Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

7/23(日)Konzertina Ginza/田原綾子ヴィオラ・リサイタル/ふくよかでしなやかな“アルト”で聴かせるオール・シューマン

2017年07月23日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
銀座18クラシック 第36章
田原綾子 ヴィオラ・リサイタル


2017年7月23日(日)16:00〜 コンチェルティーナGINZA 自由席 1列中央 2,000円
ヴィオラ:田原綾子
ピアノ:原嶋 唯
【曲目】〜オール・シューマン・プログラム〜
シューマン:アダージョとアレグロ 作品70(ヴィオラ版)
シューマン:おとぎの絵本 作品113
シューマン:幻想小曲集 作品73(ヴィオラ版)
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 イ短調 作品105(ヴィオラ版)
《アンコール》
 シューマン:3つのロマンス 作品94より 第2曲 イ長調(ヴィオラ版)

 ヴィオラの田原綾子さんが銀座でリサイタルを行うと聞いたのは、今年5月のCHANEL Pygmalion Daysでのリサイタルの頃だった。取り敢えずスケジュールは後日にでも調整するとして、その日は田原さんのリサイタルを最優先にすることに決め、すぐにチケットを手配しておいたのである。


 田原さんについてはもう説明の必要はないと思う。桐朋学園大学を卒業して昨年秋からパリのエコール・ノルマル音楽院に留学している。同世代の若手のヴィオリストとしては群を抜く実力と信頼性で、リサイタルに、室内楽に、あるいは協奏曲にも引く手数多。フランスと日本を行ったり来たりしながら、研鑽と演奏活動を続けている。
 一方、今回の共演ピアニストは原嶋 唯さん。田原さんとは桐朋学園で高校の時からの同級生で、現在は大学院に在学中である。

 東京は銀座4丁目、王子ホールの入口の真向かいに、「コンチェルティーナGINZA」というサロンがあることは少し以前から知っていた。今回の田原さんのリサイタルはそのサロンが主催する企画コンサートの一環ということである。そのシリーズ名は「銀座18クラシック」。「18」はイタリア語で「diciotto(ディチョット)」、つまり「銀座でちょっとクラシック」という語呂合わせが洒落ている。約1時間のコンサートを、13:30からと16:00からの1日2回公演で行う。今回は、その第36回ということである。
 会場となるサロンは満席でもわずか20席という小さな部屋に、スタインウェイの短いグランドピアノが蓋を半開にして置いてある。席は3列くらいしか取れないので、どの席からも演奏者までは3〜4メートルしか距離がなく、あたかも練習室で聴くような、濃密な音楽空間を共有することになる。まさにサロン音楽の極みといった感じである。

 さてこうした状況でのヴィオラ・リサイタルである。いつも言っていることだが、ヴァイオリンと違ってヴィオラには独奏用の曲が極端に少なく、しかもその少ない楽曲もヴィオラの名手だった人が作曲しているものが多い。従って、一般的な人気の高い作曲家の作品はほとんどないに近い。そこで、というわけでもないのだろうが、本日の田原さん自らの希望で、オール・シューマン・プログラムという、ちょっと思いつかないようなプログラムを敢えて選び、感情を自由に表現して抒情的で美しく、いかにもドイツ・ロマン派を代表するシューマン(と、私は常々思っている)をヴィオラで演奏するという試みとなった。
 本日演奏される中で、ヴィオラとピアノのために書かれた曲は、「おとぎの絵本 作品113」のみである。その他の曲は、ホルンやクラリネット、あるいはその編曲版としてヴァイオリンやチェロのための楽譜であったり、ヴァイオリンのための曲を原調のままヴィオラで演奏してみるなど、ユニークな試みとなった。ロマンティックなシューマンの名曲をヴィオラで聴くというのも珍しい体験だ。わずか1時間のコンサートとはいえ、内容がギッシリ詰まった充実のプログラムなのである。

 やがて開演時刻の16時になり、田原さんと原嶋さんが入場してくる・・・・ではなくて、開場時刻からピアノの前で待機している。つまり控え室もないようで、サロンの支配人さんもスタッフさんも、お客さんも、ひとつの部屋でコンサートが始まるのを待つのである。もちろん席は自由席なので私は4番目くらいに並び、うまい具合に1列目の真ん中の席を確保。ヴィオラを弾く田原さんからは文字通り手が届きそうな本当に目の前で、譜面が読めそうな距離になった。弓がぶつからないかとヒヤヒヤものである。ちょうど、弦楽器演奏を録音する際に立てるマイクロフォンの位置に、自分自身の耳がある。そして田原さんと譜面台の間からピアノを弾く原嶋さんの指先と鍵盤が見える。何とものすごい臨場感であろう!

 1曲目は「アダージョとアレグロ 作品70」。原曲はホルンとピアノのための室内楽曲で1849年の作である。シューマン自身の手によるヴァイオリン用とチェロ用の楽譜も残されていて、実際の演奏としてはチェロのリサイタルで聴く機会が多いのではないだろうか。私もチェロでは何度となく聴いているが、ヴィオラでは過去に一度しかない(深澤麻里さん/2010年9月/紀尾井ホール)
 演奏の方は、チェロ版とヴァイオリン版の両者からヴィオラの音域に合わせて調整しているようだが、全体の雰囲気はチェロ版に近いイメージのように思えた(ホルン版は聴いたことがないので・・・・)。音にチェロほどの深みがない分だけ逆に軽やかで、穏やかなイメージとなる前半のアダージョ。抒情性豊かに歌うのは歌曲にも傑作を多く残したシューマンならではで、「アルト」らしい体温が感じられる。田原さんのヴィオラは音質が柔らかく伸びやかだ。後半のアレグロに入ると、器楽的な曲想に変わるが、描き出されるロマンティシズムは、田原さんの明るい音色が全体を優しく包み込むようで素敵な演奏だ。流れるような躍動感が溢れ、瑞々しい情感もいっぱい。若手ならではのフレッシュな演奏だった。

 2曲目の「おとぎの絵本 作品113」は、本日演奏される中で唯一のヴィオラとピアノのための作品である。シューマンが書いた唯一のヴィオラのための曲でもある。この曲は、1年前の田原さんと原嶋さんのデュオ・リサイタルでも聴かせていただいた。4つの楽章から成るが、自由な構成を採っているため、ソナタとは違った趣がある。特定のストーリーを標題音楽的に描いたものではないようで、むしろロマン派に相応しく、自由な感情の表出をそのまま描いたロマンティックに作品ということができる。
 第1楽章「速くなく」は、哀愁を帯びた民俗調の旋律が、しみじみとヴィオラによって歌われ、ピアノと対話するように進んでいく。息の長い歌わせ方のヴィオラと煌めくような器楽的なピアノとの対話が、バランスよく、またタイミングよく流れていく。二人の息もピッタリ合っている。
 第2楽章「生き生きと」はスケルツォに相当する。細かく刻まれる主題がヴィオラとピアノが同じ音型・リズムで提示される。ふたつあるトリオ部もリズミカルで器楽的には違いないが「舞曲」らしいリズム感が派ズルような躍動感を見せる。
 第3楽章「速く」もスケルツォ風だが、こちらは短調で、内向的で焦燥感が前面に出てくる。ヴィオラの無窮動的な動きは技巧的だ。
 第4楽章「ゆっくりと、憂鬱な表情を伴って」は緩徐楽章に相当するような、ロマンティックな曲想。ヴィオラが行き真長い主題を切々と歌っていく。さすがにヴィオラ用に書かれた曲だけあって、調性や音域も適正で、主題が無理なくヴィオラがよく歌える音域に収まっている。終始弱音のまま、ちょっと切なげで、それでも憧れを込めた主題はとても美しく、シューマンのロマンティシズムの真骨頂。田原さんのヴィオラも角のない優しい音色で、穏やかに歌っている。

 3曲目の「幻想小曲集 作品73」は、元はクラリネットとピアノのために書かれた室内楽曲。3曲からなる小品集である。こちらも1849年の作であり、ヴァイオリン版やチェロ版がある。
 第1曲「静かに、感情を込めて」は、心の内面の様々な葛藤を心情的に表現したような曲。シューマンならではの抑制の効いた煌びやかさのピアノが分散和音などを美しく弾き、そこに伸びやかなヴィオラが乗る。
 第2曲「活発に、軽やかに」は、確かに軽快ではあるが、やや影のある、抑制の効いた軽やかさで、ピアノに乗せてヴィオラも活発な旋律を描き出す。しかし全体的には抑制的で、内省的である。
 第3曲「急速に、燃えるように」は3曲の中で最も活発で、躍動的で、外に向けての発揮時が感じられる前向きの音楽である。
 3曲とも比較的抑揚の幅のない音楽であるため、演奏も抑え気味であった。その振れ幅の少ない演奏の中で、田原さんも原嶋さんも歌って踊るようなニュアンスを見事に描き出していて、細やかな表現力にも一段と磨きがかかってきたように感じられた。

 最後は本日のメイン曲となる「ヴァイオリン・ソナタ 第1番 イ短調 作品105」は、このカテゴリの楽曲の中でも人気の高い曲で1851年の作。3楽章構成だが明確な急-緩-急ではない。テンポとしては急-急-急になっているが、第2楽章がAllegrettoでも穏やかな主題の抒情的な内容で、緩徐楽章に相当する。元々、ヴァイオリンとしての高音域が少なく、むしろ低音域を多用している楽曲であるため、ヴィオラで原調のまま弾くことは可能で、ヴィオラ版を聴くのはもちろん初めてであったが、思っていたほどの違和感はなかった。
 第1楽章はAllegro appassionataでソナタ形式。ほの暗いイメージが流れるような第1主題、第2主題も対比的ではなく似たような曲相に思える。心の奥深くで情熱的な感情がメラメラと燃えているような、内向的なappassionataだ。ヴァイオリンで城間のと比べて、ヴィオラでは音が丸く感じられるため、燃えるような情感が少しオブラートでくるまれるような、柔らかなイメージになる。人肌の体温が感じられるようで、差し込むような感動は薄れるがその分だけ心地よさと共感が得られる感じがする。
 第2楽章はAllegrettoだが落ち着いた曲想。聴いていても身を委ねたくなるような優しさがある。ヴィオラの音色は子守歌のような、聴く者を包み込むような温もりが感じられる。
 第3楽章はAllegro con brioのロンド。主題はヴィオラとピアノがフーガ風に追いかけて提示され、バロック風の和声進行も効果的に現れる。中間部は曲想を変えて現れるが、ロマンティックな雰囲気もすぐにロンド主題に塗り替えられていく。終盤、第1楽章の第1主題が回帰して来て、曲全体の統一感を創り出している。コーダに入るとヴィオラ(ヴァイオリン)パートの音域が高い方に集まるため、そこだけはヴィオラだとちょっと苦しそうになる。楽章全体を細かく刻むような速いパッセージが続くため、ヴァイオリンよりも大きなヴィオラで弾くには大変そうな感じもするが、田原さんの演奏は常に躍動的なリズム感に支配されていて、エネルギーを振りまくような力感もあり、同時に大らかに楽器を鳴らす豊かさもある。
 いずれにしても、シューマンの「ヴァイオリン・ソナタ第1番」のヴィオラ版は意外に合っているようで、曲もそれほど長くないので、ヴィオラのレパートリーとして定着させても良いかなとも思った。素敵な演奏であった。

 今日は徹底してアンコールもシューマン。ヴァイオリンとピアノのための曲として人気の高い「3つのロマンス 作品94」より 「第2曲 イ長調」が演奏された。これはヴァイオリンではお馴染みの曲。ヴィオラで弾くとまろやかな「アルト」の音色のせいで、少女の「ロマンス」が大人の「ロマンス」になったような気がする。


 終演後は、会場内の椅子を片付けて広間を作り、飲み物が振る舞われて懇親会となる。わずか20名の来客では、ほとんどが何らかの関係者であろう。サロン・コンサートではお馴染みの懇親会風景である。
 田原さんはこの後またすぐパリに戻ってしまうとのこと。頻繁に帰って来ての演奏活動は大変だと思うが、一方で留学に行きっぱなしになってしまうと、国内ではすぐに忘れられてしまいがちになる(というか、毎日たくさんコンサートがあるので、音楽ファンの聴きたいリストから抜け落ちてしまうのだ)。痛し痒しといったところだろう。
 田原さんの今後の予定を簡単に紹介しておく。

●2017年8月16日(水)13:30〜、東京オペラシティコンサートホール。仲道郁代さんのランチタイム・コンサートにゲスト出演。
●2017年9月6日(水)19:00〜、サントリーホール・ブルーローズ。「サマーフェスティバル」の「再発見“戦後日本のアジア主義”〜はやたつ芥川、まろかる松村〜」に出演。
●2017年9月17日(日)14:00〜、サントリーホール・ブルーローズ。「サントリーホール・チェンバーミュージック・ガーデン2017」に出演。
●2017年9月23日(土)19:00〜、ムジカーザ。田原綾子&原嶋 唯 デュオ・リサイタル。
●2017年10月21日(土)14:00〜、東京芸術劇場コンサートホール。「エディクソン・ルイスと仲間たち 室内楽コンサート」に出演。
●2017年11月2日(木)19:00〜、京都・青山音楽記念館バロックザール。田原綾子ヴィオ・ラリサイタル。
●2017年12月17日(日)19:00〜、東京文化会館・小ホール。田原綾子ヴィオラ・リサイタル。

 留学で研鑽を続けながら、国内でこれだけのコンサートに出演するのは大変なことだと思う。また、リサイタルだけでなく、様々なコンサートの企画に呼ばれるということは、それだけ彼女の実力への評価が高いことの現れでもある。ますます期待が高まっているといえよう。私も11/2の京都以外は聴きに行く予定にしている。

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