Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

12/11(金)Orchestra AfiA/村中大祐が描き出すシルクロードへの旅はマーラーの「大地の歌」

2015年12月11日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
村中大祐指揮Orchestra AfiA「自然と音楽」演奏会シリーズVol.8
「シルクロードへの旅」


2015年12月11日(金)19:00~ 紀尾井ホール A席 1階 1列 10番 12,000円
指 揮:村中大祐
テノール:トーマス・カタヤーラ*
メゾ・ソプラノ:ラウラ・ニッカネン*
管弦楽:Orchestra AfiA
コンサートマスター:渡辺美穂
【曲目】
武満徹:「How slow the wind」
ラヴェル:組曲「マ・メール・ロワ」
マーラー:「大地の歌」(コルテーゼ編曲版日本初演)*

 失礼ながら、未だあまり一般に知られていない「Orchestra AfiA」というオーケストラがあって、以前から気になっていたのだが、なかなか聴く機会が持てないでいた。今日は念願叶っての初参戦。メインの曲目はマーラーということで、あまり得意な分野ではなかったのだが、オーケストラの方を聴いてみたいという気持ちの方が強かったので、ちょっとチケットが高かったが思い切って聴くことにしたのである。
 Orchestra AfiA(オーケストラ・アフィア)は、指揮者の村中大祐さんがご自身の音楽を表現するために作ったオーケストラで、2013年以来、年に3回のペースで「自然と音楽」シリーズというコンサートを開催している。母体となったのは2006年から活動していた「横浜オペラ未来プロジェクト」の横浜OMPオーケストラで、世界に通用するオペラを上演することを目指していたものである。その後再編成され、アフィア“AfiA”(Accademia filarmonica international Association)所属のオーケストラとして2013年に再始動した。室内オーケストラの規模で編成され、メンバーは、ソリストやフリーの演奏家とN響や東京フィルなどのプロ・オーケストラのトップ奏者などで構成されている。そうした編成場の性格から、演奏会の度にメンバーは多少流動的になるとはいえ、ちょっとしたスーバー・オーケストラなのである。今日のコンサートマスターは渡辺美穂さんである。
 会場の紀尾井ホールは定員800席。小振りのステージは室内オーケストラのコンサートには丁度良い大きさだ。今日のOrchestra AfiAの編成は、第1ヴァイオリン8、第2ヴァイオリン6、ヴィオラ5、チェロ4、コントラバス2という弦楽5部に、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン、トランペット、トロンボーンが各2の2管編成、曲目に応じて打楽器4、ハープ1、ピアノ1となっていた。
 指揮者の村中さんの演奏を聴くのは初めてだと思う。東京外国語大学ドイツ語学科を卒業後、ウィーン国立音楽大学で指揮を学んだという変わり種だが、ヨーロッパで数々の指揮者コンクールに入賞し、フルトヴェングラーの高弟ペーター・マークの薫陶を受けたという。ヨーロッパと日本で、オペラとコンサートの両輪で豊富な実績を持ち、活躍している人だ。
 今回、村中さんの指揮するOrchestra AfiAを初めて聴くことになったので、ちょっと予習をしてみた。といっても楽曲の方ではなく、彼らの演奏をCDで聴いて、どんな感じなのかをつかんでおきたかったのである。曲目はメンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」と弦楽八重奏曲の弦楽合奏版のライブ盤なので、今日のプログラムとはかなり傾向が違うが、引き締まったアンサンブルと躍動感が瑞々しい印象であった。さて、実際のライブではどうなるのだろう・・・・。
 いつものように、最前列の中心よりちょっとコンサートマスター寄りの席を取っていたのだが、来場者があまり多くなく、最前列にひとりポツンと座ることに。うぅ、ちょっと恥ずかしい・・・。

 Orchestra AfiAの今日のコンサートのテーマは、「Finding Silk Road ~シルクロードへの旅~」。具体的なことではなく、東洋的なイメージとして捉えたテーマのようである。
 1曲目は、武満 徹の「How slow the wind」。音楽が日本から始まるのは、日本がシルクロードの終着点だから。なるほど、武満がこの曲で描いている自然・・・・風や海の心象風景・・・・は、日本的な映像を見ているようでもある。
 曲が始まると、自然界から音を拾い集めたような不協和音が響いてくる。オーケスラトの音は透明感が高く、特定の色が付いていないという印象だが、この澄んだ音が、透明な空気感をよく表している。オーボエ、フルート、ホルンなどの質感が高く、乾いた感じがしないところも良い。弦楽のアンサンブルも音が澄んでいるため、不協和音も美しく響かせている。村中さんの音楽作りは比較的ストレートでクセのない印象だが、武満の自然な世界をうまく表現していたと思う。

 2曲目はラヴェルの「マ・メール・ロワ」組曲。子供好きだが生涯独身だったラヴェルが友人の子供たちのために作曲したという、マザーグースのおとぎ話の世界。私たち日本人にとってはいささかピンと来ない世界観であるが、ラヴェルの作った音楽の持つ、怖さと優しさを併せ持つ不思議な雰囲気に触れると、全身から緊張感が抜けていくような感覚に陥る。
 第1曲「眠れる森の美女のパヴァーヌ」は何と言ってもフルート。弦楽のゆったりとしたピツィカートに乗って淡々と描かれて行くが、それがかえって夢幻的な浮遊感を視覚的に表現しているような感覚を創り出している。第2曲「親指小僧」は弦楽のアンサンブルが緻密で美しい。その上に乗る木管群が楽器の本来の音を聴かせながら、幻想的な雰囲気を醸し出している。第3曲「パゴダの女王レドロネット」は打楽器群も活躍して、おどけた雰囲気を創る。第4曲「美女と野獣の対話」では浮遊感を伴う弦楽の美しくて厚いアンサンブルが印象的。中間部でも、弦楽が立ち上がりの鋭いところを見せ、終盤のヴァイオリンのソロも濃厚な音色にもかかわらず爽やかな印象で素敵だ。第5曲「妖精の園」は弦楽が分厚いアンサンブルで美しい主題をゆったりと押し出して来る。そこにからむホルンなども抑制的でなかなか良い。終盤のクライマックスは打楽器も加わる全合奏で、意外にパンチのあるところも見せた。
 ここまでの2曲は、あまりにも標題的な性格の曲であるために、むしろオーケストラ自体の持つ性格はつかみにくいものがあったが、それでも初めて聴いて分かったことは、弦楽も管楽器も技術的なポテンシャルは高いが、クセのない素直な音色であるために、非常にフレッシュな印象を持った。若いメンバーで固められていただけに、瑞々しさと生命力を感じさせるオーケストラだと思った。

 休憩を挟んで後半は、いよいよマーラーの「大地の歌」である。この曲には「テノールとアルト(またはバリトン)とオーケストラのための交響曲」という副題が付けられているために、交響曲として捉えればマーラーの第9番ということになる。しかしその他の10曲の交響曲とはかなり性格が異なっていることは確かだ。マーラーは交響曲に声楽を積極的に採り入れた作曲家だが、「大地の歌」は他の曲とは違って、明らかにオーケストラ伴奏の声楽曲集に近い性格になっている。6つの楽章(あるいは6つの歌曲)は完全に「歌」を中心に構成されていて、管弦楽は大袈裟なシンフォニックなものではなく伴奏的なのである。それでもやはりマーラーなので、オーケストラは3~4管編成に多彩な打楽器を加えた大編成。その大編成オーケストラで演奏すると二人の声楽ソリストの負担が大きくなることを考慮して、小編成の室内オーケストラ用に編曲されたものが、本日のAfiAが演奏する「コルテーゼ編曲版」である。これはアメリカ人のグレン・コルテーゼという人が2006年に編曲したものをウィーンのユニヴァーサル出版社が認めて出版されたもので、本日が日本初演となる。確かに、マーラーの交響曲を室内オーケストラで演奏するというのはあまり聴いたことがない。なるほど、声楽中心の「大地の歌」ならば、室内オーケストラ規模はちようど良い。理に適った編曲への試みということなのだろう。
 ソリストに迎えられたのは、テノールのトーマス・カタヤーラさんとメゾ・ソプラノのラウラ・ニッカネンさん。二人ともフィンランドの出身だが主にドイツで活躍している。東京外語大卒でドイツ語に堪能な村中さんは、言葉の発音や抑揚をとても大切にしていて、声楽やオペラでの表現における言葉の重要性を説いているが、そんな村中さんが選んで自信たっぷりに紹介してくれたこの二人、確かに素晴らしい歌唱を聴かせてくれた。
 第1楽章「大地の嘆きを歌う酒歌」。ホルンの1声で始まればやはりそこはマーラーの世界。オーケストラも前半よりはぐっと音量を増し、ダイナミックレンジも広がる。カタヤーラさんの輝かしいテノールが響き渡り、歌唱の合間を縫ってオーケストラがキレ味鋭く立ち上がってくる。確かに、オーケストラの音量と歌唱のバランスは良いようだ。カタヤーラさんのドラマティックなテノールは、声も華やかで明るく、瞬発力があり、生命力がある。
 第2楽章「秋に寂しさを纏う男」は、交響曲ならば緩徐楽章に相当するのだろうか。波間に揺らめくようなオーケストラに乗って、ニッカネンさんが歌う。メゾ・ソプラノ(曲ではアルト)の声域は日常の会話のようで、温もりが感じられるが、彼女の歌唱はやや太く、力感がある。大らかで、悠然としてして、それでいてドラマティックだ。ヴァイオリンのソロなども絡み付き、オーボエやホルンの質感も高い。
 第3楽章「若さについて」は明るく弾むようにテノールが歌唱する。東洋的な旋法で書かれている。
 第4楽章「美しさとは?」はアルトの歌唱。主部は乙女の歌なので、軽やかに華やかに歌い、オーケストラも弾むように歌う。中間部は男性たちが馬で駆けていくと歌い、雄壮で躍動的な曲想が対比を鮮やかにしている。歌唱も表情豊かで素晴らしいが、オーケストラ側の表現力も豊かで、小編成な分だけ動きが俊敏で、歌唱の伸びやかな自由さにうまく対応している。
 第5楽章「春に酔いし者」は酒飲みの屈託のない心情をテノールが高らかに歌い上げる。カタヤーラさんの輝かしい声質は、この曲想によく合っている。
 第6楽章「別れ」はアルトの独唱だが、夕闇の寂しい情景と、旅立つ友との別れを惜しむ心情が歌われる。この楽章だけで30分に及び、その物語性と、歌唱とオーケストラの関係性は、モノオペラのような性格を持っているといえるが、同時にソナタ形式のような形式でもあり、交響曲のような形式構造も併せ持つ。ニッカネンさんのしっとりとして揺るぎない落ち着きのある歌唱は、非常に説得力がある。長い楽章を情感たっぷりに歌いきった歌唱力は見事としか言いようがない。一方で、オーケストラ側も、オーボエを中心とした木管群、ホルンを中心とした金管群、ヴァイオリンやチェロのソロを含む弦楽、ハープや打楽器など、いずれも高い集中と緊密なアンサンブルで、極めて質感の高い演奏に終始した。
 全体を通してみると、二人の歌唱とオーケストラのバランスが良く、確かに今日の「コルテーゼ編曲版」は価値ある試みだといえそうだ。とても聴きやすく、楽曲の性格を「歌曲集」として位置付けている。歌唱の側から見れば、歌いやすい版であり、今日のOrchestra AfiAの演奏であったことだろう。逆に、1時間に及ぶ大曲である「大地の歌」の演奏に対して、どうしたも歌唱の方に耳を奪われてしまうために、素晴らしい演奏をしているオーケストラがあまり目立たなかったのが、いかにも惜しく感じたものである。まあ、オーケストラをじっくり聴くのは次回のお楽しみにしておこう。

 最後にOrchestra AfiAのコンサートマスター(ミストレス)の渡辺美穂さんについても触れておきたい。渡辺さんは東京藝大大学院から東京フィルハーモニー交響楽団に入団して、2012年7月まで第2ヴァイオリンのフォアシュピーラーを務めた。同年9月からは大阪フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターに就任し、2014年末まで務めた。
 実は私は彼女のことはかなり以前から気になる存在として認識していたのである。東京フィル時代には定期演奏会や、オペラのピットでよく見かけたのだが、フォアシュピーラーという仕事柄、小さな身体を大きくダイナミックに動かして、いかにもリズム感良く、第2ヴァイオリンを牽引していく様子がよく「見える」のである。その役柄上、ヴァイオリンの音をソロで聴いたことはなかったのだが、見ているだけで、いかにも上手いと分かる、そんな演奏家だったのである。大阪フィルに行ってしまって、出世したのは良いことだとは思いつつ、東京フィルから姿を消してしまったのはいかにも残念に思っていた。
 その渡辺さんがOrchestra AfiAではコンサートマスターを務めていて、今日の演奏ではソロも多かったので、念願叶って初めて直接、目の前で音色を聴くことができた。想像していたとおり、ちょっと濃厚で豊かな響きを持ち、女性的な柔らかさと艶やかさがあり、そして1本筋が通ったようなしっかりした佇まいも見せる。コンサートミストレスの面目躍如である。
 そんなコンサートミストレスの渡辺さんに一番弾いて欲しいと思っていてリクエストしたいくらいに思っていたのが、リムスキー=コルサコフの交響組曲「シェエラザード」。そうしたらNHK Eテレの「らららクラシック」で「シェエラザード」を採り上げたときに東京フィルのゲスト・コンミスで渡辺さんが登場したのにはビックリ。実に色っぽいソロを聴かせていたのである。
 Orchestra AfiAでは、来年2016年のシーズンでは、5月と10月の公演に渡辺さんはコンミスで登場する予定になっている。Orchestra AfiAを聴く楽しみがもうひとつ増えたのである。

 Orchestra AfiAは、フレッシュなサウンドのオーケストラが素晴らしく、村中さんの指揮も音楽が豊かに歌っていてとても素敵。コンサートマスターも素晴らしい。全員が音楽が大好きで、演奏するのが楽しくて嬉しくて・・・・といった感性がいっぱいなのである。私はすっかりファンになってしまったが、まだ聴いたことがない人には、是非ともお勧めしたいオーケストラである。
 次回の公演(Orchestra AfiA 第9階演奏会)は、2016年2月18日に同じ紀尾井ホールで、「想春歌」と題して、メンデルスゾーンの序曲「フィンガルの洞窟」、バーバーのヴァイオリン協奏曲(独奏はロシアの期待の天才といわれるアレーナ・バエーヴァさん)、シューベルトの交響曲第9番「ザ・グレート」というプログラム。もちろん村中さんの指揮。コンサートマスターはゲストで依田真宣さん(東京フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスター)が出演する。こちらも非常に楽しみで、すでにチケット確保済みである。

 終演後、ロビーにて村中さんと少しお話しすることができた。写真などで見た印象ではもっとクセの強い人物かと想像していたのだが、実際にお会いしてみると、ソフトな語り口の穏やかな人で、音楽に対する情熱がジワリと伝わって来る、そんな印象であった。指揮者の方とお話しする機会はあまりないので、私としても嬉しい時間であった。



 ← 読み終わりましたら、クリックお願いします。

【お勧めCDのご紹介】
 本文中でも紹介させていただいた、村中大祐指揮 Orchestra AfiA の第1弾CD、「メンデルスゾーン:交響曲第3番《スコットランド》」です。表題曲とカップリングで同じメンデルスゾーンの「弦楽八重奏曲 変ホ長調 作品20」が収録されています。いずれもOrchestra AfiAのコンサートのライブ録音で、《スコットランド》は2014年10月2日/神奈川県立音楽堂で、「弦楽八重奏曲」は2013年10月18日/浜離宮朝日ホールでの録音。弾むようなダイナミックスと緊密なアンサンブルで、瑞々しい感性に溢れた演奏を聴かせてくれます。

交響曲第3番『スコットランド』、弦楽八重奏曲(弦楽オーケストラ版) 村中大祐&オーケストラ・アフィア
Mendelssohn,Daisuke Muranaka,Orchestra AfiA
AfiA




★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★

【PR】クリスマスのコンサートのご案内です。
↓コチラのバナーをクリックしてください。↓



『音楽』 ジャンルのランキング
Comment   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 12/6(日)オペラ「金閣寺」黛... | TOP | 12/13(日)音楽ネットワーク「... »
最近の画像もっと見る

post a comment

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Recent Entries | クラシックコンサート

Similar Entries

Trackback

Trackback  Ping-URL