Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

3/30(月)東京ジュニアオケにBravo!/青木尚佳のブルッフVn協奏曲はロン=ティボー2位の凱旋演奏会?

2015年03月30日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
東京ジュニアオーケストラソサエティ ~春の演奏会~
東日本大震災チャリティーコンサート


2015年3月30日(月)19:00~ 国立オリンピック記念青少年総合センター・大ホール 自由席 1列 14番 2,000円
指 揮: 桑田 歩
ヴァイオリン: 青木尚佳*
管弦楽: 東京ジュニアオーケストラソサエティ
【曲目】
ベートーヴェン: レオノーレ序曲 第3番 作品72a
ブルッフ: ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 作品26*
《アンコール》
 J.S.バッハ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ハ長調 BWV 1005より“Largo”*
シューマン: 交響曲 第2番 ハ長調 作品61
《アンコール》
 ブラームス: ハンガリー舞曲 第1番 ト短調

 東京ジュニアオーケストラソサエティの存在はかなり以前から知ってはいたが、知人(あるいはその子)が参加しているわけでもないので、さすがに聴く機会はなかった。今回は、このブログでもたびたび紹介しているヴァイオリニストの青木尚佳さんがソリストとしてゲスト参加してブルッフのヴァイオリン協奏曲を演奏するというので、早々にチケットは入手しておいたものである。
 ご存じのように、尚佳さんは昨年2014年11月、パリで開催されたロン=ティボー=クレスパン国際コンクールで第2位に輝き、その快挙は日本中の新聞やテレビで報道された。ところが、コンクールを主催しているロン=ティボー=クレスパン財団の財政難や、大手スポンサーが降りたことなどにより(というウワサ)、例年は開催されていたガラ・コンサートも行われなかった。尚佳さんは現在もロンドンの王立音楽大学に留学中であり、コンクールの後もロンドンに戻ってしまったので、結局、日本でもその後正式な演奏会は開かれていない。そういう事情なので、今日の東京ジュニアオケとの共演が、事実上の凱旋コンサートになるのである。
 実際のところは、尚佳さんは子供のころから東京ジュニアオケに参加していてコンサートマスターを務めるなどの活躍をしていた。現在はロンドンを中心に演奏活動も始めているので、今回の東京ジュニアオケの演奏会に卒団生としてゲスト出演することになったということらしい。ロン=ティボー=クレスパン国際コンクールに2位入賞したのはその後のことなのである。
 尚佳さんの演奏する協奏曲は、実のところNHK交響楽団と2010年に共演したパガニーニのヴァイオリン協奏曲第1番しか聴いたことがない。その時はまだ高校生だった。その後ロンドンに留学してからは、大学内のコンチェルト・コンペティションに優勝してチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を演奏したり、メンデルスゾーンの協奏曲も演奏する機会があった。昨年のロン=ティボーの前月にあった中国国際ヴァイオリン・コンクール(こちらも2位入賞)でもチャイコフスキーと中国人作曲家によるヴァイオリン協奏曲を演奏しているし、ロン=ティボーのファイナルではシベリウスで2位を勝ち取った。私は個人的な親交があるのでチャイコフスキーもメンデルスゾーンもシベリウスも録音は聴かせていただいているが、やはり何と言ってもナマ演奏に勝るものはない。久しぶり(実に5年ぶり)に聴く協奏曲に、こちらとしても興奮を隠しきれないといったところだ。

 ・・・・・と、あまり尚佳さんのことばかり書いていると、東京ジュニアオケの皆さんに申し訳ないので、こちらの演奏の様子もきちんとレビューしておきたい。
 東京ジュニアオーケストラソサエティは、N響コンサートマスターの篠崎史紀さんの呼びかけにより1996年にスタート。小学生から大学生まで、幅広い年齢層の団員がひとつになってオーケストラを形作る姿は、見ているだけでも微笑ましく、また感動的でもある。子供たちの指導に当たっている講師陣は、N響をはじめとするオーケストラの主席クラスの演奏家の皆さんで、一流どころの27名が名を連ねている。今日の演奏会の指揮者は桑田 歩さん。N響の次席チェロ奏者である。
 配布されたプログラムに掲載されているメンバー表には、各パート合わせて91名の名前が記載されている。曲目によって交代で出ているのだろう。小学校3年生から高校3年生までにわたっているが中心となっているのは中学2年生から高校2年生くらいまでの子たち。完全なオーケストラという団体を創り上げるには、年齢層からいっても多少は無理があるようで、たとえばヴィオラはこの年代から専攻する人が少ないためか、11名のうち3名以外は応援部隊の団友(卒団生)や講師の方たち。他にも、チェロやコントラバス、ファゴット、トロンボーンなどはこの年代の奏者はまだ育たないようである。逆にヴァイオリンは34名全員が現役の団員で構成されていて、第1と第2のパート分けも曲によって変わっていた。ちなみにコンサートマスターも1曲ごとに交代していた。
 この東京ジュニアオケに参加している子たちは、ある意味ではエリートなのだろう。個別にも良い先生に付いてレッスンを受けているはずだが、オーケストラという場を得て、日本のトップ奏者の指導も受けることができる。非常に恵まれた環境だといえる。実際に聴いてみれば、驚くほど上手い。その辺のアマチュア・オーケストラを凌ぐレベルであることは確かで、この中からプロの演奏家に育って行く子がいっぱい含まれているはずだ。開演前のご挨拶で、音楽監督の篠崎さんが語っておられたように、子供たちの演奏する音楽には力強いエネルギーが感じられる。「元気をもらう」というと、あまりにもよく使われるフレーズすぎてあまり現実味が感じられないが、実際には人が育つ際の生命力が音という振動となって伝わって来る思いがする。

 まず1曲目は、ベートーヴェンの「レオノーレ序曲 第3番」。実はチューニングの時がザワついていて大丈夫かなと思ったのだが、演奏が始まってみればけっこう上手い。というか、まったく普通にオーケスラトの演奏を聴いている感覚で、けっこうイケルのである。序奏から主部に入ると、リズムに乗りだし、最初は緊張しているのが少々バタついていたアンサンブルがグングン引き締まってくる。ヴァイオリンのパートには小学生から高校生までいるので、アンサンブル(とくにリズム系)が完璧とはいかないようで、テンポが揺らぐのにはなかなかついていけないところがあったりするが、弦楽はだいたい2列目くらいまでの力量が優れていて、後列の子たちをうまく引っ張っているようであった。コーダにはいるところのテンポの上がった弦楽などは緊張感もあって素晴らしいアンサンブルを聴かせていた。最前列で聴いているので、管楽器は弱めにしか聞こえなかったが、ティンパニを含めた全体のダイナミックレンジが意外に大きく、かなり迫力のあるサウンドだったといえる。特筆すべきはバンダでステージ下手側の扉を開けて演奏されたトランペットのソロ。中学生の男の子だったらしいが、これが素晴らしく上手い。均質で豊かさのある音色でよく伸びる。どこかのプロのオーケストラより上手かったかも。

 2曲目は、尚佳さんによるブルッフの「ヴァイオリン協奏曲 第1番」。この曲のソロ・ヴァイオリンは、数あるヴァイオリン協奏曲の名曲たちの中では技術的には易しい方に入るらしい。おそらく、今日のステージ上にも、もう弾ける子がけっこういるかもしれない。そんな子たちの尊敬と憧れの視線を浴びて登場した尚佳さんの演奏は、これはもう別格といった感じ。私たち聴く側の者にとっては、協奏曲はソロの入りの部分で瞬間的に評価の大勢が決まってしまう。序奏での絞り出すような音の質感、重音で始まる第1主題のキレ味の鋭い立ち上がり、芯が強く鋼のようなしなやかさがある。もう初めからBrava!!である。第2主題は呼吸する息遣いが感じられるような旋律の歌わせ方が、新鮮な抒情性を描いていく。尚佳さんのヴァイオリンは常にオーケストラを引っ張るカタチで牽引していき、展開部のクライマックスではオーケストラが推進力のあるアンサンブルを聴かせた。その辺の流れもスムーズだ。短い再現部とカデンツァでは鋭さを増したソロ・ヴァイオリンが煌めく。
 続けて演奏される第2楽章はこの曲の白眉ともいうべき部分である。ドイツ・ロマン派の音楽ここにありといった感じだ。むしろこのような緩徐楽章の表現力の方にこそ、本当の技量が求められるところだろう。ゆっくりと歌わせることは難しい。尚佳さんの演奏は、息の長い旋律を、ひとつひとつの長い音符にもひとつひとつに異なる表情があり、フレーズ毎に優美に歌わせて行く。その音色は青春の息吹のような瑞々しさに加えて、1本しっかりとした芯が通っている。そのことで全体にもしっかりとした構造感が生まれてくる。刹那的なロマンティシズムではなくて、全体像も構築しているのである。一方、オーケストラ側も素晴らしい演奏で応えていた。ソロ・ヴァイオリンの主旋律に合わせて微妙に揺らぐテンポも、遅ければアンサンブルをきちんと整えることができる。しかもオーケストラ側も十分に抒情的に歌っているのである。この辺は指揮者の桑田 歩さんがチェリストということもあって、旋律の歌い回しがとても上手い。それがオーケストラ側にうまく伝わっているのだろう。
 第3楽章はオーケストラの序奏がダイナミックに走りだせば、尚佳さんのヴァイオリンがスタッカート気味にキレ味鋭く主題を打ち出してくる。時には突っ込み気味に、時には大らかに歌う。豊穣な音色と豊かな音量、そして何と言っても素晴らしいのは輝かしいばかりの生命力だ。何も恐れずに、何にも遠慮することなく、実に晴れ晴れとした演奏だ。それを受けるオーケストラもまたリズム感鋭く対話していく。オーケストラ側のダイナミックでリズムに乗った演奏はとても活き活きとしていて迫力があり、とても子供たちが演奏しているとは思えない。両者の「若さ」が持つエネルギーがぶつかったり、交差したり、融合したり・・・。ブルッフのヴァイオリン協奏曲は、このようなフレッシュで活きの良い演奏がピッタリの曲だ。これはBravo!!まちがいなし。

 尚佳さんのソロ・アンコールは、バッハの「ラルゴ」。そういえば、これまで彼女のバッハの無伴奏ものはあまり聴いたことがない。とても艶やかで美しい音色で、多声的な構造を端正な演奏で、しっかりと聴かせてくれた。アンコールでソロを弾く尚佳さんの背中を後ろ側から見つめる団員の子たちの真摯な眼差しを見ていると、そこには音楽が世代を超えて互いに影響し合いながら脈々と伝わっていくものなのだなァ、と感じてとても嬉しくなった。

 休憩を挟んで、後半はシューマンの「交響曲 第2番」。前半のブルッフといい、シューマンといい、今日のプログラムは徹底的にロマン派!!という感じだ。
 第1楽章は、序奏の冒頭こそ管楽器のアンサンブルが乱れたもののすぐに立ち直り、どんどん音が凝縮していくのはさすが。皆、音楽的感性が抜群だ。ソナタ形式の主部に入ると、ヴァイオリンを中心に弦楽アンサンブルが引き締まった音を聴かせてくる。同じリズム型が執拗に繰り返されるのはシューマンの特徴だが、それを単調にしなかったのがティンパニのリズム感が良かったからだろう。やや曖昧なまま盛り上がっていく展開部では、ダイナミックレンジも広く、音量も豊かに鳴り響かせていた。全体を貫く弾むようなリズムの応酬は、とくに管楽器のタイミングの取り方が難しそうだが、桑田さんが非常に分かりやすい指揮ぶりで、うまくコントロールしていた。ちょっと乱れてもすぐに修正されるのである。
 第2楽章はスケルツォ。ただし4分の2拍子。スケルツォ主題は速くて目まぐるしく走り続けるので、ヴァイオリンがとても忙しく大変そうである。第1ヴァイオリンの2列目までの4名からくっきりとした音が聴こえてくる。これが全員を引っ張っているようで、弦楽のアンサンブルはなかなか鋭い。最後まで乱れることなく、素晴らしい演奏だったと思う。また、2度目のトリオ部ではオーボエやフルートが質感の高い味わいのある音色を出していた。
 第3楽章は緩徐楽章で、まさにロマン派の佇まいである。弦楽の切なげな主題に始まり、それを受けるオーボエがとても美しい。ロンドの副主題のホルンもうまく決まった。桑田さんの指揮はやはり緩徐楽章での主題の歌わせ方が上手い。単調に陥ることなく、心地よく感じる自然なロマンティシズムで、オーケストラから豊かな感性を引き出しているようである。目をつぶって聴いていれば、どこかのプロ・オーケストラとあまり変わらない・・・・いや、演奏者の真っ直ぐな熱意のようなものは、このジュニアオケの方がよほど強く感じられるくらいだ。
 第4楽章は、またシューマンらしさ全開で、付点の付いた弾むようなリズムが繰り返される第1主題から無窮動敵に駆け巡るヴァイオリンも超難度だが、ここは練習も十分なのだろう、ピタリとしたアンサンブルを聴かせた。楽章の後半はあたかも第5楽章であるかのようにガラリと変わる。終結に向けてグングン盛り上がっていき、華々しい全合奏で幕を閉じる。このエネルギーが高揚していく感じが、実に若々しくて、素晴らしかった。この楽章に至っては、皆さんもう緊張感もすっかりなくなって、伸び伸びとした演奏になっていた。とにかく演奏が見事に音楽になっていたということ。これは団員の気持ちがひとつにまとまっている証拠で、桑田さんの指揮に対して皆の意識が集約しているのがよく伝わって来る。色々な意味で素晴らしく感動的な演奏だった。東京ジュニアオケの皆さん、Bravo!!

 アンコールはお馴染みの、ブラームスの「ハンガリー舞曲 第1番」。曲が始まったとたんにビックリ。分厚い弦楽の音圧が押し寄せて来て・・・・ナンなんだこの熱い感じ。プロ顔負けの素晴らしい演奏ではないか。

 というわけで、青木尚佳さんのロン=ティボー凱旋コンサートのつもりで聴きに来た東京ジュニアオケであったが、その演奏の素晴らしさに驚かされることばかりであった。細かなことを言ってしまえば、実際にはミスがあったり、アンサンブルが乱れたり、音が濁ったりと、完璧な演奏だったなどとはいえないのだが、ただ音楽に対するひたすら前向きの姿勢があり、それが伝わって来るだけに、十分に感動的な演奏だったと思えるのである。
 私は在京のプロのオーケストラはしばしば聴きに行っているし、海外のオーケストラの来日公演にもけっこう聴きに行っている。だからオーケストラの上手い・下手や、やる気のある・なしなどは聞き分けられるつもりでいる。今日の東京ジュニアオケの演奏はとても良かった。こういう演奏を聴くと、音楽というのは決して技術だけで成り立っているのではないということを、改めて認識した次第である。

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1 コメント

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歳月人を待たず? (木の芽春雄)
2015-04-06 18:04:35
尚佳さんは、「この子達と一緒に演奏していると、つくづく自分が歳を取ったものだと思う」としみじみと語っていたそうな。はい、彼女は未だ22歳です(笑)。
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