、「新しい」クレオパトラ像、ではなく、「正調」! 「正統派」! と主張すればいいのではないか? 少なくとも私はそのほうが抵抗ない。 うん、確かにこういうのが正調だろうなと思える。 「新しい」と称することと、「正しい」とはどちらのほうが偉そうなのかは議論の余地があるけど。
「新しい」と持ち上げるから、ウソつけ! またかよ! と思うのだ。 「正調」ならば、似たようなのが出てきても当然だと思える。このへん少し関係者は考えてみてほしい。
集英社の冊子「青春と読書」で連載されていた『ローマ人に学ぶ』by本村凌二 がこのほど、集英社新書で出た。オビにルシウスのカットが引用されている。(1巻のときの絵) 手頃な値段で持ち運びもしやすいのでお得感あり。










>わりに大きい書店3軒をあたったけどいまだに目にしていない
ちょっとザマミロと思ってしまいました。
宣伝文も中身も、既存評伝の焼き直し。
どこを切っても金太郎ならぬ、どこもかしこもクレオパトラみたいなもんです。
そんなに映画化って出版のきっかけになる旨味があるんでしょうか。
>『ローマ人に学ぶ』by本村凌二
今回の話題の唯一の癒しですね(笑)。
本村さんは、どこかの本で、オクタを語る際に腹心の友アグリッパとマエケナス、愛妻リウィア、そして「眉目秀麗」という大事な要素をばっちり押さえて書いてくれたので、私の中で好感度が高い専門家に分類されてます。